【第二部】第一章「ある兄弟の悲劇」



 これはある二人の兄弟の話。少年たちはとてもお腹が空いていた。十分に食事が食べられなかった。居心地の悪い家から抜け出そう!と言う兄の提案で、貯金箱に入っているお金を引き出してポケットに入れて、二人で夕暮れの中を歩く。少し心なしか、風が冷たかった。


 「にいちゃん、お腹空いたよう」


 「我慢しろ、今なんか買うと生活してけないだろ?」


 兄はポケットのお金を出して金額を確認する。とてもじゃないが、一週間生活できるかできないかの額しか持っていなかった。彼はしぶしぶ持っていた魚肉ソーセージを剥くと弟に手渡した。


 「ほら、食え」


 弟は泣きながら受け取り、言った。


 「うう、何で僕たちにはお母さんがいないの?寂しいよ、ひもじいよ」


 「お前、何言ってんだよ。あの酒飲み親父の家に帰りたいのか?」


 「……でも」


 「取りあえず歩くぞ」




 少し歩くと人のいない廃墟を見つけた。兄はそこを少し見まわして雨風凌げそうだと言って、上着を敷き、そこに弟を座らせる。弟はぐずぐず泣いていた。


 「おうち帰りたくないよ……」


 「俺もだよ。あんな親父のもとにいるなら帰らない方がマシだ」




**


 兄弟はその廃墟で一週間ほど過ごしていた。時々様子を見つつ、時々買い物に行っては夜、日が暮れる前に寝ていた。懐中電灯の電池を節約するために早めに寝ていた。夕暮れでやや見通しの悪い時間帯。


 「にいちゃん、ちょっとおしっこ行ってくる」


 「ああ。気を付けろよ」


 兄はうとうとまどろんでいて、幼い弟に付き添わずにそのまま横になって眠っていた。次の瞬間、悲鳴が上がる。


 「ぎゃああ!!たすけておにいちゃん!!」


 兄はハッと目を覚ますと、茂みから出てきた野犬に追われている幼い弟の姿があった。弟は必至で逃げる。兄は近くにあった廃材を持って必死に犬を追い払った。


 「ぐるる」


 「あっちいけ!あっちいけ!」


 野犬は様子を見ながら牽制し、兄の様子を見ている。次の瞬間、兄が大きく薙いで廃材が空を切った。そのまま兄は転び、野犬は弟の足首に噛み付いた。野犬は足首から離れなかったので、兄は力いっぱい野犬を殴りつけた。


 「ぎゃん!」


 野犬は悲鳴を上げてそのまま逃走していた。弟は恐怖のあまり気を失ってしまった。


 兄は必至で手当てをしたが、弟は足首の傷からばい菌が入り、そのまま熱を出して二、三日入院した。




**


 「ったく、どこ行ってたんだよ!迷惑かけやがって!家を出てったと思ったら、金かかることしかしねぇ」


 「……」


 「なんだよ、その目は。文句あんのか?」


 兄は父に激しくぶたれ、顔が腫れていた。どれもこれも、あの犬のせいだ。兄はぶつけようのない怒りを犬にぶつけていた。幸い、弟の方は生死の境を彷徨ったが、一命を取り留めた。死んでいた方がましだと思える生き地獄に兄弟は生きていた……。

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