第12話水泳

 家族にも男友達にも心を開かなかったし、通じ合わなかった。

 神にも仏にも祈らなかったし、信じる事が出来なかった。

 しかしソフィアには祈りを捧げ、信じる事が出来る。

 ソフィアには心を開ける。そして心が通じ合う事を願う。


「一限目は体育だ。男子生徒は長距離走。女子生徒は水泳。各自更衣室へ移動するように」


 担任教師が指示を出す。


「長距離走?」


「水泳?」


 生徒が騒然とする。

 主に男子生徒が。

 長距離走なんて嫌だ。

 女子の水着姿を見たい。

 そう思った。

 しかし、白人美少女の前で長距離走が嫌だとごねるのは見っとも無いし、水着姿を見たいと言うのは更に見っとも無い、と言うか恥ずかしい。

 担任教師に対する心の怨嗟が渦巻くが、給料で稼働する教員には怨嗟のような実態の無いものは些末な事だ。

 俺達は流されて生きて行くのか?

 俺達は大人達に操られて生きて行くのか?

 彼等が無力感と絶望感に打ちひしがれている中、一人の勇敢なる戦士が立ち上がった。

 勿論、その戦士とは山田直樹である。


「先生!男子生徒も水泳にしてください!!」


 立ち上がり意見を言った。

 担任教師は直樹をギロリと睨む。


「なんだぁ!?山田ぁ、お前、長距離走が嫌なんか?これだからゆとりはよぉ。それとも女子の水着姿が見てぇのかぁ!?」


 男子生徒たちは冷や汗をかいた。

 全くオブラートに包まず、ことごとく核心を突いてきやがる、と思った。


「長距離走は後でします。俺が見たいのはソフィアさんの水着姿だけです!!」


 直樹も全くオブラートに包まず、本音を突き付けた。


「な、直樹くん」


 ソフィアは頬を赤らめる。

 クラスメイト達もざわめく。


「先生!俺も後で長距離走します!だから俺も水泳に参加させて下さい!!」


 直樹に触発されて、他の男子生徒も声を上げ立ち上がる。


「そうだ!俺たちはゆとりじゃねえ!本気になれる事が今まで無かっただけだ!!俺も後で長距離走しますよ!!」


「俺も!!」


「俺も!!!」


 手塚治虫に触発されトキワ荘に集った伝説の漫画家たちのように。

 大友克弘に触発され新たな画風を模索した漫画家たちのように。

 鳥山明に触発されジャンプに集結した漫画家たちのように。

 ドラクエⅣの導かれし者たちのように。

 彼等は立ち上がり声を上げ、その意思は一つの形而下の概念へと昇華された。






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