第6話 講師との絆は、成長と比例する

 アヴィスが魔法学舎に入学してから4ヶ月後のある日のこと。彼は杖から炎を出すという、初心者用の魔法の練習を行っていた。

「炎出ろぉー、出てくれぇー。出てくれないとぉー、アヴィスくんが自信なくすー」

 アヴィスの杖を祈るように見つめながらルーチェが言う。アヴィスは大きくため息をつく。

「成功させる気、あるか? 集中できないんだが」

「ある! あるから! リラックスさせるための私の作戦だから!」

 任せて、と得意顔で腰に手をあてアヴィスを見上げるルーチェに、アヴィスはまた大きなため息をつく。彼の背後にはたくさんの見学者の姿があり、二人のやりとりを見て談笑している。

 魔法が使えない生徒の噂は学舎外にも広まった。彼を教える諦めが悪い魔法講師の噂も。その噂は他の魔法学舎で門前払いを受けた人々にも広まり、ルーチェ指名での個別指導入学者が増えた。

 いつしかルーチェとアヴィスの心の距離も縮まり、それは二人の会話からも見て取れるようになった。そんな二人の授業の様子はいつしか、ある意味での名物授業のようになっていた。

「頼む―、頼むよー」

 ルーチェがぶつぶつ言っているのを後目にアヴィスは呪文を唱えた。すると。

「ポスッ」

 軽い音がして、小さな炎が一つ飛び出てすぐに消えた。二人は顔を見合わせた。先に反応したのはルーチェだった。

「やった、ついにやった! 一瞬だったけど! できたっ!!」

 ルーチェはまるで自分のことのように喜び、茫然とするアヴィスの周りを飛び跳ねた。子どもたちも彼女と一緒にくるくる回る。

「やった、やった! 一瞬だったけど!」

「一瞬を強調するな」

 やっと声を絞り出すようにして言ったアヴィスの表情もどこか晴れやかであった。通りがかった他の魔法講師も

「たかが、一瞬炎が出たくらいで……」

 と小言を言いつつも、二人に声をかけて通り過ぎていく。

「これで旅行、参加できるね!」

 ひとしきり喜び終わったあと、ルーチェがアヴィスに言った。毎月、魔法が使えるようになった生徒を、旅行に連れて行くというイベントが学舎には存在した。

「いやーこのまま数年、参加できないんじゃないかと思ってたよー」

 ルーチェが冗談めかして言うとアヴィスはしかめっ面で、悪かったなと拗ねたような口調で言う。彼女はおかまいなしに大きく伸びをして、叫んだ。


「楽しみだなー、旅行! 久々にゆっくりするぞー」

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