ハンドクラフト部の部長、ノームの王始めました

くすだま琴

プロローグ

プロローグ

 お昼の鐘が町内中に鳴り響いている。


「先、戻るよー!」


 作業場の扉を後ろ手で閉めて、あたしはうーんと伸びをした。

 今は春休み。

 あたしは父ちゃんがやっている貴金属工房の手伝いをしていたところだった。

 いわゆるバイトってやつね。


 ロウ付けっていう作業で、ペンダントの石を留める枠の上部に、ぶら下げるための丸カンっていう金具を付ける地道な仕事なのよ。


 でもこのロウ付けができると、ハンドクラフトの幅が広がる。

 例えば、クレイシルバーでネコの頭のチャームを作ったとするでしょ。

 その首元にロウ付けで丸カンを付けて、ビーズをぶら下げれば首輪の飾りができたり。


 まず、丸カンを熱して、銀ロウとフラックスっていう銀と銀接着する粉を、をちょんちょんとつけて。

 次に耐火レンガの上に置いたチャームと丸カンをくっつけて置いて、接しているところをまた熱する。

 そうすると銀ロウが溶けて、チャームと丸カンが接着されるわけ。


 たったこれだけなんだけど、プロが作ったものと同じものができるんだよね。

 熱する道具は、ホームセンターで買えるバーベキューの薪なんかに火を着けたりするハンドバーナーでいいし、銀ロウもフラックスもネットで買えるし。


 フラックスは銀と銀をくっつけるお手伝いしてくれる物なんだけど、これを最後に金ブラシでこすって落として終了。


 道具的にも作業的にも難しいことはないけど、とにかく耐火レンガで囲って、火事に注意。



 そういえば、材料置き場にカボションカットのラピスラズリが置いてあったっけ。リングには大きいけどバングルにしたらステキそうな大きさの。


 父ちゃん、あれ一個くれないかな。

 あれがもらえたら、ハンドクラフト部の研究会用に、バングルを作ろう。そうしよう。


 地金じがねはやっぱりシルバーかな。うちには金もプラチナも材料があるけど、高いからなぁ。原価でもバイト代なくなっちゃうもんね。


 もうすっかりもらった気になって、どんなデザインにしようかな~なんて考えながら歩いていた。



 狭い庭を横切り、敷地内の家の玄関に向かうと、庭の砂利の上を何かが歩いていくのが見えた。


 黄緑色の小さい姿に一瞬、へび?! とすくんだけど、よく見ると――小人……?

 え? 小人?


 手のひらよりちょっと大きいくらいの小人が、なんかトコトコと庭の奥へと歩いている。洋服とお揃いの黄緑色の三角帽子からは白い髪の毛が見えている。


 ええ? なんなの?

 よく見ようと思って近づくと、小人はくるりと振り向いた。


 !!!!


 ぎくっ!! として立ち止まる。


 お互い顔を向かい合わせて立っている間を、風がひゅるりと吹き抜けていった。

 小人はそっと手を帽子にあて、被っていた黄緑色の帽子を脱いだ。

 すると、帽子の中から何かキラッとするものが落ちた。


 ――あ、落っこちる!!


 とっさに手を出すと、小人の姿は消えてなくなっていて、かわりにさっき帽子から落ちたものが、砂利の上でキラリと光っていた。


 なんだろう……?

 拾い上げて見てみると、カボションカットのガーネットのように見えた。


 ガーネットというのは石の名前ではなくグループ名なんだよね。で、その中にそれぞれの石の名前があるんだけど、この真紅は多分アルマンディンかな。


 その石を美しく見せる為の研磨技法。それが――。


「カーバンクル……? はじめて見た……」


 上面は丸く研磨され、底面は平らではなく少しくりぬかれている。

 輝きが無くなるほどの深い赤色のアルマンディンに、輝きを宿す為のカーバンクルという技法で仕上げられていた。

 陽の光にかざしてみるとくっきりと赤いのに澄んだ輝き。


 すごいキレイ……。


 突然、つまんでいたアルマンデインが強い光を放った。


 な、なに――――?!


 びっくりして石を手放した、その瞬間。

 周囲の景色は消え去り、あたしは暗い穴の中にダイブさせられていた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る