眠り姫JKだった俺の姉ちゃん

無月弟(無月蒼)

第1話

「お前ら、席に着け―」


 先生が教室に入ってくるなり発した一言で、それまでお喋りに花を咲かせてた生徒達はそれぞれの席へと着席する。

 そんな中元々自分の席へと座っていた俺、龍宮駿は頬杖をつきながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。


 高校二年生になってから二カ月が経ち、この窓から眺める景色もすっかり見慣れてしまった。だから何か珍しいものがあるわけでもないけど、それでも俺は視線を先生に向けることなく、無意味に窓の外を眺め続けている。そしてそんな俺の態度なんてお構いなしに、教壇に立った先生は朝の挨拶を始めていく

 いつもなら挨拶をして、今日も一日がんばりましょう的な事を言って、それで終わり。だけど、この日はいつもと違っていた。


「今日からこのクラスに、生徒が一人増える。皆仲良くするように」


 先生がそう言った瞬間、それまでぼんやりと話を聞いていた生徒達が途端にどよめき出す。


「それって、転校生ですか?」

「男子、女子?」


 高校では転校生なんて珍しい。それも六月と言う中途半端な時期。みんな首を傾げているみたいだけど、俺はノーリアクションのまま、窓の外に目をやり続けていた。


「皆静かに。別に転校生と言うわけでは無い。そいつはちょっと事情があって休学していたんだが、この度復学する事になった。まあ詳しい話は本人から聞くと言い。入って来い」


 先生がそう言うと、閉じられていた教室の戸が開いて、その人は入ってくる。途端に教室のあちこちから、主に女子の歓声が上がった。

 この反応からだいたい察しはつくだろう。入ってきたのは男子生徒、しかもかなりのイケメンだ。

 入ってきたその人はチョークをとると、黒板に自分の名前と、何やら余計な付属説明を書き始めた。


『桐生輝明 16歳(戸籍上は26歳)』


 再度教室中が騒めく中、皆の反応を見たその人はどこかおかしそうに笑みを浮かべながら口を開く。


「俺の名前は桐生輝明。ついこの間まで、コールドスリープで十年眠ってた。だから戸籍上はだいぶ年上だけど、まあ細かい事は気にしないでくれ」


 いや、気にするなって言われても。いきなりそんな事を言われても、やはりビックリしてしまうだろう。俺以外は。


 この時になってようやく、俺は窓の外から教室前方へと視線を移す。

 分かってるよ。今口上を述べたのが、俺の知っているあの人だって事くらい。ただあの人が自分のクラスメイトになるという事がどうにも複雑で、現実から目を背けていたのだけど、いつまでもこうしてはいられない。

 前を見るとそこにいたのは、やはり桐生輝明さん。自己紹介もしていたし、当然だよね。すると向こうもこっちに視線を送っていたらしく、目が合った。


「これからよろしく!」


 意味深な笑みを浮かべながら発せられた一言。それは何も、クラスのみんなに言った挨拶ではない。俺に向けられた言葉であるという事くらい、察しが付く。

 桐生さん。十年間コールドスリープしていたと言っていたけど、俺は眠りにつく前にこの人と会った事があって、よく知っている。今日からうちのクラスに復学してくることも事前に姉ちゃんに聞いて知っていたのだ。


 なぜうちの姉ちゃんが、復学の件を知っていたのかって?そりゃあ知ってて当然だよ。だって桐生輝明さんは、うちの姉ちゃん、龍宮棘26歳(戸籍上は40歳)の彼氏なのだから。

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