十五羽 ミコさんの正体見たり

 作戦、『堕ちた真血流堕アナを救え』。


 この名のもと、全てのパラダイスにいる美少女たちを集めることにした。


 ドクターマシロに連れられて、俺は、ナオちゃんのお風呂へ辿り着けた。もう少しで夕陽の時刻となっている。


「皆、大丈夫だったか?」


「勇者、佐助様。寂しかったです」


 ぴとっとくっつくな。俺は、べたべたしたの好きではないのだ。断って、女神ヒナギクを振り払った。しかし、指をくわえてこちらを見ている。怖いよ。女の人って、こんなんなの? お嫁さんを貰っていなくて平和だったよ。


「えーと。女神ヒナギク=ホーランドロップ、ユウキ=ホトくん、ナオ=ライオンラビちゃん、ドクターマシロ=ダッチは、揃ったな。あと一人、ミコ=ネザーランドさんはどうしたら来てくれるかな?」


 皆で、知恵を絞る。


「Aカップを気にしないで、いらっしゃいと、うさうさウインドウでお伝えするわ」


「余計に傷付くだろう!」


 女神ヒナギクは、又、指をくわえる。新しい、攻撃か?


「ボクのパラダイス定食を今日は、スペシャルエディションにしてあるよとお誘いする?」


「よっし、やってみてくれ。女神ヒナギクうさうさウインドウを開いてくれないか」


 ピッ――。うさうさパラダイス。うさうさパラダイス。


「あら? おかしいわ。通じていないわ」


「居留守かも知れないな。本来なら、俺が大樹様を通って灯台まで行けばいいのだが、真血流堕アナに危険が迫っていることを考えると難しいな」


 灯台で会った際に、伏し目がちにここを離れられないと呟いていたな。そうならば、俺が迎えに行ったとしても、理由を言って灯台から出ないのではないか。


「そもそも五人揃わないとならない理由があるの?」


「ええ、バストがミコ殿のAカップから女神ヒナギクのEカップまで要るのだよ」


 すました顔をして、嘘でもなさそうだ。


「あほらしい理由ですが、本当ですか。ドクターマシロ」


かなめのAカップは、ぜひともいて欲しい」


 どうやら、五人揃えないとならないのは、本当らしい。俺は、バストは嫌いではない。大きくても小さくても嫌いではない。形かな……。なんて、俺が恥ずかしがってどうする。


「ユウキくん、それは何?」


 お風呂場の奥から重たそうに運んで来た。


「蛇の目傘だよ。人数分ないと困るからね。今、配るよ」


 真血流堕アナを救うのに必要なのか。全く、不思議な島だよ。


「はい、佐助くんの傘は紫色に金色の円ね。神々しいなあ」


「お、おう。ありがとう」


 ゲスト仕様か、随分と派手と言うか高貴なのか。


「はい、ナオくん傘は薄茶色に白い円だよ」


「はい、ドクターマシロの傘は淡い橙色に赤い線さ」


「はい、女神ヒナギクの傘は勿論の濃い桃色に淡い桃色ね」


 ユウキくんは、三人に配ると、自分自身にも蛇の目傘を持った。


「はい、ボクの傘は白色。白地にサバのような青い模様なんだ。それから、ここに、ミコくんの分の朱色の地に赤い円がある蛇の目傘があるから、ボクが持っているよ」


「これは、真血流堕くんに渡す分、佐助くんが持っていて」


 そうか、真血流堕アナの分もいるのだな。丁寧に渡してくれた。優しいのだな。


「ありがとう。しっかりと持っているよ。ほ、ほう銀地に白抜きなのか。あいつ、実はお嬢様だから、似合うと思うよ」


 ◇◇◇


「えー、俺がミコさんを連れて来ますので、皆さんはここで待っていてください。夜になると思うから、ご飯をユウキくんからいただいて、ナオちゃんのお風呂へ入って、疲れていたら、寝てしまってもいいと思う」


 皆には、女性用脱衣所で馬蹄形ばていけいに座って貰った。


「女神ヒナギク=ホーランドロップ。頼りにしているから、皆をまとめてください」


「は、はあーん。やっぱり置いて行かれてしまうのね。いいわ、頬に祝福のCHUをさせて」


 俺は迫って来る女神ヒナギクを払いのけた。


「大丈夫です」


「いや」


「だめ」


「だんめ!」


「嫌だ!」


 二人で顔を突き合わせたら、頬に近付いて来たので、さっと避けた。


「では、行って来ます」


 俺は手を軽く振ったが、女神ヒナギクだけは、ぶんぶん振って来た。いつからうちの犬になったのかと問いたい。


 長い道のりに感じたが、何事も第一歩を踏まなければならない。玄関で靴を履くまでできれば、そこからは歩み続けられることのように。


 ミコさんとは長丁場になりそうだ。


 ミコさんの未来の瞳とやらは何だろうか。特殊な力だろうな。それで、動けないのか。灯台で一人寂しく過ごしているのなら、尚のこと皆とうさうさウインドウで話したりしてもいいと思うのだが。言葉も少なかったのは、彼女の美徳なのだろう。あれこれと言っても仕方がない。小柄な女性だったな。食も細そうだ。ユウキくんの美味しいご飯を食べて、元気になって欲しい。


 俺は、ゆっくりと、ミコさんのことを考えながら、大樹様を通って、犬歯の岩を目印に、もうケケー鳥も鳴き静まった中を抜ける。


「おお。これもガラパパパ諸島の景色の一つか」


 圧倒的な闇に灯台だけが灯っていた。あれが、あの光が、哀しみを湛えているように見える。


 下から、声を掛けよう。


「ミコさん。俺だ。本城佐助だよ。迎えに来たから、皆のいるナオちゃんのお風呂に行ってくれないか」


 闇夜を照らす光の中にぼんやりと何かが形作った。伏し目がちなミコさんの目と額にある朱印とおちょぼ口に見える。小さなはずの顔が、ずんずんと大きく投影されて行った。


 風が狭いところを吹き抜けるような音が、先程から続いている。俺は怖くないが、セイレーンがいるとしたら、まさに、これではないかと思えた。


 だが、ミコ=ネザーランドさんだ。まさか、俺の船、シンデレラを沈めたりしなかったと願うばかりだ。


「俺は、人としてミコさんが好きだ。恥ずかしがらないで、一緒に行こう」


 あり? 俺って口説いていないか?


「わらわは、動けぬ。動けぬのじゃ……」


「どうして? 俺はどうしてもキミを連れて行きたい」


 ああ! やはり、口説いている。


「理由を問うておるのか」


「そうだよ。何とか自由にしたいと思っている」


 ふ、普通にお友達だよな。でないと、東京の彼女に浮気してしまう。東京湾に沈むのには、まだ、早いよ。


「笑わないか?」


「何を?」


 おし黙ってしまった。


「ふふふ。ははは。ははははは!」


 んんー? あのおちょぼ口がサメのように大きく開いて行くとは? 俺って、食われるのか!


「ふはははー! 召し上がりたいのう。おぬしを」


「何だって?」


 本気で食べるのか。いや、これは脅しだ。ミコさんがそんな人には見えない。


「俺は、ミコさんから、羊皮紙から靴をいただいた。あの時程、感謝しなければならないと思ったことはないよ」


「ちゅぱっし。食べたいよう」


 打ち破らなければ。


「嘘だ! ミコさんは、優しく可愛らしい人だ」


「しゅしゅ。わらわは、一人のときに、人を召し上がりたくなるのじゃ。怖いじゃろうよ」


 騙されないぞ。俺は、拳に力を入れ、首を大きく振る。


「セイレーンではない。俺は本物の化け物を知っている。真血流堕アナを食べた化け物だ。あいつのことは、今でも許せないと思っている」


「ぐーるるる。わらわ以外におらぬ」


 分かった。ミコさんの気持ちが……。


「ミコ=ネザーランドさん。キミは、神官なのに、そのような姿になるのが恐ろしくなって来たのだね。昔はそんなことがなかったのだろう。その未来の瞳が狂わせてしまったのではないか」


「――ぐああああ。おのれ、おのれえ!」


 ミコさんの朱印に向かって、俺は叫んだ! キミの苦悶を癒すために。


「おつかれーしょん!」

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