うさちゃん彼女♡営業CHU

いすみ 静江

一うさ 美少女ばかりの不思議島

一羽 女神のCHU・CHU・CHU

 ――きゃっきゃうふふなんて世界に、俺は関係ないと思っていた。そんなウソみたいな話だ。


 ◇◇◇


「勇者、本城ほんじょう佐助さすけ様。私がついております。もう大丈夫ですわ」


 俺の顔の上に甘い香りの影が落ちる。どうやら寝ていたらしい。俺は、左目を前髪で隠しているせいか、少し見にくい。


「おえー。どこだここ。真血流堕まちるだアナか? それにしては、やけに優しい声だな」


 眩しい太陽にじりじりと焼かれる。いつから、砂浜に上がったんだ? 白い残念Tシャツに、短パンなものだから、熱がしみ入って来る。


「あなたは、伝説の勇者、本城佐助様ではございませんか?」


 はあ? きらきら女神の微笑みプライスレスが俺を覗き込んでいる。


「なーにが勇者だ。俺は海洋開拓者だぜ」


潰瘍かいよういたくてシャー?」


 ぶっ。思わず吹くだろう。どんなおフランス料理の名前だよ。海洋開拓者だっての。


「あのね、天然女神のおねーちゃん。俺のことを冒険家だと思ってくれていいよ」


ぼう喧嘩けんかですか」


 ノンノン。冒険家だっての。どういう耳しているのかな。


 それにしても、女神って白のフリフリビキニを着ていたっけ?


 バストが揺れる程大きいし、すらっとした脚線美にもくらっくらだな。


 ブラウンのツインテールに、ばっさばさのまつ毛と大きな瞳が清らかに前を見据え、きらきらした笑顔もナイス健康美だ。こりゃまた、ごちそうさまです。


「私は、女神ヒナギク=ホーランドロップと申します」


「俺は、本城佐助。女神の力で俺の名前まで分かるのかも知れないが、俺が打ち上げられるまでの話は分かるか?」


 女神ヒナギクは、ぽかんとしている。いや、おっとりしているのだろうか?


「常夏の砂浜に来るまでの話だが、真血流堕アナウンサーは打ち上げられなかったか? 俺の相棒とも言えるシンデレラのたった一人の仲間だ。こう、赤いメガネにぺったん属性、長い黒髪はお団子なんだが」


 ビキニ美少女を前にして、さっきまでの俺を思い出してしまった。ああ、航海に後悔していますよ。


 ◇◇◇


 ――真血流堕アナが、失恋して大切なものを失ったとき、俺は東京のうさぎを愛でる彼女にお金を支度しなければならなくなったときのことだ。

俺は酒の席で決意表明した。


三神みかみさん……。俺と航海にでないか? ガラパパパ諸島へ!」


「佐助先輩!」


 真血流堕アナは、ノリノリに泥酔してくれた。


「俺の冒険をナレーションしておくれ……」


 それから、俺は一人で造船した。古い木材を分けて貰い、一般的な甲板のあるものだ。

 偶には真血流堕アナから差し入れもあった。

 予定より遅くなったがとうとう完成だ。シンデレラと名付けて、航海の無事を祈る。

 時折、造船の進み具合まで実況してくれて、本当に見事なナレーションで応援して貰ったっけな。

 しかし、それも空しく悲鳴に変わってしまった。


 ――どれ位前のことだろう。航海するシンデレラに真血流堕アナウンサーの声がとどろいた時は既に遅かった。


「ぎゃー、佐助先輩! ガチャで引いたらナンパでしたって、ゲームかと思ったら本当に難破なんぱじゃないですか? 何ですかこのシンデレラの揺れは」


「ぎゃーぎゃー叫んだところでどうにもなるまい。泰然自若たいぜんじじゃくでな。サメ柄スーツの真血流堕アナ」


 俺は、激しい船酔いで、船外にコマセをまく五秒前だった。


「まあ、永遠の二十四歳が。小生意気な! ぎゃー」


「真血流堕アナ。ほーれ、歌おう! なーみは友達ー。るるる。仲良く波鬱なみうつー。オゲー」


 おおい、俺のシンデレラよ。海に栄養を与えただけだ。ふふふ。


「鬱の上に酔っておいでですね? ワインを内緒で減らしたのを知っていますよ!」


「仲良く波鬱ー。オゲー」


 どうしたものか。んー。キャプテン? 船長? どちらでもいいが、俺の天職だと思っている。それならば乗り切らなければ。このシンデレラは真血流堕アナと危険な荒波に巻かれている。先には、渦潮うずしおのようなものも見える。


「コマセじゃないですか。うぷぽ」


「ハローワークでいい。どこかにないか? 真血流堕アナよ」


 海洋に訪ねてみるよハローワーク。佐助の一句。


「就職難ですか!」


「仕事さえあれば、ばあさんにも厄介者扱いされなくて済んだのに」


 渦潮に助けを求めて飲み込まれ。又、佐助の一句な。うおおお。メリーゴーラウンドだああ!


「ま、まあ、その。佐助先輩は匂い立ついい男ですよ。そのラインでシャウト!」


「職種は? 何ができるかな」


 もういい。観覧車から行ってみよー。ぐるぐるぐるー。


「ホストでございますー。アレー。渦潮は回りますねー」


「なっ……。ホストだと? 永遠の二十四は見た目だけ。齢、四十一の俺には向かないが」


「おじさん言葉、アナウンサーの魔法で直して差し上げました。永遠の二十四歳でれっつらごー」


 そうだった。新宿にいじゅくのまいたけテレビで真血流堕アナと出逢ってから、俺は若さみなぎる男に徹底して教育された。


「オゲーは治りましたか?」


「いや。ぐ、ぐらぐらと来るな」


 船の操舵はどうなっているんだ。確かオートでガラパパパ諸島を目指していたはずだが。


「ヘイヘイヘイヘイ。ホストシャウト」


「オゲー。ノンノンホストシャウト」


 俺と真血流堕アナは、波を被りながら甲板を滑っている。


「おーい。オート操舵はどうなっている?」


「佐助先輩、手ぶら表記になってます」


 船よ。俺は四十一だからいい。真血流堕アナは、まだ二十二だぞ。ここで死ねないんだ。


「生きていたいですよね。佐助先輩。忘れて旅立ってしまったものがあると仰っていましたね」


「忘れてはいないさ。東京の彼女だ――。一人にしてしまったな」


 遠のきながら、いつものアレが聞こえた。どんな状況でもキメ台詞を忘れないのは、立派だな。三神真血流堕みかみ まちるだのアナウンサー魂だ。


「おつかれーしょん!」


 キメ台詞が二、三度こだましたかと思うと、俺は、気を失っていた。


 ◇◇◇


 ――真血流堕アナと手を繋いで、波から助かろうとしたのは覚えている。


「佐助様。勇者、佐助様。ここにいては日に焼けてしまいますわ」


 呆然としていた俺は、現実に引き戻された。


「俺は、渦潮に入ってしまったのか。女神ヒナギク=ホーランドロップよ。ここは天国か?」


「うふ。天国ではございませんわ。パラダイスと思ってくださいませ。それから、私のことは、ヒナギクとお呼びくださいませ。勇者、佐助様」


 女神ヒナギクは、勇者フェチか?


「俺は、ただの本城佐助だ」


 はつらつ健康美少女の女神ヒナギクも捨てがたいが、サメ柄スーツの真血流堕アナを探さないと。あいつも恩人だしな。


 俺は砂に横になったまま見ている。どこまでもどこまでも、海と砂浜が九十九里も弧を描いているようだ。あの霞んだ岬から、眺望できないだろうか?


 勇者業は、お断りだ。早く真血流堕アナと合流しよう。


「うお! な、何だ?」


「はい。先ずは上陸記念に、ヒナギクから祝福の――」


 ほんわかと膝枕にされたと思ったら、ブーケの香りで頬を包まれてしまうなんて。ふんふんふん。


 だだだ、大ショックです。心臓がバクバクですよ。


 次第に寄せる唇が俺の俺のく、ち、び、るがー。どっかーん!


 どこかから、音楽が流れる。


 CHUちゅっCHUちゅっCHUちゅっ

 CHU・CHU・CHU!


 いやはーん!


「ん……。全く! 俺のファーストキスなんですがー! 女神だったら、いいことと悪いことの区別をつけて欲しいな」


「あらイヤだわ。CHUちゅうはお嫌いですか? うさうさフォーリンラブが効かないのですね」


 ピッ――。うさうさパラダイス。うさうさパラダイス。


「あら、着メロですわ」


 女神ヒナギクは、ビキニの胸元に下げていたサングラスをかける。すると、誰かと話し始めた。

 交信を切るとサングラスのまま俺の方を向いた。


「浜に打ちあがった女性がいるらしいの。このサロンヒナギクから西へ参りましょう。ご一緒いたしますね」


「お、おう」


 俺は、波ではぐれた仲間の真血流堕アナを追った。


 このパラダイスは、何が起こるか分からない。それは、靴もない足元をよく見て歩くと感じられる。何故なら、砂浜に小さな貝一つもなかったからだ。

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