第2話
「大体の事情は分かったよ。それに私たちの目的が同じなら、別行動の理由もない。だよね、お姫様?」
パーンにエレナたちの目的について聞かされ、ファムがレイナにそう言った。レイナは少し考えているようだったが、すぐにファムへの返答を選んだ。
「まあ、確かにそうね。あとファム、お姫様呼びは禁止」
「じゃあ、この想区でカオステラーを調律するまでは一緒に行動、と。それでいいですか、レヴォルさんたち?」
「え、ああ……。うん、それで行こう」
いきなり名前を呼ばれて驚いたのか、レヴォルがしどろもどろになりながら答える。
伝説の巫女だとさんざんアリシアから聞かされてきたのでどう接していいのか分からないというのが正直なところだが、それを知る由もないシェイン達はきょとんと首をかしげている。
「そんなに緊張しなくても―」
「エクス?」
レヴォルを落ち着けようとしたエクスの言葉を遮ったのは、エクスによく聞き覚えのある声だった。
だがそんなはずはないと。仮に彼女だったとしても、それは自分の知る彼女ではないと。
そう言い聞かせて振り向くと、そこには青髪の美しい少女が顔を輝かせていた。
「シンデレラ⁉ どうして―」
「エクス!」
シンデレラと呼ばれた少女はそのままこちらに駆け寄ってきて、エクスに抱きつく。
「シンデレ―っ!」
「エクス、エクス……。元気そうで良かった、いきなりいなくなるから心配したのよ」
エクスはしばらく戸惑うように彼女を見つめ、それから自分の腕の中で小さく震える幼なじみの髪をそっと撫でた。
エクスの姿を知り、名を呼び、抱き着いた彼女は確かにエクスの幼なじみのシンデレラだ。
「うん……。ごめんね、エラ。何も言わずに出て行って……心配かけて」
自分の幼なじみのシンデレラ。この想区の主役のシンデレラ。初めて恋をしたシンデレラ。
胸がいっぱいになるのを感じていると、ふとシンデレラが呟く。
「ねえ、エクス。ここに居る人たちはみんな……エクスがここを出て行ってからできたお友達?」
そう言われ、エクスはみんなが居たことを思い出す。見てみると、レイナは険しい表情、タオ、シェインはニヤニヤと笑い、ファムはなぜか目をそらし、再編の魔女一行は呆気にとられたようにエクスとシンデレラを見ていた。
「ちっ、違うんだ、みんな! これは……シ、シンデレラは、ただの幼なじみで……」
「ねえ、レヴォル。幼なじみってあんなに仲の良いものだっけ?」
「……どうだろう。ただの幼なじみ……には見えないけど」
それを聞いてエクスは慌ててシンデレラを引きはがす。それから調律の巫女一行、再編の魔女一行のみんなに聞こえるように言った。
「シンデレラが居て、しかも僕のことを知ってるってことは、ここは間違いなく僕の故郷、シンデレラの想区だよ」
「分かってるわよ、そんなことくらい」
自信満々に言ったエクスに、レイナは妙に不機嫌に答える。
「……なんか、巫女さん妙に怒ってねーか?」
「あれが姉御なりの愛情表現なんですよ」
「……っ! あんた……」
独り言のつもりで呟いたにも関わらず、ティムにシェインからの返答があり、驚いて思わず距離をとる。
「‘‘あんた” じゃないです。シェインにはシェインという名前があるので、そっちで呼んでくれませんか?」
「まあまあ、慣れるまではちょっとくらい多めに見てやれよ、シェイン」
「……タオ兄がそう言うなら」
特別ですよ、と言ってシェインはレイナたちの方へ行ってしまった。
「よう、シム……だったか?」
「ティム、だ」
訂正すると、タオが豪快に笑いながらティムの肩に腕を回した。
「そっか、悪い悪い。ところでシェインのこと、やけに警戒してるみたいだな」
「……警戒してるわけじゃねえよ。ただ、どう接していいか分からないだけだ」
「……オレには難しいことはよく分かんねえけど、あいつはただ人見知りなだけで悪いやつじゃないからな」
ティムの耳元で小声で呟くと、タオはにっこりと笑ってみせ、シェインと同じようにレイナたちの方へ行ってしまった。
「分かってんだよ……んなことは」
ティムはため息まじりに消え入りそうな声でそっと吐き出した。
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