第9話スポンサー


~現実 某ホテルのロビー~


「おう!ひさしぶりだな!カズヨシ!元気にしてたか?」


「はい!おかげさまで!いつも使っていただき、ありがとうございます!」


サングラスの男が、すこし怯えた様子で返事をした。


「そうか、ワシはここで会議があるんだ!またな、引き続き頼むぞ!」


「は、はい!ありがとうございます」


サングラスの男と軽い談笑を終え、男はエレベーターで最上階に向かった。


そこへサングラスの男の後輩がやってくる。


「先輩、今のオッサン誰なんですか?なんだか、偉そうでしたけど?」


「ば、馬鹿野郎!金持ちだよ!それも桁外れのな!俺達が出ている、番組のスポンサー様だ!これだけは言っておく、あの人達には絶対逆らうなよ!消されるぞ!」


サングラスの男の話を聞き、後輩は首をひねっている。


「そんなの、都市伝説でしょ!先輩、本気でそんなの信じてるんですか?」


後輩の言葉を聞き、頭を軽く小突くサングラスの男。


「馬鹿野郎が!俺は若い頃から、あの人達に逆らった人達が、惨めな道に落とされるのを見てきたんだ!

それぐらいならまだいいが、実際にビルから突き落とされて、死んだ先輩もいた!都市伝説と思っててもいい、タブーとされる事には首を突っ込みすぎるなよ!お前の最近できた彼女とかも、お前とまとめて消されるぞ!」


「・・・・・はい、はい」


後輩は手を広げて、首をかしげている。



「な、名前はなんて言うんですか!今のオッサン?」


後輩はサングラスの男に尋ねる。


「あの人はRの一族の現当主、ライフさんだ・・・」


そう言うとサングラスの男は、ホテルのロビーから足早に自動ドアへ向かった。


~ホテル 最上階 会議室 ~



「おお、これはこれは!みんな、多忙な中、足を運んでいただきありがとう!それじゃ本題の『アジェンダ』について語り合おう!」


男の号令で皆は席につき、会議が始まった。

広々とした会議室の中には、Rに連なる親類たちが駆け付けていた。

土地を持たずに生活してきた彼らは、世界中にその情報網を持っていた。

そして当主や家族が万が一不幸に見舞われても、ほかのRの親類たちの中から、また新たな当主が選ばれる事になる。


「それではまず、軽くご挨拶から!改めて、集まってくれてありがとう!初めての者もいるかと思う、ワシがRの当主をしているライフ・R・トルーマン(命取男)だ!死屍死屍!

弟からは『選民主義の権化』と呼ばれている!死屍死屍!」


ライフは穏やかな笑顔を見せた。

会議室はおしゃれな円卓が置かれ、広さは20人ほど収容できる。

各座席に来場者達が立体ホログラムで映し出されている。



「さぁ!早速ビジネスの話に入らせてもらうよ!経過はどうだい?みんな世界人口削減計画は順調かい!死屍死屍!」


ライフの言葉を聞き、秘書の男が近づく。


「それではライフ様、最初にジョブ・ガチャの経過資料からご覧ください!」


「ああ」


秘書は持っていた小型装置を操作する。

次の瞬間、座席に備え付けの円卓から資料が表示される。

座席に座っている一族はその数値に目を通している。

秘書が資料の説明をしていく。


「これが現在の参加人数です!約3億ほどですが、現在進行形でプレイヤーが増え続けています。次はハード・ソフト、そして関連商品の売上です。それから世界の動画配信によるスポンサー広告売上です。

最後の数値がゲーム内でのアイテム課金額と、プレイヤーから徴収している手数料になります」


資料を見ながら、皆、満足そうにうなずいている。


「この、プレイヤーの年齢層はどうなっている?」


Rの一族の一人が、秘書に尋ねる。


「は!一番多いのが10代の30%、次いで20代・30代が同数で20%づつ、40代が8%、50代が10%、最後60代以上が12%となっています。今年で3年目ですので、ジョブ・ガチャも世間に浸透したようです。

ひとつ面白い現象と致しましては、年々60代以上のプレイヤーが増えていることですね。死期が近まり、『*真人*』システムを使い、ゲームの中で生き続ける為だと考えられます」


「その老人達の持っている財産はどうなっている」


ライフが中央に空いていた上座の席へ座る。

そして資料のホログラムをみて、秘書に尋ねる。


「は!財産を架空財団に寄付する文章へ署名させています!従わなかった者は、マイチップから洗脳効果の電波をだして、サインさせています。

それでも従わない老人には、マイチップから脳波を焼き尽くすマイクロウェーブを出し、殺害、その後死体を回収して豚の餌にしています!死んだ老人の財産は架空財団で洗浄後、皆さんの元へ入ってくる仕組みです。」



「そうか、そうか!素晴らしい!ゴミを減らしつつ、金も略奪する!ん~いい仕事ぶりだ!死屍死屍!

・・・頑張るお前にワシからプレゼントだ!捉えられている家族を一名解放してやろうではないか!死屍死屍!」


「は!ありがとうございます!ライフ様!」


喜んでいる秘書は、ライフに近づく。

そしてライフの影を足で踏みつけた。


「・・・あ?貴様ぁ~~!!!・・・ごらぁ!!!」


ライフは席から立ち、秘書の肩に高速で手刀を放った。



「が、ガッ!」


叫び声を上げ、その場に座り込む秘書。

肩の傷を見ると、なんと腕が切断されていた。

傷口からは嘘のように血が噴き出ている。

ライフの右手の手刀部分がナイフのように金属化している。


「ふん!」


ライフの掛け声とともに、金属化していた部分が元に戻る。

そして肩を手で止血している秘書に、ライフが近づく。

肩の傷口に右手の掌底部分を近づけるライフ。

次の瞬間掌底から高温の熱が発せられる。


『ジュ、ジュ、ジュ!』


肉の焼ける音と匂いが、会議室中に立ち込める。


「ちぃ、いつも言ってるだろ!ワシの影は踏むなよと!ワシも好きでお前をこんな目に合わせたんじゃないぞ?な、大丈夫か?」


「は、はい!もったいないお言葉です!私の不注意で・・・すみません。もう傷口は大丈夫です。わざわざ、焼いて止血していただきありがとうございます」


そう言うと涙を流して喜んでいる秘書。

血で汚れた服のまま、一本腕がとれたまま司会を続ける。


「オホン!すまんな、皆!ちょっと見苦しい所を見られたな!死屍死屍!・・・さて、業績の良いジョブ・ステの本体価格を、来年はもっと下げようとワシは思うんだが・・・皆はどう思う?」


「異議なし!異議なし!」

「プレイヤーからもっと、絞り取るために最善の事だと思うわ、流石!ライフ様!」

「素晴らしい!その商売と人殺しに本気な所・・・いいね!当主様!」


周りを取り囲む、親族たちから拍手を受けるライフ。

嬉しそうに照れている。


「そうだろう、そうだろう!金になる、若い者達もゲーム内で死んでいるんだろう?」


ライフが秘書に尋ねる。


「は!ダンジョン内のバトルや、フィールドで3回死んだ若い者達の実際の体は、使える臓器は移植に回し、残りは腐食歩人族や動物園の肉食獣達の餌にしています。

これで綺麗に命が循環していきます!ライフ様のおっしゃる通り、ジョブ・ステの本体価格を下げれば、さらに良い金づるの人間達が世界中からゲーム内にやってくるでしょう」


「そうかそうか!無能な豚どもは4拍子揃っておるからな!調べない・考えない・選択しない・責任をとらない!その癖、甘い言葉にはすぐに引っかかる!

大した実力もないのに、死屍死屍!本当に愚かしい!豚だ!代理人たちの熱弁ですぐに、その気になるしな!見ていて滑稽すぎるだろ!死屍死屍!」


ライフの言葉を聞き、秘書がさらに話を続ける。


「それに、ゲーム内の商業地区・工業地区で働いている者達が、新たに生み出した技術もライフ様の所有の権利となります。あいつ等は働くことだけで、一日が終わっている事に気が付かないようです。

現実もゲームの中もたいして変わらない事に気付く者も、ほぼいません!」


「そうかそうか!こりゃ愉快だ!死屍死屍!この先ずっと神に選ばれたワシ達の世界が続いていくだろう!死屍死屍!」


ライフが豪快に笑っている。

その時!



「テメェらなんぞに神は必要ないだろ!このイカレ野郎!テメェらに必要なのは死神だけだ!ライフ!」


「・・・あ?誰だぁ~~!!!・・・ごらぁ!!!」


怒りに震えライフが、声の方へ振り向く。

ライフの後ろにある、窓ガラスにフードを被った男が映っている。

窓ガラスの男が口を開く。


「はっ!相変わらず、頭のおかしい選民思考だな!どんな頭してんだ?お前ら!」


「き、貴様は!ドクターS・・・いや、たしか本当の名前は最高博士だったな!?死屍死屍!」


ライフがドクターSの姿を見て呟いた。


「ああ、その節はどうも!ま、お前みたいな奴に、研究費用を出してもらっていたと思うと、虫唾が走るぜ!ライフ」


「はっ、死人が何を言っている!与えてやった恩を忘れる、豚が!すこしぐらい頭が良いぐらいで、ワシらにたてつくから死ぬことになるんだ!死屍死屍!」


ライフが会議を中断して、ドクターSと話している。


「俺の死から、このゲームは始まったんだ!それが俺の目的でもあったからな!だが、オーガナイザーとしては、お前らの不正アクセスには困ってるんだ!」


「ふ、お前のゲームから利権はもう奪ってある!後は、ゲームのバックドア(裏口)を見つければお前を完全に消去できるんだがな!ま、それも時間の問題だ!死屍死屍!」


二人とも余裕の笑みで笑っている。



「ふ、じゃあな、ライフ!いつも見てるぜ?監視してるのはお前らだけだと思うなよ?」


「小癪なっ!早くお前を完全に、この世から消してやる!楽しみにしていろ!死屍死屍!」


話が終わりドクターSはガラスの中から姿を消した。


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