　漢文大系本、第3巻、74ページ。

　西暦260年。

　◯魏主髦、見威権日去、不勝其忿曰、「司馬昭之心、路人所知也。」率殿中宿衛蒼頭官僮、鼓譟出欲誅昭。昭之党賈充入、与魏主戦。成済抽戈、刺魏主髦、殞于車下、追廃為庶人。僭位七年、改元者二、曰、正元、甘露。司馬昭迎立常道郷公璜。是為魏元帝。常道郷公元皇帝、初名璜、燕王宇之子、操之孫也。年十五即位。改名奐。

　◯魏主髦（ばう）、威権の日〻（ひび）に去るを見、其の忿（いか）りに勝（た）へずして曰はく、「司馬昭の心は、路人も知る所なり」と。殿中の宿衛・蒼頭・官僮を率ゐ、鼓譟して出でて昭を誅せんと欲す。昭の党の賈充入り、魏主と戦ふ。成済、戈（くわ）を抽（ひ）き、魏主髦（ばう）を刺す。車の下に殞（いん）す。追つて廃して庶人と為す。位を僭すること七年、改元する者二、曰はく、正元、甘露。司馬昭、常道郷公璜を迎立す。是を魏の元帝と為す。常道郷公元皇帝、初め璜（くわう）と名づく。燕王宇の子、操の孫なり。年十五にして位に即く。名を奐（くわん）と改む。

　◯魏主の曹（そう）髦（ぼう）は、威権が日々に失われてゆくのを目にして、怒りを我慢できず、「司馬昭の心は、道行く人も知っている」と言った（司馬昭が帝位を奪おうとしているのは明白であるとの意）。そして宮中の警備員や下男や給仕係を率い、太鼓を打ち鳴らして出て行き、司馬昭を倒そうとした。司馬昭の党の賈充が宮中にはいり、魏主と戦った。成済は戈（ほこ）を引き、魏主曹（そう）髦（ぼう）を刺した。かれは車のもとで死んだ。曹（そう）髦（ぼう）の位は後から廃せられて庶人とされてしまった。7年のあいだ帝位を僭称し、元号を二度改めていた。それぞれ正元、甘露という。司馬昭は、常道郷公の曹璜を迎えて即位させた。これを魏の元帝という。常道郷公元皇帝は、もともと璜（こう）という名であった。燕王の曹宇の子で、曹操の孫である。15歳で即位し、名を奐（かん）と改めた。