第13回 出師の表

 漢文大系本、第3巻、66~68ページ。

 西暦227年。

 諸葛亮の「すいひよう」として知られる文章のダイジェストである。「出」は「でる」のとき音シュツ、「だす」のとき音スイ。


 ◯漢丞相亮、率諸軍北伐魏。臨発、上疏曰、「今天下三分、益州疲弊。此危急存亡之秋也。宜開張聖聴、不宜塞忠諫之路。宮中府中倶為一体、陟罰臧否、不宜異同。若有作姦犯科、及忠善者、宜付有司、論其刑賞、以昭平明之治。親賢臣、遠小人、此先漢所以興隆也。親小人、遠賢臣、此後漢所以傾頽也。臣本布衣、躬畊南陽、苟全性命於乱世、不求聞達於諸侯。先帝不以臣卑賤、猥自枉屈、三顧臣於草廬之中、諮臣以当世之事。由是感激、許先帝以駆馳。先帝知臣謹慎、臨崩寄以大事。受命以来、夙夜憂懼、恐付託不効、以傷先帝之明。故五月渡瀘、深入不毛。今南方已定、兵甲已足。当奨率三軍、北定中原、興復漢室、還于旧都。此臣所以報先帝而忠陛下之職分也。」遂屯漢中。


 ◯漢のじようしやう亮、諸軍をひきゐて、北のかたつ。発するに臨み、上疏して曰はく、「今、天下三分して、えき州疲弊す。れ危急存亡のときなり。よろしく聖聴を開張すべく、よろしくちゆうかんみちを塞ぐべからず。宮中・府中、ともに一体とり、ざうちよくばつし、よろしく異同すべからず。かんくわおかし、及び忠善の者有らば、よろしくいうに付し、其の刑賞を論ぜしめ、以て平明の治をあきらかにすべし。賢臣に親しみ、小人を遠ざくるは、れ先漢の興隆せる所以ゆゑんなり。小人に親しみ、賢臣を遠ざくるは、れ後漢のけいたいせる所以ゆゑんなり。臣、みづから南陽にたがやし、いやしくも性命を乱世にまつたうし、聞達を諸侯に求めず。先帝、臣の卑賤を以てせず、みだりに自らわうくつし、三たび臣をさうの中にかへりみ、臣にはかるに当世の事を以てす。これりて感激し、先帝に許すにを以てす。先帝、臣の謹慎を知り、崩ずるに臨みてするに大事を以てす。命を受けて以来、しゆくいうし、たくかうあらずして、以て先帝の明を傷つくることを恐る。故に五月、を渡り、深く不毛に入る。今、南方すでに定まり、へいかふすでに足る。まさに三軍をすすひきゐ、北のかた中原を定め、漢室を興復し、旧都に還るべし。此れ臣の先帝にむくいて陛下に忠なる所以ゆゑんの職分なり」と。遂に漢中にとんす。


 ◯漢のじようしようの諸葛亮は、各地の軍を率いて、北進して魏を伐った。兵を出すに臨んで、皇帝に次のように上奏した。「今、天下は三国に分かれ、その中でもえきしゆうしよく)は疲弊しています。これは危急存亡の時です。意見を聞く対象を広げるべきであり、忠実ないさめの道を塞ぐべきではありません。後宮(私邸)も朝廷(官邸)も、ともに一体となって、善悪への賞罰を下し、扱いに違いがあってはいけません。もし悪事をはたらいたり法律を犯したりする者がいれば、または忠実な善人がいれば、役人に引き渡し、刑罰や恩賞を論じさせて、安らかで明るい治世を確かなものにするべきです。賢臣を近づけ、小人を遠ざけたのが、前漢が興った理由です。小人を近づけ、賢臣を遠ざけたのが、後漢が衰退した理由です。わたくしは、もともと庶民であり、南陽の地で自ら耕作し、乱世にあってとりあえずの生命を全うし、諸侯に知られて出世することを求めませんでした。しかし先帝は、わたくしの身分の低いことを気になさらず、本来足を運ぶべきでないところへもつたいなくもご自分でいらして、わたくしを三度まであばら屋の中にお尋ねになり、わたくしに今の天下の事をご相談になりました。そのために感激し、先帝のために駆け回ることにいたしました。先帝は、わたくしの真面目さを評価してくださり、崩御のときに臨んで、わたくしに国家の大事を任せてくださいました。その使命を受けてからは、朝早くから夜遅くまで心配事は尽きず、わたくしに任せたがなくては、先帝の明徳を傷つけるのではないかと恐れています。ですから五月には、すいを渡り、深く南方の文化果つる地に進みました。今や、南方も平定して、兵力も十分です。全軍を率いて進み、北進して中原を平定し、漢朝の皇室を立てなおし、昔の都に帰りましょう。これこそ、わたくしが先帝のご恩に報い、陛下に忠義を尽くすための仕事です。」そうして漢中に陣営を張った。

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