いつか出逢ったあなた 10th

ヒカリ

1

「いい式だったな。」


 りくがグラスを揺らしながらつぶやいた。


「ああ。」



 今日は、知花ちはなかみさんの結婚式だった。


 俺と陸は、なんて事ない会話が弾んで。

 事務所で行われた二次会の後、二人で三次会に繰り出している。



「それにしても…おまえ、バカだよな。」


 ふいに、陸が鼻で笑った。


「何。」


「知花のことだよ。」


「……あ?」


「結構マジだったクセに。」


 陸の言葉に、俺は苦笑い。


「…神さんには、かなわない。」


「まあなー…そりゃ、俺でも自信ねえや。」


「陸、気付いてたのか?」


「何を。」


「俺が、知花のこと…」


「気付いてたさ。」


「……」


 陸は…俺の親友であり、SHE'S-HE'Sしーず ひーずのバンドメンバー。

 それ以前に…俺の想い人でもあった。



 桜花学園の中等部三年の途中でやって来た、見た目が派手で調子のいい転校生。

 それが陸だった。

 その見た目に反して、意外に真面目。

 驚くほど頭がいいのに、それを鼻にかけない人のいい所に好感が持てた。


 なぜ…そんな人気者の陸が、周りに多く群がった輩ではなく…

 遠巻きにその姿を眺めてた俺を友人に選んだのか。

 それは、今でも謎だ。


「一緒に帰ろうぜ」


 そう誘われた時、動揺したし…

 赤くなってしまったのを覚えている。



「それにしても…SHE'S-HE'Sのメンバーが全員揃って活動を始めて五年か。早いな」


 グラスを揺らす陸が、どこか遠くを眺めるようにしてつぶやいた。


 ふいに…陸が知花にスカウトされた頃の事を思い出す。




「俺、音楽屋でスカウトされた」


 大学の食堂で、陸が鼻で笑いながら言った。


「…は?スカウト?」


 それを聞いた時、俺はてっきり…モデルかタレントか…だと思った。

 陸は老若男女、誰もが認める色男だ。


「高校生の女の子に、バンド組まないかって」


「あ。」


 そこで…ピンと来た。

 俺は俺で、幼馴染の七生聖子から。


「光史ー、一緒にやんない?」


 と、しつこく誘われてたからだ。

 友達と二人でメンバーを探してる。と。



「黒髪の背の高い女?」


「黒髪に眼鏡の普通身長の女」


 …て事は…聖子ではなく、聖子の友達の方か。

 俺はまだその友達とやらには、お目にかかった事がない。



「で、なんて答えたんだよ」


「ん?まあ…一応礼儀として、合わせてみなきゃ何ともって答えたけど…」


 ふっ。

 俺は陸のこういう所が好きだ。

 意に沿わないなら、すぐに断ってもいいものを。

 きっと、何万分の一でも可能性があるなら。とでも思ったのかもしれない。



「でも、ルックスは何とも言えない感じの子だったなー」


 聖子の親友って聞いただけで勝手に美形を想像してた俺は、その言葉に若干ガッカリはした。

 それは、見た目のいい女と出会いたいとかじゃなくて。

 聖子が親友と呼ぶぐらいだから…完璧を想像したのかもしれない。

 俺から見ると、幼馴染のよしみを除けても、聖子はいい女だ。

 外見も中身も。



「で、おまえは幼馴染に誘われてんだろ?」


「ああ。あいつとは昔っから一緒にギター弾いたり色々やってたからな…まあ、音楽センスに間違いはない」


「見た目は?」


「…そこかよ…」


 俺は目を細める。


「カッコいい系の女だよ」


「おーう…俺の好みは可愛い系だな…」


「バンドだぜ?好みは関係ねーだろ」


「やる気にプラスされねーかな」



 まだ、聖子と知花とバンドを組むとは決まってなかった頃は…

 そんな会話もしていたのに。


 初スタジオの時。

 確かに、陸の言う通り…何とも言えない感じの知花を見て、心の中で小さく笑った気がする。

 聖子の親友?と。


 似合わない眼鏡。

 重たそうな髪の毛。

 余計なお世話だが、どうにかならないものか。とも。



 だが…歌を聴いて、どうでも良くなった。

 それは陸も同じだったようだ。

 気が付いたら、手を差し出していた。

 この子のために叩きたい。

 本気でそう思った。


 そして、その後…知花の重たそうな髪の毛がウィッグで。

 似合わない眼鏡も変装のためと知って。

 その…素顔の知花に出会った俺達は…たぶん、同じように思ったはずだ。


『可愛い』と。


 その時すでに、知花は神さんのものだったとも知らず。



「SHE'S-HE'Sが始動して、メンバーと一緒にいる時間が増えた。なんつーか…俺はマジでみんなを家族みてーに思ってるんだよな…」


 相変わらず遠い目をしている陸に苦笑いしながら、勝手にグラスを合わせる。

 俺も同じだ。と言わんばかりに。



「そう言えば、最近聖子がイライラしてるように見える」


「そうか?」


「ああ。朝霧カウンセリング室は開催されてないのか?」


「何だよ、それ」


「以前、聖子が『光史んちに愚痴吐きに行って来る』っつって、ビール買い込んで帰ってたけど?」


「あー…俺が家を出てからはなくなったな」


「実はあいつも知花と同じぐらいに溜め込む奴だし、たまには聞いてやれよ?」


「……そうだな」


 一瞬ドキッとした。

 もしや、聖子が俺にしか打ち明けていないあの事を…陸は気付いてる…?

 いや…まさかな。



「あー、知花と神さんの幸せ見てたら、俺も女欲しーとか思っちまった」


「ははっ。おまえはいつもだろ?」


 俺の言葉に陸は『間違いない』と小さくつぶやいて。


「よし、今夜は新しい恋に出会いに行くぞ」


 そう言って席を立った。


「おー…久しぶりだな」


 正直…陸と出会うまでナンパなんてした事がなかった。

 そして、成功率100%の陸にあやかる形で、俺もいい思いをさせてもらっている。


「光史、まだ飲めんのかよ」


「もう少しならいける」


「じゃ、行くか」


 何気にハイテンションで次の店に向かった。

 そしてそこで陸が女の子と出て行ったところまでは覚えてる。

 そのあと…俺は…

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