起床(きしょう)

 メル・アイヴィーが目覚めたのは、地球――日本なる地――の屋敷だった。


「ん……。また、あの夢を見ていたのですね」


 メルが呟きながらベッドから起き、カーテンを開く。



 そこには、灰色の天幕くもと降りしきる雪があった。

 その少し前には雨が降っていたようで、幾筋もの線が窓に刻まれていた。



「どうあっても、過去とは……」


 夢の内容を思い出し、涙を流す。


 そこに三度、ノックの音が響いた。


「おはよう、メル」

「おはようございます、主様あるじさま


 屋敷に住む、若い男だ。年は二十代前半と言った所だろう。




 聞けばこの男、幼子の時に先代の屋敷のあるじである老夫婦に拾われ、養子となってこの屋敷で過ごしたのだとか。

 メルの来る一年前に老夫婦は天寿を全うし、結果、男は屋敷の主となったと言う。


「今日は天気のせいか、気落ちするねえ」

「そうですね、主様。ですが……」

「何だい?」


 メルは息を吸い込むと、歌うように答えた。



「美しい、です」



「そうかい。やっぱり君も、そう思うんだね」


 男は納得した様子で頷く。


「それはさておき、朝食を用意してある。大好物のプリンもあるよ」

「本当ですか!?」

本当ほんと本当ほんと


 はしゃぐメルを先導する為に、男がメルの部屋を出たのであった。

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