ファンタジーかくあるべし

細かい小道具や、料理、農作物、家の構造にその土地の歴史とそこから派生した習慣や思想、そしてそこに棲まう人々。
この物語の世界観には、まるで筆者の夢見里 龍さんがまるで実際にその世界を長い年月をかけて観測してきたかのような説得力があります。

情景描写の精細さもその強い説得力に一役買っています。
吹き込む空気の甲高い音。慈悲も悪意もなくただ降り積もる雪の持つ力。そして黄金色の陽光と、それを受けた者の表情。
瞼を閉じればありありとその情景が思い浮かぶような文章は、それだけでほぅと息を漏らしてしまいそうなほどに耽美です。

時計の針が何周もし、陽が何度も沈んでは昇り、人の世では改革が続き、足は幾度も踏み出され、季節は巡り続けた。それ程の長い長い時間の一部の物語が、この季節殺しであると感じます。
この物語は幻想譚であり、とある世界の歴史書でもあり、その世界を観測した者の日記でもあります。それはファンタジーと呼ぶにはあまりにも濃密な在り方で、だからこそこの作品は至上のファンタジーたりえる。

ファンタジーとはこうでありたい。心底そう思える作品でした。

その他のおすすめレビュー

茂木英世さんの他のおすすめレビュー35