シゲルソンの探検記

一八九三年十月四日

 スーダンのハルツームから南フランスのモンペリエへ向かう途上、僕はあえて遠回りをして、トランシルヴァニアに寄り道をした。

 ヘルマンシュタットを望む山中の湖畔、ひっそりと存在する洞窟に城があり、そこには悪魔が住んでいるのだという。トランシルヴァニアに伝わる古い伝承で、そこはスコロマンスと呼ばれている。悪魔は生徒を十名集めて、魔術の秘奥義を授けてくれるが、生徒のうち一人だけは卒業させてもらえず、スコロマンスに残って悪魔の副官をしなければならないのだそうだ。

 悪魔は竜に乗って空を飛び、嵐を起こす。晴れていてほしいなら、ヘルマンシュタット湖に石を投げ込んではいけない。湖底で眠っている竜が目覚めてしまい、雷を降らせてしまうからだ。

 先月、英国でミリオンセラーを記録したミナ・ハーカー夫人の小説『吸血鬼ドラキュラ』にも、スコロマンスの名が登場する。僕がここを訪れてみようと思ったキッカケのひとつだ。

 しかし山奥に隠れた湖を発見できたものの、洞窟は崩落してしまって、入り口が完全にふさがっていた。湖にいくつも石を投げ込んでもみたが、嵐になることも、ましてや竜が現れることもなかった。

 湖畔はおだやかな雰囲気で、時間が止まっているかのようにゆったりと流れていた。そんな静かな場所に、十名分の墓が並んでいた。墓碑を読んでみると、どれも若くして死んだ乙女のものだとわかった。全員二年前の同じ日に亡くなったらしい。彼女たちの身に起きた悲劇を想像すると、僕は世の無情を感じるのだった。

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