いつかの伝言板

古物が集積された

墓場のようなビルの前

フェンスにもたれて

剥げた手足を

褪せた顔を

晒しながら

途方に

暮れて

きみは空を斜めに

見つめている


いつか駅にいたきみ

もうなにも書き込まれる

ことなく、雨、雨、雨だ


いまは雨、懐かしいきみの隣

でフェンスにもたれ、たわんだ

フェンスの分だけ和らぐ気持ち

いまはひとりだ、きみもひとりか

明日は廃棄か、それとも朽ちるまで

ぼくと変わらないね、耳をあてると

冷たくてつめたくて

ぼくらふたり

雨ざらし


ポケベルも携帯もなかったから

きみに暗号を託していた日々

フェンスが少しずつ二人を隔てて

すっかり忘れられてしまった八月の

朝からきみに会うことは

なくなった、最後の暗号

謝りたかった


待ち合わせはないから

一緒に空を見上げよう

いまは雨、もう晴れた

冬の虹が滲んでるよ


放たれた鳥は帰ってはこないから

もうすこしだけ空を斜めにみていよう

足元の水たまりに最後の雨粒が落ちた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る