どうやら異世界“から”転生してきたらしいんだけど!?

美元貴音

第1話 邂逅

 目覚ましの音にゆっくりと目を開ける。そこは見慣れた天井で、勿論のこと俺の部屋。物語のような目を覚ましたら森の中でしたとか、赤ちゃんでしたとか、知らない天井だったりはしない。至って普通の現実。だというのに、俺にはこの現実こそが異世界だと思うことがあるのだ。


 白銀 星夜、私立刻流高等学校二年生。どこにでもいる男子学生、と言いたいところだが、残念ながらそうじゃない。髪の色が銀色で、瞳の色が青色、極めつけは色白の肌と日本人離れしている容姿。お蔭で小学生の時はその容姿で弄られていた。別段嫌な目に遭ったことはないが、初見の人はみんな外国人と間違える。両親はどちらも日本人の容姿で、所謂覚醒遺伝の俺の容姿に関しては、どこの血が入っているのかわからないと答えられた。どうやらうちの家系は複雑なようだ。


 さて、何故俺が現実こそが異世界と思うようになったか。それはいつからか見るようになった夢のせいだ。夢の中の俺は……何と言うかとある王国のお姫様で、周りには紅い髪の勇者、茶髪の戦士、翠の髪の賢者、金髪の僧侶、蒼い髪の魔法使いがいた。彼らは俺を囲み泣いているのだ。どうやら俺は、いやお姫様は地面に倒れているらしい。しかも胸辺りから血が出ている状況、それも死の淵にいるようだ。その姿を泣きながら見つめる彼らと、少し離れたところでこちらを見つめる紫色の髪をした全身黒尽くめの仮面で顔を隠した存在。お姫様を拐った張本人である魔王。その魔王も、仮面の奥で泣いているのが俺にはわかる。ここにいるみんながお姫様を慕っていた。それは今の状況が物語っている。何かを話しているのだろう勇者の男が、お姫様の手を握る。しかし、こちらからは握り返せない。言葉も発せない。そうして、ゆっくりと瞼が閉じられていき、そこでいつも目が覚める。

 

「また、あの夢か」

 

 どうしてあんな夢を見るのかもわからないけど、考えても仕方ない。とりあえず起きるか。

 

「ん?」

 

 そして体を起こしてから左手に違和感があった。こう、何か柔らかいものに挟まれているような。

 

「……またか」

 

 布団を捲ると、そこには俺と同じような銀髪の、小柄な美少女が俺の左手を抱き締めながら寝ていた。まるで大切なものを離さないとでも言うかのように。

 

「美月、朝だよ美月。ほら、起きないと」

 

 名前を呼び、体を揺する。そうしてゆっくりと目を覚ました美月は、こちらを見てからにっこりと微笑む。

 

「おはよう、兄さん」

 

「あぁ、おはよう」

 

 白銀 美月。俺と同じ私立刻流高等学校に通う一年生。そして、俺の従妹でもある。家が隣同士のため、こうやって勝手に俺が寝ているベッドに侵入してくる。懐いてくれるのは嬉しいが、異性である俺のベッドに侵入するのはいただけない。だが、年頃の娘がこんなことをしてはいけないと何度注意しても直らない。そればかりか、美月の両親である伯父さん叔母さんはその行為を微笑ましく思っているらしい。お願いだから止めさせてくれないだろうか。

 

「美月、何度も言っているよね。俺のベッドに潜り込むのは止めてくれって。君ももう高校一年生なんだから」

 

 そうやって嗜めるも、いつもこう返される。

 

「兄さん、私は兄さんを本当の兄のように慕っています。だから、妹が兄に甘えているだけなのですから何の問題もないと思いますよ?」

 

「なら、そろそろ兄離れしてくれないかな?」

 

「兄さんは私が嫌いですか?」

 

 ぐっ、いつもこうやって上目遣いで否定出来ない問いを投げ掛けてくるんだ。どうしたって勝てない。

 

「嫌いじゃないよ、当たり前だろ」

 

「では良いじゃないですか。私は大好きな兄さんの温もりに包まれて幸せ。兄さんは小柄ながらも胸が大きく、いつもウェルカムな妹の体を堪能できて幸せ。まさにwinwinな関係じゃないですか」

 

 どうしてこうなっちゃったんだろう? 我が従妹殿は俺を誑かす魔性の女になってしまった。そしてどことなく馬鹿っぽい言い方は一体どこから仕入れてきたんだ。いや、きっと叔母さんからだな。

 

 

 

 いつもの朝のやり取り(従妹からの誘惑)を終え、身支度を整え学校に向かう。家から出るときはいつも両親に加え、叔父さんと叔母さんからもいってらっしゃいと言われる。チラッと叔母さんの方を見ると、サムズアップしていた。そして、美月もサムズアップしていた。叔父さんは穏やかに笑っていた。うん、学校行こう。

 

 美月と二人でのんびりと歩きながら刻流高校へ向かう。歩いて二十分とすぐ近くにあるこの高校は、それなりに高い偏差値と、どでかい校舎と運動場、温水プールなどの施設が入るほど敷地がとても広く、所謂、金持ちの坊っちゃんやお嬢様達富裕層が通うような学校である。そんな高校に通う俺達も、富裕層の一員だったりするけど。

 勿論、富裕層だけではなく、奨学金制度で入ってくる一般家庭の生徒もいる。特に奨学金制度で入ってくる生徒は優秀な人が多いらしい、特待生ってやつだ。今年の生徒会長も実は特待生の一人で、正直刻流高校には勿体ないとまで言われるくらい優秀らしい。俺にはそうは見えないんだけどね。

 

「では兄さん、また後で」

 

 校舎の入口で美月と別れ、自分のクラスへと向かう。廊下でクラスメイトや友達と挨拶しながら進んでいたら、反対側から見覚えの無い女子生徒が歩いてきた。転校生かなと思いながらすれ違ったとき――

 

「やっと、見つけた」

 

 そんな呟きが聞こえた。

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