幸せになれない青春の終わり。

主人公は十六歳の男子高校生。

彼の近所には、母親から虐待を受けている十四歳の少女が住んでいます。長年の虐待により、彼女は洗脳にも等しい束縛を母親から受けています。児童相談所もその他の公共機関も当てになりません。ゆえに主人公は、700万円の結納金を彼女の母親に支払うことを条件として彼女と結婚することを決意します。

しかし主人公は苦悩します――自分は700万円でヒロインを買っただけなのではないか――それは人身売買と何も変わりはないのではないかと。ましてやヒロインは、長年の虐待によって他人に従順な性格となってしまっています。つまり、ヒロインを娶ったあとは、自分が母親の代わりに彼女を束縛してしまうのではないか――そのような悩みもまた抱えています。

それどころか、主人公には思いを寄せる女性が別にいるのです。

そのような事情があるために、主人公はヒロインと幸せになる気はありません。結婚してヒロインを母親の呪縛から解放し、自立した人格のある普通の少女として育て上げたあとは、彼女が自分と離婚するのを待とうと考えています。

言うまでもなく、この正義感は非常に独りよがりです。そんな歪んだ決意の元に現れたのは、「闇の決意」を持つ者に異能力を与える存在・ハデスでした。

この物語は、男子高校生が二人の少女から思いを寄せられるハーレム展開であると言えるかもしれません。しかし、主人公は上記のとおり、ヒロインのうち一人を愛してはいけないという歪んだ決意を抱えています。この決意のイビツさが、分かり合えているようで分かり合えていない、微妙な関係を登場人物たちのあいだに作り出しています。

過酷な状況に置かれた人々の心情と、そんな中で展開される熱いバトル。やがて主人公の歪んだ決意は、胸が締まるような意外な展開とともに、二人のヒロインのあいだにまでヒズミを生み出します。

幸せになれない主人公とヒロインとの関係――その青春の終わりへと向かってゆくような物語でした。

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