人はつくる――ものを、いのちを。いのちはうむ――あいを、こころを。

破壊のためだけに作られた生体機巧「ヴォストーク」――人の形をしていても命令に従うのみで学習能力はあれど心などない、いわば武器。

その一つとして作られた「黒猫」が、今作のヒロインです。

命を下されるまま目標の殺戮と破壊に従事する彼女は、無い心を痛めることなくそれが存在意義と認識していたのですが、己の創造主である平賀博士の置かれる状況が大きく転じたことを機に、徐々に変化を見せていきます。

ヴォストークの学習能力が我々人間の想像を大きく上回ったせいか?
それとも、黒猫の身に僅かながら与えられた「血」のせいか?

理由は誰にもわかりません。
しかし、彼女には確かに機巧の範疇を超えた意識が芽生え、破壊しか知らぬ身で戦う道を選ぶのです――「何としても守る」という、誰の命令でもない己自身の意志で。

いのちなきものにうまれた、こころ。

我々人間にも本当にあるのか、何処に存在しているのかわからない、目に見えず触れられない、不確かだけれど確かな何か。
彼女のそれが熱量と質量を伴って、自分の「こころ」に迫り抱き込み掴み掛かり、お前は生きているのかと強く訴えかけられるような心地を覚えました。

痛みも悲しみも苦しみも、生きてこそ。

普段自覚することなく当たり前に抱いている「こころ」を大きく揺さぶられる作品でした!

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