第10話

いつから彼女のことを一人の女性として意識するようになったのだろうか?

10年前に初めて出会った頃のファラはかわいい妹でしかなかったのだが、成長していく姿を間近で見ているうちに、その輝きに目が離せなくなっていた。


帝国内でも有数の名家でもあるジャルディード直系の姫君だけあって、彼女には早くから数多くの縁談が寄せられていた。

長である彼女の祖父を筆頭にファラは一族から溺愛されているのもあって、それらは尽く跳ねのけられるのは分かっていたが、それでも日増しに増えていく求婚者の数に私は焦りを覚えた。


「ファラを妻に迎えたい」


ファラの両親と長である祖父にそう伝えたのは3年前の秋だった。収穫祭の後、身内だけの宴の席でのことだった。

居候の身でしかも死んだことになっているのだから、最初は当然、断られた。それでも私は必死に食い下がった。そしてファラが成人を迎えてから改めて彼女に求婚し、それで了承を得られれば認めてもらえることとなった。もちろん、私達の革命の成功が前提となっている。


出立前に慌ただしく求婚したので、ファラは状況を理解できずに混乱していた。ザイドがばかげた勅命を持ち出してこなければ、先に私の素性を明かしてきちんと説明したうえで彼女に求婚できたのだが仕方ない。ともかく今は一刻でも早くジャルディードに帰り着くことが先決だった。




ジャルディードとの境界に設けられている関所はもぬけの殻だった。アルマース勢に押し入られてまだそれほど時間が経っていないのだろう。争った形跡が色濃く残っている。それを目の当たりにした私は馬速をさらに上げて長の館を目指した。


ほどなくして長の館が見えてきた。いつもであれば、馬がのんびりと草を食む様子を子供達が眺めている牧歌的な光景が広がっているのだが、今はアルマースの私兵が館を取り囲み、怒号が飛び交い騒然となっている。


「バースィル!」


鋭く命じると、彼は自ら先頭に立ってアルマースの兵に突っ込んでいく。突然現れた私達に浮足立った私兵達は、抵抗する間もなく無力化させられ、そして一歩遅れて私が館に到着した時には制圧は完了していた。


「離せ!」

「ファラ逃げろ!」


そこへ館の玄関が乱暴に開き、負傷したファラの兄達がアルマースの私兵に連れ出されてきた。それをすかさず襲撃して従兄弟達を開放すると、私は今まさに修羅場と化した館の中へ足を踏み入れた。


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