ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる

プロローグ

 なっ!?


 玄関を開けてすぐ、オレの視界に飛び込んで来たのは緑。

 それも酷く薄汚れた深緑ふかみどり

 正確には緑の肌をした醜悪な小人……いわゆるゴブリンだ。


 オレも大いに面食らったが、あちらも同様に驚いた様子で、グゲグゲと意味の分からない言葉(?)を発しつつ眼を剥いて固まっている。


 お互いに驚愕の表情を浮かべ、咄嗟に身動きが取れずに居たが、それでも先に我に帰ったのは幸運にもオレの方だった。

 とにもかくにも考えるよりも先に前蹴り。汚いし臭いしで、恐らく無意識に距離を離したかったんだろうオレは、ゴブリンの鳩尾みぞおち辺りにキックをお見舞いし、狙い通りに彼我の距離を稼いでやった。

 たたらを踏んでゴブリンが後ろに倒れそうになりながらも、こらえようとして頑張っている間に、オレは玄関の横に置いて有った雪かき用のスコップを構え、ゴブリンを牽制する。


 しばらくにらみ合いが続いたが、冷静になればなるほど、意味が分からない。


 ゴブリンを見たことが無いからじゃないかって?

 いやいや、今どきゴブリン見たことない大人も珍しいよ。

 何せ、世界中にダンジョンが発生してから、もう既に20年が経っているんだ。

 テレビの映像や、ネットの動画は元より、ダンジョン探索が本職じゃなくとも、週末やなんかにダンジョンに潜った経験の有るヤツなら、それこそ掃いて捨てるほど居るご時世だ。

 オレも学生の時には随分と潜っていたし、今でも小遣い稼ぎ程度には、ダンジョンを利用している。

 じゃあ何故、オレが今さらゴブリン風情に驚いているか……それは……ゴブリンがダンジョンの外に居るから、そこに尽きる。

 ダンジョンの魔物……いわゆるモンスターには絶対の法則として、ダンジョンの外に出ないという特性が有り、それは世間でも既に常識になっている。

 第一、ウチのすぐ近所にもダンジョンが有るので、もしモンスターが気軽にダンジョンから外出するようなら、そもそもこのあたりには住んでいない。

 しかし現実に目の前にゴブリンが居る。

 一度こうやって同等以上の態勢で向き合ってしまえば、小学校中学年程度の身長と膂力りょりょくしか持たないゴブリン相手なら、今のオレ(スコップ装備、普段着姿)でも十分に渡り合える。

 そういうわけで既に脅威にもならないのだが、なんでここに居るのかという疑問ばかりが、グルグルと頭の中を支配して、具体的な行動(ゴブリンを倒す、いったん逃走する、助けを呼ぶ、家族に注意促すなど……)を出来ずにいた。

 そう……まさにフリーズ中。

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