第41話 魔王様と魔王の正体

「さて、これで首謀者も分かったわね。あとは魔王様の体を見つけるだけ!」


 ルリハはうんうんと頷いた。

 レノルもうんうんと頷く。


「そうですね魔王様。早く貴方の体の残りの部分が見つかるといいのですが」


「え?」


 ルリハがピタリと立ち止まる。


「……あ」


 レノルは俺とルリハの顔を交互に見て「しまった」という顔をした。


「魔王様? 誰が」


 ルリハの顔が見る見るうちに曇っていく。

 レノルは俺の耳元て囁いた。


「……魔王様、もしかして、まだ魔王様の正体を知らせてないのですか?」


「ああ」


「そんな。女子寮の潜入の時も今回もずっと手伝ってくれていたので、てっきりもう話してあるとばかり」


 俺は大きなため息をついた。ルリハは俺とレノルの顔を交互に見やる


「ど、どういうことよ!? まさかとは思うけど……そ、そう言えば、セリも貴方のことを魔物だって」


 ルリハの体がワナワナと震える。事態は何となく理解したけど、認めたくない、そんな表情だ。


「ごめん。実は俺がまお……」


「わーっ、わーっ! ちょ、ちょっと待って! 嘘よね!? それ以上言わないで!!」


 ルリハが頭を抱えてうずくまる。

 レノルはあっけらかんとした顔で言った。


「いかにも、この方が魔王様ですよ。訳あって子供の姿になっていますが」


「レノル!!」


 俺はレノルをたしなめた。

 ルリハの方を見ると、真っ青な顔で「そんな……嘘よ」「私の魔王様が……」とブツブツ呟いている。


「……ごめん。ずっと黙ってたけど、実はそういう訳なんだ」


 俺はルリハにこれまでの事情を全て話した。話しているうちに、ルリハの気持ちも落ち着いてきたようで、段々と顔色も良くなってきた。


「そう。まさかあなたが魔王だったなんて」


 ふくれっ面をするルリハ。


「何で黙ってたのよ。私たち仲間なのよ」


「ごめんね、ルリハ。ビックリしたでしょ。でも、僕はこの学園で普通に学校生活を送りたかっただけで、君たちに危害を加えるつもりは――」


「うん、分かってるわ。イメージとすこーーし違ってビックリはしたけど、マオがそんな悪意があってこの学園に来たようには見えないもの。とりあえず……」


「とりあえず?」


 俺がキョトンとしていると、ルリハはずいと俺に迫った。


「認知しなさい!」


「は!?」


「あなたがお父さんよ。認知して!」


「いや、違う! ちょっと待て、僕は父親じゃない。誰か別の男じゃないのか!?」


「酷いわ! 貴方しか父親はいないのよ!」


 俺とルリハが言い合っていると、そのやり取りを見ていたレノルの顔が曇る。


「えーっと、魔王様、これは一体」


「一体も何も、俺は何も知ら……ぐぁっ!?」


 レノルは真っ青な顔で俺の肩を掴んだ。


「魔王様、してしまったことには責任を取らなくてはいけませんよ」


 いつになく真剣な表情を浮かべるレノル。

 ……あれ? レノル、これ何か勘違いしてないか?


「そうよ、認知して!」


「魔王様が、こんな小さな女性に手を出すロリコンだったなんて!! しかもすでに子供まで……私は悲しいです!!」


 誤解だっ!!


「ち、ちがう!」


「そうじゃないわよ! 私が魔王の娘なの!」


「それも違う!」


 俺はルリハの顔をグイと掴み、じっと目を見つめた。


「いいか、ルリハ。もしお前が俺の娘なら、お前は半分魔物ってことになる。俺の魅了が効くはずだっ」


「えっ、えっ、ちょっとやだ……何よもう」


 ルリハは魔物でもないはずなのに、顔を真っ赤にして目をそらした。その顔を見て、なぜだか俺も照れてしまう。


 レノルは呆れたような目で俺を見やった。


「ちょっと、人前でイチャイチャするのはやめてもらえます? とりあえず、お腹の子のことは私も協力しますからとりあえず認知しまょう」


「違う!!」


「そうよ、大体私とマオは親子なんだから。イチャイチャだなんて、近親相姦だわ!」


 もう、訳が分からないぞ!!


「はぁ」


 俺は肩を落とした。違うんだってば。色々と違う。





 色々と誤解を解いた俺たちは、寮に帰ることにした。


「いやー、久々に主従決闘なんかして疲れたな」


「お疲れ様です。でも良かったじゃないですか、このパーティーにはアタッカーが足りないですし、彼女が加わればピッタリですね」


「まぁな。しかしこんな体になってもまだ魅了スキルが生きてると思わなかった」


「そりゃあ、生まれながらのスキルですから、普通の魔法とは違います」


 レノルの仮住まいであるクザサ先生の家が見えてきた。

 相変わらずクザサ先生は退院できないので、レノルはその間にクザサ先生の家に住まわせてもらっているのだ。


「それでは」


 レノルが帰ろうとしたので、俺はがっしりと法衣を掴んだ。


「……レノル」


 俺はじっとレノルの目を見た。


「な、なんです?」


 レノルは警戒したように後ずさりした。


「3万ゴールド貸し」


「魔王様、私の精神異常耐性はMAXです」


 真顔で言い放つレノル。


「ちぇっ。あ、でもレノルは社会人だからローン組めるじゃん?」


「何ですか。人に魅了をかけてローン組ませようとしてるんですか。怖い」


 提案すると、恐ろしいものでも見るような顔でレノルが後ずさりした。


「違うんだよ。これには深いわけがあってだな」


「いいです、もう聞きたくないです」


 そそくさと帰ろうとするレノル。


「違うんだよ、実は武器屋に邪王神滅剣が売られていたんだよ」


 俺が言うと、レノルはピタリと足を止めた。


「は? 何でこんな所に」


「いや、知らないけど」


 ふむ、とレノルは考え込む。


「……仕方ないですね、見るだけですよ」


「やった!」


 俺はレノルを連れ、急いで武器屋へと向かった。やった。ついに邪王神滅剣をこの手に。が――


「あれ? 確かにここにあったのに」


 店の中のどこを探しても邪王神滅剣の姿はない。


「あっ、すみません、ここにあった剣――」


 尋ねると、店員はニコニコしながら教えてくれる。


「ああ、ここにあった剣なら売れたよ?」


「えっ!?」


 一体誰が邪王神滅剣を買ったんだよ!?


「おや、残念でしたね、魔王様」


「そんな馬鹿な」


 ガックリと肩を落としながら帰路につく。

 寮の上には、いつの間にかポッカリと大きな紅い満月が浮かんでいる。


「俺の邪王神滅剣……どこに行ったんだ」


 とりあえず、腹いせにレノルに別の短剣は買ってもらったが、胸のモヤモヤは晴れない。


 あれは俺の剣なのに、一体どこの誰が買ったというのだ!?


 いつのまにか辺りは肌寒くなってきて、辺りには霧が立ち込めている。


 霧が満月の光を乱反射して、辺りが赤く染まって見えた。


 ――ピコン。


 そこへ投影機にメッセージが入る。


「ん、誰だ?」


 見ると、メッセージは生徒会長からだ。一体何だよ、こんな時に。


「おやおや、魔王様ときたら他にも親しく連絡を取り合う女性が」


「違うよ。そんなんじゃないから」


 どうせカナリス絡みだろ。そう思ってメッセージを開く。



 >【生徒会長】悪いが少しの間カナリスを借りる。今日は遅くなるかもしれん。貴様はくれぐれも寮から出ないように。



「……何だ?」


 急いで返事をする。


 【マオ】一体どうしたんです? 二人でどこへ行くんです?


 しばらくしてから返事があった。



>【生徒会長】心配するな。生徒会全員でこれから大きい仕事をする。貴様はし



 メッセージは途中で切れている。


「……えっ?」



 【マオ】何かあったんですか?


 【マオ】一体何があったんです? 新魔王軍がらみですか?



 メッセージを送ってみるも、会長から返事はない。


 おかしい。いつもはメッセージを送れば0.2秒くらいで返事が返ってくるのに。


 一体何が起こっている?

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