第六刀 初任務であります!!

 それは7時間目の国語の授業中に突然やって来た。


 ビービー


 サイレンが鳴り、アナウンスがかかった。


「怨獣出現。雪組七番隊、八番隊出動してください。場所は東京都千代田区。クラス3が三体。現在警察が怨獣を引き付けている。詳しい位置情報は各自アプリで確かめるように。以上」


「ということで七番隊と八番隊の生徒は行ってらっしゃい。怪我に気をつけてね。じゃあ、他の人は漢字のテスト直しをやってね」


 小松先生が送り出しの言葉をかけてくれた。


「ほら、行きますよ」


「ああ」


 外のロッカーから黒鉄・零くろがね・ゼロ夢幻むげんを取り出し、ホルダーに通す。この前、怨獣出現時の対応を聞きに基地に行った時に貰った黒のプロテクターを腕に装着する。


「やっぱり少し重いな……」


「それも慣れですよ。早く外に行かないと。隊長が待ってます」


 俺達は昇降口に向かい靴に履き替える。


 凛子は革靴ではなくスニーカーに履き替える。


 校門前の広場にやって来るとサイレン付きのキャラバンが2台停車しておりその中に隊長がシートベルトをして待っていた。


「ほら、君達が最後だから早く乗って!!詳しい事は車内で話す!!」


 俺達はキャラバンの後部座席に乗り込み、スライドドアを閉めた。


「シートベルトしてください。飛ばしますから」


「貴女は?」


 シートベルトを締め、運転席の女性に聞く。


「私は討伐隊専属のドライバーです。皆さんを安全かつ迅速に怨獣の下まで送り届けます。名前等は言うなと上からの指示なので、そこはご承知下さい。皆さんと必要以上に関わるなと言われたので。飛ばすので気をつけて下さいね」


 グオーンと音を立てて急発進するキャラバンの中で八番隊は作戦会議をしていた。


「まずは菊田が入ったことについてだけど。菊田は万能型なんだけど基本は攻撃に徹するからよろしく。菊田も攻撃専門で行って」


「分かりました」


「あと、適当に皆自己紹介をして」


御堂 恋みどう れん、俺は前衛で攻撃な。次」


軽井沢 晴乃かるいざわ あきのです。基本的に後衛の支援を勤めさせて頂いてますわ。次の方どうぞ」


「菊田君はもう、知っていると思いますが鶴見 凛子です。前衛の攻撃をするのでよろしくお願いします。次の人」


「はいは~い!!娑驅真 美琉さくま みるです!主な役職は後衛のヒーラーです!菊田君とは同じ学年だよ!」


「菊田でいい」


「分かった!最後に隊長!」


「作戦会議のはずなんだが自己紹介で終わりそうじゃないか。んーどうしよう。まあ、改めて雪組七番隊隊長神影 結みかげ ゆい、後衛で守りを担当をする。」


全員の自己紹介が終わったところで隊長が


「で、今回出現したのはクラス3の怨獣が三体。言うまでもなく通常の獣型だ。だからといって油断はしないように。分かったな」


「「「了解!!」」」


「まもなく到着しますので出撃の準備を」


「了解です」


 隊長がそう言った瞬間車がキィィィィィと音を立てて急停車した。

 全員急いでシートベルトを外し、扉をスライドさせて外に出る。


「抜刀!!怨獣討伐開始!!」


 前衛が3体中の1体に標的を定める。


 怨獣は熊のような形をしていた。


「先制攻撃で仕留めるぞ!」



「紅蓮ノ太刀!!」


 御堂さんのスキルは一言で表すなら真っ赤に燃え盛る炎だった。刀に纏った炎が怨獣を焼き、焦げた匂いがする。しかし、あまりダメージは無いのか暴れだし御堂さんを軽々と吹き飛ばした。御堂さんはゴロゴロと地面を転がりビルの柱にぶつかった。

「痛ってえ。やってくれるじゃねえか」


「場所が悪いですね。広い場所まで誘導しましょう。菊田くん、なにかないですか?」


「なんかない?って言われてもなぁ……」


 誘導系のスキルは特に知らない。


 百花繚乱・零で道を作るかと思ったがまず出せる刀の量がたりない事に気づく。


防壁シールド!!」

「!?」

 怨獣が自分に向かって突進してくるのを半透明の壁が受け止め跳ね返す。


「考え事は後にして、今は早くどこか広い所に誘導しないと!」


訳がわからないので適当にポンと頭に浮かんだのを発動させる。


「氷結!」


「グォ!?」

 運がいいのか氷は怨獣の足を覆った。

 

「飛んでけっおらぁ!」

御堂さんが足が凍って動けない怨獣に跳び蹴りをかまし、怨獣は交差点のほうにつるつると滑っていった。


「御堂!コアを破壊出来るかい?」


「待ってください、出来そうなスキル探すので」


 幸い、怨獣はまだ滑っている。


 太陽が傾き時刻は5時半になろうとしていた。


 なにか、使えるスキルはないのか?


 百花繚乱、流星、高位治癒、紅蓮ノ太刀、防壁、闇夜、潜影。知っているスキルはこれしかない。この中から使える物を探さなくては。


しばらく考えた後に、凛子の近くに寄る。


「凛子、今からアイツのコアを破壊するんだがどうしても連携が必要になる」


「え?それって……」


「平野の潜影を使う」


「……要するに私の影に入らせろと」


「すまないがそれ以外は思いつかなかった」


 凛子は少し考え、仕方なく了承という道に至ったらしい。


「分かりました。貴方にを預けます」


「すまない。恩に着る。潜影」


 俺が凛子の影に潜ると凛子は夜空を構えた。


「それでは行きます。流星!!」


 凛子が怨獣に急接近し、高速になった刀で突き刺す。


「今です!やっちゃって下さい!!」


 俺が凛子の影の中から出て、夢幻で突き刺す。しかし、硬い皮膚に阻まれる。

 それなら、


「流星!!」


 一度、振り上げて再度突き刺す。


「きた!」


 夢幻を通じてガラス玉のような感触が分かった。


 あとは、これを破壊すればいける!


「ガァァァァァァァァ!!」


 怨獣が最後の抵抗とばかりに必死に腕を振り回す。


防壁シールド。追い詰めるのはいいけど無茶はしないことだよ」


「ありがとうごさいます」


「援護いたしますわ。拘束バインド


 暴れる怨獣が鎖で締め上げられ動けなくなった。


「よし、とどめ!」

 夢幻に手を掛け、ぐっと押し込む。


 すると、パリンとコアが割れる音がした。


「ギヤァァァァァァァァ!?」


 コアの周りの肉が蒸発するように紫色の気体になり、砕けたコアがポトッと落ちた。


「へー、コアってこんな感じなんだな」


「砕かなくても一定以上のダメージを与えれば倒せるんだけどね♪」


「あれ、なんか出てきた」


 コアの中から白い煙のようなものが出てきて映像が写った。


「くそっ!あの野郎!突然クビってなんなんだよ!?不当解雇だろこんなの……俺が何したっていうんだよ。俺はただ家で新商品の開発をしようとして、資料を持ち帰っただけなのに……クソッ!!いくら企業秘密とはいえ資料を持ち出しただけでなんでこんなことに……」


「いや、そりゃダメだろ」


 思わずツッコミを入れてしまった。まあ、これは罰にしては重いし不当解雇なんだろうが。


「こうなったら、徹底的にあの会社を潰してやる……見てろよ」


 ここで映像が終わり、写った白い煙は消えてしまった。


「なるほどな…でここら辺に例の野郎がいる会社があるってわけだな」


御堂が呟く。


とりあえず一段落したのであたりを見渡して見ると違和感に気づく。


「あれ?もう2体は……」


 そこに突如別の隊員が現れた。


「あれ~?もう2体倒しちゃったよ?この前もうちの方が倒した数多かったね。ノロマだね~」


 隊員は隊長を煽るような口調で話しかけた。


「……伊吹いぶき


「おっと、そこの三人ははじめましてだね。私は日賀 伊吹ひが いぶき。七番隊の隊長だよ」


「で?何をしに来た。」


 隊長があからさまに日賀さんに敵意を向ける。


「おっと、嫌だなー。そんなあからさまに敵意を向けないでくれよ。ただの敵情視察だよ。安心してなにもしないよ」


「へぇー。こんなにも目立つ敵情視察なんてものがあったんだな。」


 二人の間には火花が散っていた。


「ってかコア壊したの?あらーやっちゃったねぇ。後処理大変になるよ。」


「んなことぐらい分かってる。任務が終わったなら早く帰れ」


「チェッ、冷たい奴だなー。はいはい帰りますよ。帰る帰る。ってことでばいば~い」


 ……なんか嵐のような人だったな。日賀さん。


「後処理めんどいなー。俺、先帰ってていい?」


御堂さんがぼやき帰ろうとする。


「馬鹿なのか?お前は……んなわけないだろ」


隊長があきれ顔で御堂さんの腕をつかんでいかせまいとしていた。


 御堂さんはなるべく早めに帰りたいようでそわそわしてる。


「なら、パパっと終わらせて早めに帰るか」


「まあ、そうだな」


 そういい、隊長と御堂さんは車の方へ走っていった。


「いつもは、手でコアを持って帰って終わりなんですけど、何か違うのでしょうか?特殊な機械を使うとか。私、気になります」


「おーい、これ使って」


 そう言い、手に持ってきたのは5本の箒とちりとりだった。


「「え?」」


 俺と同じく凛子もびっくりしていた。


「ほら、箒。早く終わらせようぜー。こんなの……ヘクチュ!!」

 御堂さんがくしゃみをした。案外かわいいくしゃみだ。


「そんな薄着だと風邪引きますよ」


 軽井沢さんが御堂さんに上着をかぶせた。


「あ、ありがとなヘクチュ!!あー、これはヤバイな。こんなことなら長袖で来た方が良かったかもな」


「……仕方ない。御堂、お前は車に戻って休んでろ」


「了か…ヘ,ヘクチュ!!」


 御堂さんが箒を隊長に渡し、車へ戻っていった。


「あ、あのその箒ってなんか特殊な機能とかついていますよね?防衛省ですしそういうのありますよね?」


「いや、ないよ。これはただの箒とちりとり。使い方は分かるよな」


「何か特殊な使い方をするんですよね?ね?そうですよね?」


「鶴見ちゃん、これはただの箒とちりとりだから。うん。ってなわけでよろしくね」


 隊長は箒を2本俺に渡してきた。


「了解です。ほら、凛子早くやるぞ。もう日が沈む」


 時刻はもう午後6時10分だ。さすがにもう帰りたい。


「わ、わかりました。」



 その後、俺たちは箒とちりとりで砕けたコアを集め袋に入れ、それを隊長に預けた。


「お疲れ様。もう、遅いから早く帰るぞ。車に乗って」


 すぐそばまで車がやってきて停車した。


「お疲れ様です。まもなく発車しますので。お急ぎ頂ければ幸いです」


 俺たちは車に乗り込んだ。


「お、お疲…ヘクチュ!!」


「これは、早めに休ませた方がいんじゃない?」


 その後娑驅真と御堂さんが同じ寮らしいので、先にそこまで送って行くことになった。


「そういや、娑驅真。」


「ん?なに?」


「お前って何組なの?」


「ん?3組だけど、それがどうかしたの?」


「いや、ただ聞きたかっただけだ。気分を害したならすまない」


「もう、そんな固くなくていいよー。同じ学年じゃん♪」


「あの、声のトーン下げられます?頭が痛くて」


寝不足だなこれ。


 凛子を挟むように会話していたのでうるさく感じたのだろう。


「まもなく到着します」


「了解。うぅ~。さ、寒みぃ」


「御堂さん無理しちゃいけませんですよ」


 軽井沢さんが御堂さんのシートベルトを取った。


 娑驅真が御堂さんに肩を貸し車を降りた。


「じゃあー。後は私が御堂さんのことみるんで、じゃあばいばい♪」


「おう、気を付けろよ。」


「は~い」


 別れた後に俺たちの寮に連れていってくれることになった。


「う~ん、むにゃむにゃ」


 いつの間にか寝ていた凛子が俺の肩に頭を乗っけた。

 

うわ、いいにおいがする。……じゃなくて!

 

もう、起こさないと。


「ほら、凛子起きろもうつくぞ。流石に起きれるだろ?」


「えー。おぶってくだしゃいよ~」


「マジかよ……」


 だめだこれ、朝と同じパターンだ。


「ほら、鶴見ちゃん起きてもう寮に着いたよ」


「ん?たいちょう?」


「そうだが」


「わーい!」


 いきなり凛子が座席の間からこちらを見ている隊長に抱きついた。


「え、ちょ、鶴見ちゃん!?」


「たいちょうかっこいい!!すき!」


「すみませんこいつ、寝起きはとてもめんどくさいんですよ」


「たいちょうだいすきー」


「こ、これはこれで善きかな」


「ちょ!?隊長!」


 その後結果的におれが凛子をおぶって帰った。その事を後日、本人に言うと。赤面しながら布団に顔を埋めていた。

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