第22話「主人様との信頼と尊厳を失うことになるニャン」

 チョコがどこかへ行ったので、ようやくゆっくりと温泉を堪能出来ると思ったので、俺は肩まで温泉に浸かる。

「ふぁあああああああ、気持ちいいぃ」

 腕を上に上げて、伸びを取る。下半身を隠していたタオルに温泉の湯を少し掛け、絞ってからアイマスクほどに畳み、目の周辺に置く。

「くぅうううううううう、キモティー」

 思わず変な声が出てしまったぜ。こんなの誰かに聞かれたら恥ずかしさのあまり寝込んでしまうぜ。


「にゃーにやってるニャン。ヘンテコな声出して、ちゃんと録音してやったニャン」

 にまにまと俺の顔を見ながらミィは言う。しまったお前まだ居たのか。

 ミィは足だけ浸かった形で、温泉の近くにある岩石に腰を下ろす。

「にゃーにを言ってるニャン?ご主人様、私はずっとここに居たにゃん。もしかしてわざとやってるニャン?」


「冗談だよ。それよりさっき録音した機械こっちに渡してもらおうか。ぶっ壊してやる」


「ふふふ、にゃーにを言ってるニャン?ご主人様?物には等価交換と言う原理原則があるのを知ってるかニャン?チュール3個要求するニャン!!」


「ははは、何を言ってる。チュール1個だ。1個で録音した機器を渡してもらおう」


「ご主人様、そんなにケチなお方だと思わなかったニャン。交渉は決裂だニャン。さ、さっさと魔王(ミナ)にこの音源を渡してくるニャン」


 ミィは岩石から立ち上がり、「うーん」と背伸びをしてから俺に背を向けて、顔だけ向けて嫌らしげにニャーンとだけ叫んだ。


「待て、まだ話は終わってないぞ。チュールに最近新作の味が出たって聞いたな。確か乳酸菌配合のささみ味にマグロ味だったけな」


「にゃ!詳しく聞かせろニャン。嘘だったらご主人様との信頼と尊厳を失うことになるニャン」

 ミィの目線がいつもよりキラキラと目を輝かせて、いつの間にか身体もこっちに向いている。俺は少女には欲情しない紳士だから変な過ちは絶対にないのだけど、やはり全裸なので目線に困るぞ、ちくしょうめ!ただミィはチョロい。このまま流れに乗ってやる。


「まず、乳酸菌入りって言うのがポイントだ。味は食べたことがないから分からないが、乳酸菌を取ればお腹の調子が良くなる」


「ふむふむニャン。それはいい情報ニャン」


「そのチュールは少しだけ高額だ。だから3個じゃなくて1個でこちらは交渉する」


「ダメにゃん!3個渡すニャン、言ったニャン。私はご主人様の尊厳に関わる音源を持ってるニャン。御託はいいからさっさとチュールを渡すニャン!」

 こいつどこまで欲望に忠実なんだ。ちょっと引いてしまったぜ。


「待て待て、落ち着け。それじゃ2個はどうだ!前渡した分と新作チュールだ!」


「にゃーん!いやいや、3つだニャン!そ、それは譲れにゃいニャン!」

 ミィは首をブンブンと揺らしながら言う。誘惑を頭から取り除いているのだろうか。

その仕草を見た俺はニヤリと笑う。

「それじゃ新作チュール2個はどうだ?乳酸菌配合のチュールだ。なかなか食べられるものではないぞ」


「!。……しょうがないニャン。分かったニャン。それで要求を飲むニャン」

 プイっと顔を背けると喉からゴロゴロと言っているのが聞こえる。やはりチョロかったぜ。

「にゃにニャン?なんか言ったかニャン?」


「ななな何も言ってないよおおお」

 ビックリしたぜ。こいつ心の声が読めるのか。俺はキョロキョロと目線を泳がせていると、ミィはクスリと笑う。

「それじゃ新作のチュール楽しみにしてるニャン」

 ミィは全裸のままどこかへ行ってしまった。なんだろう。掌で踊らされてる気がするが、俺の尊厳と信頼を守れてよかった。


 再びゆっくりと肩まで温泉に浸かる。周囲の岩場から水滴がポツンと落ちる。ようやく落ち着ける環境に感謝しつつ、ゆっくりとまぶたを閉じた。

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