にゃーんから始まる温泉相談所by押し入れ

誠二吾郎(まこじごろう)

第1話「エピローグ」

「にゃーーーーん」

 聞き慣れた猫の声が洞窟を響かせる。ただ、その声を響かせた彼女は俺の知っている姿ではなかった。

 オレンジ、黒、白の混ざった背たけまである長い髪、その頭の上には魔女を思わせるような黒い三角風の帽子、黒いローブを着た彼女、と言うか中学生ぐらいの女の子が竹ぼうきにまたがりながら宙を舞っていた。


 俺はと言うと、温泉に入っている自称魔王と言っている幼女の容姿をした見た目エルフみたいな女のクレアの愚痴を聞いていた。それも魔王らしく堂々と全裸の姿で。温泉に浸からないように、頭は団子上に髪をくくりながら金髪色がキラリと輝かせていた。

「ねえ、聞いているの、石川いしかわ、勇者ったら毎日私の城に飽きもせずに攻めてくるのよ。バカじゃないの。特にあの自称女神と言ってる女には殺意がわくわ」

「…………」

 俺はこくこくと話を聞きながら無言で聞き流していた。ただそんな俺に気にもせずにマシンガンのように話しかけるクレア。

 なんでそんなアホな状況になっているのかと言うとすべてはあの押し入れを開けたからである。

 今となってはなぜ開けたのだろうと、自分の興味本位に後悔を浮かべている。

 俺は「はー」とため息を吐くと、宙に浮いている彼女が話をかけてくる。

「ニャにをため息を吐いているニャン?ご主人様?」

 口元をニヤリと開けるときらりと八重歯が見えた。事情は知っているくせに原因を作った奴が何を言ってやがる。

「ため息吐いてたら幸せが逃げていくだニャン。それに私はご主人様と話せてうれしいニャン♪」

「……、ミィ、お前な」

 俺はそうボソリとつぶやくと、目の前で温泉に浸かっている魔王様クレアは俺の手を揺らす。

「ちょっと聞いてるの?私の話。勇者が夜な夜な攻めてくる話を。お前らはゴキブリかよ。そんな時間ぐらい寝かせろよと思うんだけど、ねえ、聞いてる?ねえ?」

 猫みたいな自由さでこの状況を作った彼女ミィと自分勝手な魔王様クレアに挟まれながら俺は深いため息を吐いた。

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