第3部 「龍神の地底湖編」

14話





月の都。 それは月面に存在する地球よりずっと科学、文明の進んだ巨大都市。 その都市が『何者か』の手で陥落した。そしてあっという間に荒廃した都市のど真ん中に平安時代を想起させるような横に長い宮殿が堂々と聳えている。 古代臭い木造で作られている外郭とは対照的に、中には所々に機材が設置してあり、近未来的な構造をしている。

そんな一風変わった建造物の最深部。


まるで王家の人間が腰掛けるような大きな玉座に座り、足を組み、前にある黒いテーブルの上に羊皮紙を広げっぱなしのままそれを眺めている「人間」の姿があった。 やがて「人間」はポツリと一言漏らす。


「間も無く体の調整は終わる。後は私が自ら『最後の審判』を執行するのみだ。」


テーブルの上の羊皮紙を拾い上げ、ビリビリに破いてその辺に放り捨てる。

そして「人間」は頭を一度掻くと再び言葉を紡ぐ。


「計画(プラン)を実行する。この『冥王』の名の下に」







一方で、平和な惑星「地球」は、十二月になっていた。 木々の葉は枯れ、風も大分冷たくなってきた。 「四刹団」との戦いからもう四ヶ月経っている。


桐生は本を読むことが趣味で、放課後はよく図書館にこもっていることが多い。以前、木内という能力者とここで戦ったことがある。その時はクーラーが効いてて涼しかったが、今では暖房の風が建物の全体に行き渡ってて、これはこれでまた心地よい。


桐生は本を一冊読み終え、パタンと閉じて一度背伸びをする。


「いやあ、冬の図書館はやっぱりサイコーだなあ。体の芯がポカポカするぜ。な、白石!」


そういって桐生はすぐ横に顔を向ける。

しかし皮肉にもそこには誰1人いない。影も形もない。


「・・そうか。もうお前には会えないんだったよな・・。」


館内は暖房で暖かいはずなのに、何故か桐生の周りだけは寒い空気が漂っていた。まるで、「暖房の風くん」が意思を持って故意に桐生を避けているかのように。


(全く、ホント駄目だよな。この事はとっとと忘れて前だけを向いて生きてこうと思ってたのに。)


桐生は何も考えず下を向いていた。周りが静かだからか、急速に淋しさが襲いかかり、気がついたら本の上に一滴透明な雫が落ちていた。


「・・思い出させるんじゃねーよ、バカ野郎・・ッ。」


そんな桐生の元へ一人の男がやってきて、隣の席に割り込んでくる。


「おい、おまえー。こんなところでなーにやってんだー。」


「あ・・あんたはこの前会った、肉体美追求会の・・。」


「ああ。減畑会長だ。 お前がさっきから泣いてんのは知ってるぞー。」


「な、泣いてなんかねーよ。」


そう言い、桐生はゴシゴシと袖で涙を拭う。


「嘘つけ〜もー。お前はー。」


減畑会長は桐生の背中を屋台にいる酔っ払いみたいにバンバンと強く叩く。彼なりの慰めなのだろうか。いい迷惑だった。


「うるせえなー。」


桐生は少し照れて顔に少し笑みが戻ってきた。


「うむ。それでいい!若もんは元気が一番だ。いつまでもそんな顔をしていたら幸運の方が逃げちまうぞ?」


「そうか。そうだよな。」


ゴフン、と減畑会長は一回咳き込むと、


「そうだ。一つ、話をしてやろう。俺は昨日、部員を全員クビにしちまったんだ。」


「え?マジっすか?」


「ああそうだ。これは自らが選んだ選択だから、後悔などはしていない。寧ろあいつらの未来に貢献できて良かったと思っている。」


「部員たちに不憫でもあったのか?」


いや、と減畑会長は首を横に振り、


「あいつらにとっての居場所はあそこではなかった・・。それだけさ。」


「それだけか?」


「自分がやったとはいえ、部員はみんな出ていってしまった。だから今じゃ俺は孤独だ。だから大体分かるんだよ。孤独な人間の気持ちが。」


「結局あんたがわるいんじゃねえかw」


「はっはっは!まあ、とにかくだ。誰を失ったのかは知らないが、お前も下ばっか向いてないで頑張れ!! 古い道が断たれたのなら、新たな道を作ればいいだけの話だろ?」


「へっ。キレイゴト言いやがって・・。」


桐生にとって今の一言は意外と響いた。何より嬉しかった。そんなことを自分に言ってくれる人間がまだいるんだと。 一人の少女を失ったことにより世界を憎むようになってきた桐生だったが、世の中まだまだ捨てたもんじゃないと思えた。


ー自分はまだ頑張れるー


桐生は立ち上がり、思わず心の声が湧き上がってきて爆発してしまう。


「よーし、待ってろよ白石!!ゼッテーお前をみつけだしてやっからなああああ!!ひゃーーーはっはっはっはっはあああ!!!!」



その後、桐生は図書館から出禁をくらったそうな。


To be continued..








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