第1部 「変わる日常編」

5話





ここはとある神社。スズメの鳴き声が聞こえ木々の隙間から木漏れ日が漏れている。鳥居を潜り、カーペットのように敷かれている石畳を辿り階段を上った先には本殿がある。


じめじめした本殿の中は比較的暗く伽藍としている。 そこに二つの影が見える。

一人金髪のアフロの男が何者かの前で土下座をしている。

もう一人は建物の闇に紛れ姿がはっきり見えない。ただ金髪アフロを上から見下すように立膝をついて座っていることまでは確認できる。


金髪アフロの少年が言う。


「手筈は整いました。」


闇に紛れた男が何やら不吉な笑みを浮かべた。


金髪は続ける。


「もうすぐあなたの理想が、現実となる。」








翌朝、桐生は自分が普段通う学校、「聖川東学園」に到着する。ここはド田舎の田んぼ天国の中にポツンと存在し、アクセスも非常に悪い。最寄駅から徒歩一時間を毎日って頭がおかしい。加えてセンスのカケラもない名前。もうある意味で終わっている。しかも今日は朝寝坊したため遅刻ギリギリときたもんだ。


「ひえー、あっぶねー。あと五分で死ぬとこだったぜ」


桐生は丁度出欠席確認の時にホームルームについたためギリセーフである。 隣の席のサイドテールちゃんが両手で頬杖をついて不思議そうにこちらを見ている。


「じーーー。」


「な、何だよ」


「また遅刻?今月で二十回目だけど。ダイジョブなの?」


「残念、十九回目でしたー。」


「まあどーでもいーや」


すると担任の声が聞こえた。


「コラ白石、前を見ろ!!」


「ほーい。」


茜は言われた通りしぶしぶ指示に従う。


「ん?」


桐生の視界の端っこに何だかアイスクリームのようなものが映った。横を見るとそれは二重の塔のごときたんこぶだった。昨日の給食の時笑い転げて頭を打ち付けたんだっけか。


「フ、フフッ。」


「ちょっと何笑ってんのよ?」


「いや別に」



ようやく一時間目がスタートする。


「よしじゃあ授業やるぞー。まずは教科書四十ページを・・」


前の席の敷島がこちらに振り向いてくる。このクラスには真面目な子はおらんのかとつっこみたくなった桐生だがその前に敷島が静かな声で喋り出す。


(なあ、予言ってしってるかもー?)


(ああ。聞いたことぐらいある)


(昨日夜テレビで見たんだけど、三ヶ月後、地球は滅ぶんだってー。ああ怖い怖い。)


(ああそう。いいから前向け)


実にくだらん、とそう思った時一瞬心臓が凍りつきそうになった。先生がこんなことを言い出したからだ。


「じゃあこないだの宿題を誰かに解いてもらおうか」


敷島はこの時自分の話に夢中になっていたせいか、自分が指名されていることには気付いていなかった。


「敷島!!聞いてんのかオイ!!」


「す、すいませんもー!!」


周囲からクスクス音が聞こえてくる。



なんだかんだで昼休みがやってくる。白石がこちらにスキップでやってくる。

「桐生、弁当食べよ!」


「ん?ああ・・・ってあれ?」


「どったの桐生?」


桐生はカバンの中を漁る。


「やべ、弁当忘れちった。」


「もーきりゅうのばかー」


白石お母さんはプンスカプンスカ。 なんてことはどうでもいい!このままでは餓死してしまう!!


「あのさ、学食行ってくるから待っててくんね?」


「りょ」


桐生は他の生徒を押しのけて一階の学食へ猛ダッシュ。だが。


「え?なにこれ」


桐生が目をパチクリさせる。 何と学食のおばちゃんたちはみんないない。それだけじゃなく、椅子だのテーブルだのがぐちゃぐちゃになっている。 何者かが暴れたのだろうか。何より不思議なのが、給食の時間だってのに学食が無人ということ自体が異常である。


悪寒がした。


「まさか、嘘だよな!」


足元にコツン、と何かが当たった感覚がした。


見るとそこには食べかけのレモンが転がっていた。レモンは敷島の大好物である。これを毎日摂取しないとやっていけねーもー、とか言ってた気がする。


「敷島・・お前まで・・。許さねえ!」


桐生は階段を駆け上がる。息切れを起こしそうだが最早気にしてられない。三階まで上がり角を右に曲がると桐生たちの教室が見える。


バァン!


片手でドアをこじ開ける桐生。


「みんな!」


そこは学食と同じ景色だった。誰もいない。


「お、おい、どこだよ?敷島!!マナト! ・・・白石・・。」


何か一生分の寂寥感を味わった気がする。桐生はこの時、あることに気がつき始めていた。自分は何か間違えていたのか、と。 ここでじっとしてても仕方がないので取り敢えず外に出て見ることにした。


玄関を抜けて正門をくぐりがむしゃらに走っていると近くの図書館の建物のドアが大きく口を開けていた。

おかしい。今日は休館日だったはず。


(何者かが侵入した痕跡か!?)


考える前に足が先に動いた。



図書館のロビーはだだっ広い。下手したらホテルのよりも広いかもしれない。カウンターに駆けつけたが誰もいない。 その時。声が聞こえてきた。


「いくら探しても無駄だよ。仲間に人払いの能力者がいてね。そいつに協力してもらった。面倒ごとが目撃されたら本末転倒だからな。」


「どこだ!」


桐生は声がした方向に体を向ける。するとそこには 少々出っ歯でメガネをかけたインテリ風の少年が、中年のおっさんの休日みたいに床に寝そべってた。挑発してるようにしか思えない。


「いやあ、クーラー効いた図書館を独り占め。幸せだなぁ~。 ・・おっと、いけないいけない。ついついうたた寝してしまうところだった。では改めて。」


ゴホン、とメガネはわざとらしく咳をすると、ゆらりと立ち上がる。


「ぐはははは!お前の噂は聞いている。俺としょうぶしろ!!」


「お前な・・。」


桐生はもはや呆れていた。さっきまでの緊張はなんだったのだろうか。 まあそれはいいとしてとっとと本題に入りましょう。


「俺の命が狙いか?」


「まあ、そんなところだ。俺の名は木内。のぉーりょくしゃだ。」


率直に言うと外見に似つかわしくなく、バカみたいな喋り方だった。


「能力者だと?お前もか!」


「そうだ。俺の能力は、『一秒後の未来を読み解く能力だ!』


自慢気に語る木内に桐生はつっこむことにした。


「いやいや、使えねーだろソレ!」


「えーいうるさい!みろ!俺の力を!」


すると木内は素早くメガネを外しそこらに放り投げる。どうやらこれが能力のトリガーらしい。


「じゃあいっくぞぉ、ロックオン!」


木内の片目がピピピピッと青く点滅した。


「何をした?」


「くく。言ったろ?君をロックオンしたって。もう君は僕の能力の傘下にある。この意味、お前ならわかるよなぁ?」


「ああ。一秒先を常に先読みしてるってことはつまり、相手の動きも先読みできちまうってわけだろ?」


「ピンポーン。だいせいかーい!!だがなあ、それがわかったところでどうするってんだぁ?」


だが桐生はニヤリと笑う。


「何が可笑しい!?」


「お前の目には常に『一秒後の未来の世界が映写されてる』んだよな?」


「? ああそうだ!こわいだろ!」



木内の右ポケットにはスタンガンちらりと顔を出していた。どうやらこちらが突っ込んでくるのを待っているのだろう。奴はおそらく相手の攻撃を先読みしてカウンターであれを使うつもりっぽい。


「なるほど。読めたぜ。」


「そうか。それは良かったな。ならさっさとかかって来やがれ!」



そして、三時間が経過した。


なんと両者とも一歩も動かない状態が三時間も続いたのだ。エアコンの効いたクーラーの中で。


先に口を開いたのは木内だ。


「な、なぜだ?何故かかってこない?」


どうやら木内は見たところ運動神経はなさそうだった。だからこそ護身のためにスタンガンなんかをチラつかせてたんだろうが。相手はこちらの動きを逆手にとってカウンターを決めるつもりだった。そして電気のショックで動けなくなったところを殺す、といったところか。なんて姑息な戦法だろうか。


が。


『その相手が全く動かない』のでは何も始まらない。


桐生が言う。


「どうした?来ないのか?」


「く、クッソ・・。」


無理もない。あんないかにも運動音痴そうなのが向こうから襲ってくるはずなどないだろう。 桐生はそう踏んでいた。 こればかりは桐生の賭けだった。


そして桐生は賭けに勝った。


この時木内の体が一瞬ぐらっと揺れた。


「や、やばい。眠くなってきた。」


さっき初めて木内にあった時、彼はこう言っていた。


『いやあ、クーラー効いた図書館を独り占め。幸せだなあ。』

『おっといけない。ついついうたた寝してしまうところだった。』


「お前っていつもこうなのか?クーラーってあまり浴びすぎると体に悪いぜ。」


「う、うるさい・・。ああ、もうだめだ。眠い・・・」


ドサッ


木内はクーラーの誘惑に負けて床に大の字で寝転んでしまう。


「うわ、マジで寝やがったコイツ。」


そして桐生は堂々と仰向けで眠っている木内のゼロ距離まで接近し、トドメを刺そうとする。


しかし、我に帰った木内の目がクワッと見開いた。そして地面を蹴るようにして起き上がる。


「残念だったなあ。今のは演技だよーん。」


「あっそう。」


ビュッ!!


桐生の片手の中には黄色い物体があった。そこから液体が射出され木内の目ん玉に命中する。さすがに一秒先の未来が見えるといえども、至近距離から、しかも高速で放たれたパンチやキックよりも速い液体には反応が遅れた。


「ぐわあああ。前が見えないいいい!」


そう。今飛ばしたのは秘密兵器、「ただのレモン」だ。目潰しの定番である。 三時間前、学食にいったとき、たまたま敷島が落としていったらしきレモンだった。一応拾っておいてよかったとつくづく思う。

あとであのデブに礼を言おうと思った。もう木内の目は使いもんにならない。


そして桐生は隙を見せず怯んでいる木内のスタンガンを奪い、首元に当てた。そして今度こそ木内は床に倒れ、気絶してしまった。 木内の詰めの甘さが勝敗を決してしまったのだ。


ふう。と、桐生は安堵の溜息をつく。


木内が倒されたことによって敵の作戦は失敗したようだ。人払いの術も解ける。

そして何事もなかったかのようにあたりから生徒たちの声が耳に入ってくるようになった。彼らにはこの空白の三時間の記憶は欠如しているようだった。 だが、三時間経っていたのは事実で、図書館の外では夕日がこんにちはをしていた。もう放課後だ。


「ひとまず事件解決っと。」


桐生は図書館を出て、教室に荷物を取りに行きそのまま帰宅することに。


「ああ、俺もさっきの戦いで眠くなっちまったわ。早く帰って寝よう。」




まあ、学校から家に着くまでまた二時間以上かかるんだけどね!




To be continued..





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る