第7話  猪そして熊

次の日は午前中はリーダーと えーと そうそうヨーゼフさんたちがエサの確認に行っていて帰ってくるまでやることがないのでミーナさんと村をぶらつく。


村は今まさに出来かけだった。少し離れたところにある石でできた館以外は全部が木で出来ていて天井は薄い木の板一枚という感じだった。

「街に比べて随分貧弱な家ですね」

大風が吹けば家ごと飛びそうだ。

「まあほとんどは奴隷の家だからね」

「奴隷ですか?」

「うん 主に犯罪奴隷だよ ここから川で少し登ったところに金鉱があってそれを掘るために作った村だってリーダーが言ってたわ」

「なるほど」

「今回の討伐はここに食糧を運び込まずにすむように畑を増やすためって感じみたい  それに街から食糧を運ぶにしても安全なほうがいいしね」

確かに村の規模に対して畑は村の南の川沿いに少しあるだけだったな

「でも折角川があるんだから川下と交易したほうがいいんじゃ」

「ああ それは無理ね  この川もう少し行ったところがかなりの急流で船なんか使えたもんじゃないんだそうよ  それにその滝の下は他の領地だから難しいわね」

それでここに村を作って金を運び出すのか




「おーい  取り敢えず集合」

リーダーが戻ってきたようだ。

「全員いるな  まず北の森だがジャイアントボアーそれからゴブリンってところだな  次に対岸の森だがこっちが問題だ  ゴブリン、グレイウルフ、そしてオークだ  その他にもグレートスネークの類いの這ったあとのようなものがあった。」

「オークか」

「それにスネークとなると」

「ということで対岸に時間をかけたいから北の森は今日中にある程度終わらせたい  というとで5人一組で出発だ 合図は白煙だ」

「「了解」」



「リリーちゃんはこっちよ」

ミーナさんに連れられてリーダーのところに向かう

「おう ミーナに嬢ちゃん 俺たちが最初に行くぞ」

私とミーナさんとリーダー、ヨーゼフさんそれから20才くらいの若い男の人  確かジークさんだったと思う  と一緒に森に入る。


主な木はシイやカシが多いようであまり人の手が入っていないように見える。道もなく歩きにくい。しかしどんどん奥に入っていく。小一時間歩いてようやくリーダーが足を止める。

「よし この辺でいいか」

そう言って背中に背負った袋から木の実の乾燥したものを取り出す。

「ヨーゼフ ジーク 落ち葉を  嬢ちゃんはそれに火を頼む」

「はい」

ジークさんであってたか

ヨーゼフさんたちが集めた落ち葉に火をつける。

「ファイアー」

そこにリーダーが木の実を入れると

ぶわっと匂いが広まる

「リーダー これは?」

「ボアーよせだ  ここでこれをやっていればこのあと森に入るやつらがボアーに後ろから不意打たれることがなくなる というわけだ ということで」

「リーダー 東から来ます」

「おし 嬢ちゃんいくぞ  ミーナは引き続き見張りだ。」

ボアーはこっちに向かって一直線に突っ込んでくる。これならこっちのものだ

「アイスランス」

氷の槍で串刺しにされてジャイアントボアーは絶命するが巨体の勢いはなかなか止まらなず20メートルほど滑って木にぶつかる

ドゴォォォン

「南北から一体ずつ来ます」

余韻に浸るまもなく次のボアーが表れる

「嬢ちゃん 南は頼んだ  ヨーゼフ罠は出来たか」

「はいっ」

「完成している」

「よし 北からのは罠で仕留める」



南から来ているボアーはそこまで大きくないように見える。若い個体かも知れない。私の姿を見ると一直線に突っ込んでくる。

横に飛んで回避し右手に持った剣で後ろ足を切り裂く。転倒したボアーの首を剣で切り飛ばす。


振り替えると北からきたボアーが額に土の槍を突き刺して息絶えていた。ヨーゼフさんの土魔法で作った槍を進路上に埋めておいて通る瞬間に持ち上げて串刺しか。そんな使い方もあるのか、

「ゴブリンの群れ 十五匹ほど西からです」

「まずいな  魔物よせが強すぎたかもしんねえ  ボアーの鼻はいいからもう少し弱くてもよかったかもな   嬢ちゃん ジークとゴブリンにあたってくれ   ヨーゼフは罠の準備   ミーナはそのまま警戒」

「「「了解」」」



「リリーさん 僕は右からいく リリーさんは左からね」

「分かりました」

ゴブリンへと向かう途中に意志疎通して左右に別れる。



「アイスエッジ」

「ファイアボール」

左右から同時に魔法が群れに放たれる。

混乱したところに左から突っ込んで手前にいた三匹を切り殺す。ジークさんも左手に腕につける小さな盾、右手に剣を持ち一息で二匹の首を掻き切る。私は左からくるゴブリンを殴り殺しつつボス格の少し大きなゴブリン向かって剣を投げつけて頭に突き刺して殺す。

ゴブリンはボスを潰されつつも剣を無くした私に向かってくる。

「アイス」

氷を作るだけの魔法を使って手に氷の棍棒を生み出し向かってきたゴブリンをたたき潰す。最後にジークさんに向かっているゴブリンを後ろからまとめて蹴り殺す。

「リリーさんありが   ひぃっ」

顔をあげるとジークさんがガタガタ震えている。後ろに何かいるのかと振り向くもなにもいない。

「リリーさん 顔 顔っ」

言われて顔を触ると手にベッタリと血がついている。ああ返り血か。どうやら返り血がベットリついたまま戦ってた姿が怖かったらしい。確かにおとなしそうな顔をした中学生女子が血まみれになりながらゴブリンを殴り殺しているのはいくら冒険者でも恐ろしいか。


ひとまず魔物が収まったので死体の処理をはじめる。ジャイアントボアーは足しか食べれないそうなので足だけ切り取って紐で枝に吊るし、残りは燃やして処分する。

「オープ・ネカタ・マヤナハ・タナヤ ファイアー」

あっファイアーの呪文あんなのなんだ


「ファイアー」

ゴブリンも魔石と討伐証明のために耳だけ切り出して後は燃やす。

少しあるだけだったな人心地がついたと思ったらミーナさんの悲鳴が聞こえた。

「リーダー ブラッドベアーです」

ブラッドベアー

好戦的で森の生態系の頂点に君臨する魔物で非常に堅い赤黒い皮がほとんどの攻撃を通さない。その色から血まみれという意味でブラッドと呼ばれる。人の足より速く木登りと泳ぎがある程度出来るので逃げ切るのは難しい。

しっかりしたクランが事前準備をした上でなら討伐することがあるが準備なしでの接触は死に直結する。

「逃げろー」

ここは私がいくべきだろう

「リーダー 私がやります」

「嬢ちゃん 止めとけ この距離なら逃げ切れる  かもしんねえ」


リーダーの声は聞こえるが無視してブラッドベアーに突っ込む

「アイスエッジ」

小手先で放った魔法はその大きな爪で弾かれる。思ったより俊敏だ。

「アイスランス」

下半身を狙った攻撃は後ろ足を少し傷つけるにとどまる。やはり堅い。

グオォォォオ

いよいよ接近すると左の爪を振り下ろしてくる。右手の剣で迎え撃つが

ガキィィィン

双方跳ね返される。やはり今までの敵とは格が違う。ブラッドベアーより一瞬速く体勢を建て直し脇腹に一撃入れる。確かに堅いが

「クマごときがドラゴンに勝てると思うな」

浅いが確かに切り裂く

と次の瞬間 ブラッドベアーの右腕が迫る

避けられない 瞬時に判断し地面を蹴って腕で受けとめてわざと飛ばされる。

ドゴォッ

やはり重い 飛ばされたまま体勢を戻し木に垂直に着地する。そのまま上の枝に跳び移る。ブラッドベアーは脇腹の傷に気をとられたせいもありこちらを見失っている。

枝から飛び降りてその勢いを乗せてブラッドベアーの頭上に迫る。ブラッドベアーはようやく気づいたようだがもう遅い。

「おりゃぁぁぁあ」

女の子らしからぬ声をあげながらブラッドベアーを唐竹割りにする。


ズシーン


頭から股まで真っ二つになったブラッドベアーが倒れる。

さすがに少し疲れた。

「うおぉぉぉぉあ  さすが嬢ちゃん」

「リリーちゃん  大丈夫?」

「リリーさん すっスゴいけど怖いです」

「おう これで嬢ちゃんの通り名はブラッディ・リリーだな」

なにそのどっかのイギリスの女王みたいな名前  なんかイメージ悪いぞ

「それよりこのクマどうします?」

ヒグマを超える巨体を動かすのは大変だ

「ブラッドベアーの皮はかなり高価だからな 出来ればもって帰りたいが  ヨーゼフいけるか?」

「2時間くれ」

「よしわかった  あと二時間だな  ミーナ白煙を炊け そろそろジャイアントボアーは引き寄せられただろう」

どうやら白煙を合図に他のメンバーが森に入るようだ。



それから二時間の間 五回ほどジャイアントボアーと戦闘があったがクマの後だと随分楽に感じられた。




「それでな嬢ちゃんはこう言ったんだ「クマごときがドラゴンに勝てると思うな」そしてブラッドベアーの凪ぎ払いを利用して木にこうシュタッとやってそれから剣を両手で握ってこうズバァァァアと」

あれから更に一時間ほどで一通りゴブリンの掃討が済んで村に戻り、今は夕食の時間だ。

「そして嬢ちゃんが地面に着くのに一瞬遅れてブラッドベアーが左右にこうドーンと倒れてな」

「さすがリリーちゃんね」

「まさにブラッディ・リリーだな」

「さすがリリー  かっけーぜ」

「「リリー  リリー」」

人の話で盛り上がるのは辞めてほしい

うん このお肉美味しい

でもこれのおかげでさん付けがなくなってくると仲間として見られてるなーと思って嬉しくなる

それにしてもブラッディはなんかな

まああのあと近くの泉で顔を洗おうとしたときに写った顔は確かに物凄く怖かったからそう言いたくなるのもわからなくはないが


ちなみにブラッドベアーの毛皮はクランのホームの一階に飾られることになった

縫い合わせるのかと思いきやそのままわけて隣に並べるのだそうな

なんでも真っ二つの凄まじさを残したいんだとか


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