NEET in DUNGEON!!

木彫りの熊

暗中死闘篇

第一章 NEET、自宅警備員になる

第1話 NEET、ダンジョンを発見する

 頭が痛かった。


 どうやら後頭部を思いっきり打ち付けたようで、ずきずきと痛む。寝違えたのか、身体の節々が痛く。その上、身体全体が冷えていた。布団はどこだろうか。


 掛け布団を手に取って被ろうとするも、あるのは敷き布団……だろうか? さらさらして、ふかふかの感触だけだった。間違っても布製のものではない。

 しかし、なんか。寝心地は良い。そのまま眠ろうとする。


「…………」

 ――いや、だけど、おかしくないか?


 沈黙し、眠りを求める本能に理性が語りかけた。


 部屋って、こんなに寒かったっけ?

 寝違えてもこんなに身体痛くなるっけ?

 敷き布団がやけに土みたいな感触じゃない?


 異常を感じてがなり立てる理性の直談判を受け、渋々と眠ることを取りやめる。というか、頭が痛い上に寒くて眠れない。これは確かに異常事態だ。毎日欠かさずやっている、日課の二度寝が出来ないのだから。

 そもそもなんで頭が痛いのだろう?


「うぐ、ぬぁぁぁぁぁぁ……あ痛ててて」


 あくびをしながら、大きく身体を反らし、激痛で眠気が吹き飛んだ。


 意識がはっきりすると、途端に感覚が鋭くなる。

 寒いし、身体が痛い。その上、気分が悪い。どうなっているのだろう? 何故かパジャマではなく、滅多に袖を通すこともない普段着を着ているし。


「…………えーっと、あー」


 激痛と頭痛に苛まれながら、記憶を辿る。

 俺は――寝て、起きたはずだ。そして二度寝して、また起きて。朝食のカロリーメイトも食って、いつものように妹と遭遇することはなかった。学校に行っているし、いつものことだ。


 それで、何があったんだっけ?


「…………あ」


 その答えは、自分の横に落ちていた物に触れてわかった。


 柄が長い、棒状のもの。

 先端には三角形状の鉄っぽいの(というか鉄?)が取り付けられており、土を掘ったりするのに向いている奴。

 その名はスコップ。でかいシャベルだ。

 東日本と西日本で呼び名が逆転しているようだが、ここは東日本だ。スコップで問題ないだろう。


 そうだ、これを持って、自分は穴を掘りに……いや、埋めにきたんだ。


 昨日、俺が寝ていた頃に起こったらしい地震で、庭に穴が開いたらしい。穴が開くような規模でも、揺れでもなかったといいながら首を傾げていた母のことを思い出す。そして、その穴埋めがニートやってて暇な俺に押しつけられた。


 これで、間違いない……はず。

 正直自信が持てない。


「えーっと、ちょっと待て……俺の名前は米沢守。21歳……21歳だよな? 毎年誕生日祝われてないのは覚えてるけど……いや、働いてないから仕方ないか。職業なし、ニート。そう、ニート。OKOK、大丈夫。記憶大丈夫だな。頭大丈夫だな」


 よし、自信が持てた。そして思い出した。

 穴を埋める途中に、足を滑らせて落ちたのだ。俺は。


 急いで上を確認する。穴の底から出口までは高さがあるわけではないようで、俺の身体能力でも上がれそうだ。

 ほっと一安心しながら、冷たい風に身を震わせた。

 そこで、疑問が芽生えた。


 ――穴の中で、こんなに冷たい風って吹くのか?


「…………」


 嫌な予感がした。

 周囲を確認する。


 そこはちょっとした小部屋のようだった。歪な四角形になっている。

 そして、俺は気づいた。気づいてしまった。


 なんか、通路っぽいのが伸びている。


 小さいけど、奥まで続いているようだ。風はそこから流れてきたものらしい。


「…………うそだろ?」


 どうやら俺は、家の地下に洞窟を発見してしまったらしい。

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