乳下座〈前編〉

 焚き乳の火の薄明かりの先、乳木の陰から姿を現したのは懐かしの美巨乳だった。

 王子は愛しの乳房を見るや、胸を震わせながら立ち上がった。


「そち……生きておったのか?」


 駆け寄ってきたフェリンの谷間に顔を埋めると、触れた覚えのある弾力が頬へとボインと跳ね返ってきた。


「バスティ王子、よくぞご無事で!」

「今までどこに行っておったのじゃあ!! 探したのじゃぞ!!」


「申乳訳ございませぬ。他の島に漂着しておりましたゆえ、数々の島々を周って、ここまでやってまいりました」


「乳守が王子を守れんでどうする!! そちはわちの乳君になる者なのじゃぞ!! 片時も離れてはならんのじゃぞ!! それを分かって――」


 グゥゥゥゥと王子の腹が鳴いた。


 無理もない。目の前には、待ち望んだ乳汁を湛えた双つの乳饅頭が吊り下がっていたのだ。得も言えぬほどの美味しそうな香りが、王子の鼻をくすぐった。


「もう腹が減ってならんのじゃ!! 早よう、乳を出せ!!」

「乳意!!」


 乳衣が捲られ、その下の乳袋が外されると、美巨乳と美乳首がポロリと出てきた。王子が両手でそれらを寄せるやいなや、獲物に飛びかかるブーブス・パイガーのような勢いで乳汁が噴射された。


 王子は乳崩を味わうことも忘れて、ゴキュゥゥン、ゴキュゥゥンと呑み下していく。

 フェリンも長いこと乳溜めしていたせいか、その美巨乳からは枯れることなく乳汁が湧き出し、王子が頬張る口から溢れ出すほどであった。


「ぷはぁ……やはり乳は乳源のものに限る――」


 と、そのとき、息継ぎをするために乳首から口を離した王子は、視界の端で、怪しく蠢く乳房たちを見つけた。


「バスティ王子ぃ!!」

「いやぁ、ご無事で何より!」

「遅れて申乳訳ございませぬ」


 ロブリナ、ルブミン、ゼインも乳森の奥からやってきた。彼乳らの乳房の形と大きさも、別れる前から乳首ほども変わっていなかった。


「皆の乳……」


 王子は一瞬言葉を失ったが、胸の内に込み上げてきたのは喜びでも、嬉しさでもなく、己の乳首を尖りに尖らせるような怒りの感乳だった。


「ええぃ! おぬちら、今までどこをほっちち周っておったのじゃ!! 罰として全乳、《乳房剥き出し吸い放題の刑》に処す!!」


「「乳意!!」」


 豊乳が、豪乳が、超乳が、ポロリ、ポロリ、ポロリと剥き出しになった。

 これぞ《乳源郷にゅうげんきょう》。乳々が死後に辿り着くと言われている、乳房揉み放題、乳首吸い放題、乳汁呑み放題の極楽の地に違いない。


「たぁんと召し上がれ」


 フェリンの美巨乳も並んで、八つの乳房が出揃った。

 プロティーンが誇る四谷の精鋭乳が、ボインボインと上下に躍動している。


「おっぱっぱ!! 乳快、乳快! 乳快な眺めじゃあ!!」


 そしてそれらの乳房から吹き出される、百乳繚乱にゃくにゅりょうらんな乳嵐を顔面で受け止めると、王子は主人の帰りを歓迎する乳犬のように舐めて舐めて舐め尽くした。


「はぁ、これでチムもおったら最高じゃったのになぁ……」


 小さめながらも柔らかく、優しい甘みのある乳汁を出す適乳に、想い焦がれる王子。

 すると、その言葉を待っていたかのように、またしても物陰から何乳かが現れ、その乳房を揺らして乳列の真ん中から剥き出しの乳を出した。


「お呼びになられましたか? バスティ王子?」


「おっ、おぬち……なにゆえ、こんなところにおるのじゃ!?」


 それらは、ここに来るはずのない、ここにいてはならない適乳だった。


「王子が漂乳したとの噂を聞きつけ、慌ててカルボから参上したのでございまする。さぁ、わちちの乳も味わいくださいませ」


 間違いない。あの柔らかそうな乳房こそ――

「チムゥゥゥゥゥ!!」


 王子はチムの乳房に飛びついた。だがその抱きつきは空振り、チムに準ずるほどまでに育った王子の適乳が、地面に擦り付けられてしまった。


「にゅにゅにゅ!?」

「こっち、こっちでございまするぅ」


 見上げると、チムたちが乳森の暗がりから乳招きをしている。なにゆえ、あんなところに。


 しかもあろうことか、彼乳らはさらに森の奥の方へと入っていこうとしていた。これでは走らないと追いつけないではないか。


「待って、待つのじゃあ!! 行くなチム! フェリン! ロブリナァ――」


 王子は乳石に足を滑らせ、山の斜面を転がった。


 そして暗闇の中を訳も分からぬまま転がり続けると、柔らかい何かに当たってプニュンと止まった。


 体中が火傷でもしたかのように、ひりひりと痛む。

 辺りを見回してみても真っ暗闇で、乳羽虫ちちはむしの鳴き声しか聞こえてこなかった。


「そうか……わちは夢の中におったのか……」


 グゥゥゥゥゥゥゥと、腹の音が鳴った。


「そういえば、不乳議と味がせんかったな……あの乳らは……」


 王子は、震える乳と膝を抱えるようにして座った。

 そして乳吸い虎に見つからぬよう祈りながら、声を押し殺して泣き続けた。

 乳に沁み入る寒さと、胸が裂かれるような痛みと、そして本当の寂しさというものを、王子は知った。



  ω ω ω



 乳木の葉の間から漏れる眩しい光によって、バスティ王子は目を覚ました。

 やはり昨夜と同様、周りにフェリンたちはいなかった。


 立ち上がろうとしたのだが、背中に何か柔らかいものが当たっているような気がした。

 振り返ると、胸元に小さな乳房を実らせたラティッツが、王子の下敷きとなっていた。


「そうか……昨晩は、こやちが受け止めてくれたのか」


 王子はその小さな膨らみに注目すると、指でつついてみた。八つほどある乳首の下には、いくらかの乳汁が詰まっているようだった。


 グゥゥと腹が鳴るやいなや、王子はラティッツを寝かせたまま、その小乳に吸い付いてみた。


「上手く吸えぬ。摘まむのか? おっ、出てきおった!」


 ラティッツの乳首から、ちびりちびりと漏れ出てきた白い乳玉を舐めてみる。


「美味ちいぞ! サッパリとしているが、臭みのない飲みやすい乳汁じゃあ! 淡麗系じゃな」


 八つの乳首をそれぞれ摘まみ、谷間に溜まった乳汁を舐め取る王子。しかし、その搾乳刺激によって、当のラティッツが目を覚ましてしまった。

 ラティッツは予想外の飲乳者に全乳を震わせると、強靱な後ろ脚で王子の胸元を蹴り上げた。


「うにゅ!」


 不意打ちに驚き、身を反らした王子が再び前を向いたときには、もうラティッツは草むらの中へと姿を消していた。


「しまった……にゅにゅ?」


 ラティッツと入れ替わるようにして現れたのは、尖りに尖った希少乳だ。


「自力で捕まえたんだな。偉いじゃないか」


 剥き出しにした褐色の乳房と、その先端に聳え立つバフィーニップルを揺らしながら、シーエーが言った。


「わちはやれば出来る子なのじゃ。今まではやらなかっただけのじゃ」

「昨日は乳囲想で空腹感をごまかしていた者が、どういう汁の吹き回しかな?」


「わちは、フェリンたちと会いたい。会ってもう一度、その乳を吸いたいのじゃ。それゆえに生き延びて、この島から出ねばならぬ……」


 王子はそう言うと、乳を下にしてうつむいた。己の胸持きょうじには反するが、この島で頼れるのは彼乳しかいない。

 覚悟を示すため、王子は両手を地面に突き立て、両乳を垂らした。

 バスティ王子にとって、乳生初めてとなる《乳下座にゅげざ》である。


「シーエーよ。そちの胸を汚したことは詫びよう。この通りじゃ……」


「ほぅ」


「じゃから、教えてくれ。ラティッツの捕まえ方、ヤチの実の取り方、この島での生きる術、それから……乳筏の作り方を」


 シーエーは前屈みになると、王子の頭を両乳で挟んで言った。


「いいだろう。わがぱいに教えられることならば、何でも教えようではないか」

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