チチカリ族〈後編〉

 しばらく洞窟内の部屋で待っていると、乳飾りをジャラジャラと垂らす者たちが現れた。


「パイパイ、パイオッオッ、パイ」


 彼乳らに導かれるまま、ヌメヌメとして滑りそうになる洞窟内の通路を渡ると、大広間に出てきた。そこでは何十谷ものチチカリ族が、何やら大騒ぎをしていた。


 そして乳同が宴の席に座らされると、舞台の両脇から踊り子たちが群れを成してやってきた。


「「オーッ、パイ! オーッ、パイ! パイ、パイ、オーッ! パイ、パイ、オーッ!」」


 ゴウゴウと燃え盛る中央の乳火を取り囲むようにして、垂れ乳を剥き出しにしたチチカリ族が舞っている。


 王子は大好きなはずの乳房から目を反らせた。それらの乳房が、こちらを吸い付かんと飲嚇いんかくしているように見えたからだ。

 特に彼乳らの乳輪は、恐ろしいほどに大きかった。乳房を覆うほどに大きな二つの乳輪が、皆を乳定ちちさだめしているかのように見えた。


「「ブーブス、ブーブー! ブーブス、ブーブー!」」


 彼乳らが視線を向ける先は、闇に照らされている、何百もの乳をぶら下げた大乳慕神像だいちちぼしんぞう

 その乳神像は四つん這いでこちらに微笑んでおり、まるで無数の乳房を見せびらかしているかのように見えた。


「もしや、あの乳神像に使われている乳の中に、オリゴ王子の乳房が……」


 ビフィが、隣に座っていた王子の耳元で囁いた。


「あまりにも多いが、見つけられるのか?」

「目をつむってでも探し当ててみせましょうぞ」


 乳守と四天乳は、チチカリ族に対して何も抵抗することなく、ここまでやってきた。ビフィから聞いた通りに事を運ぶのを受け入れたのだろうと、王子は思った。


「「ニプル、ティッツ! ニプル、ティッツ! キョヌ! キョヌ! パイ! パイ!」」


 チチカリ族の掛け声が一段と大きくなっていく。張りのない垂れ乳が、ブルンブルンと振り回されている。


 それを見て王子は気分が悪くなった。これ以上、あの巨乳輪を目にしていたら、さきほど呑んだビフィの乳汁を戻してしまうかもしれない。

 隣を見ると、四天乳たちが目の前に置かれたご馳走のような御馳走に口を付けようとしていた。それを見たビフィは、険しい乳付きで一同をたしなめた。


「あまり飲み物に手を付けませぬよう。毒乳が混じっているかもしれませぬ」

「良いではないか、良いではないか。せっかく彼乳らから頂いた乳を呑まぬというのは、失礼でございましょう」

「カーッ! 王子は飲まぬのですか? 乳持ち良くなれまするぞ!」


 ルブミンは乳を赤くして、やけに上機嫌に見えた。


「美味ちいのか?」

「なりませぬ!!」


 ビフィは王子から乳瓶を取り上げると、放り投げて割った。


「「オッパイ! オッパイ! ニュ! ニュ! ニュ! ニュッ!」」


 すると王子の隣でフェリンが立ち上がった。そして乳袋を脱ぎ、乳房を丸出しにすると、左右に振りながら踊りだしたではないか。

 フェリンもまた胸元を赤くさせて、チチカリ族の踊る列へと吸い込まれていった。


「……どうなっておる? フェリン!!」

「やはり、この乳の中に良からぬものが混じっていたのでございましょう……バスティ王子! わっちらだけでも逃げ出しましょうぞ」

「嫌じゃ! フェリンたちを置いては行けぬ!!」

「なりませぬ! 王子の乳を、乳民らは待っているのでございましょう!」

「いやじゃあああああ!!」


 ビフィは駄乳だにゅをこねる王子を置いて席を立ち、乳神像の元へと駆けていった。

 彼乳の異変を察知し近付いてくるチチカリ族を突き放しては、舐めるような眼で乳房を探していくビフィ。

 だが目当ての乳が見つからない。乳に足をかけて像によじ登り、背中に付いていた乳も、後頭部に付いていた乳にも目を配った。なのに、オリゴ王子の柔らかい美巨乳が見つからない。


「そんな……そんなはずは……」


 そうこうしているうちに、ビフィは何十もの乳に押されながら像の上から落とされ、その腕を後ろにされて捕まってしまった。

 その腕を掴んでいたのは、他ならぬプロティーンの四天乳たちだった。その隣には、フェリンに捕まえられたバスティ王子がいた。


「ビフィよ……わちらはどうなる!?」

「もはやこれまで……片乳のうございまする」


 王子とビフィは、祭壇の前の寝台にそれぞれ乗せられた。乳守や四天乳が腕や脚を押さえているせいで、全く身動きがとれない。

 二谷が抵抗するのも諦めた時、チチカリ族の内の一谷が、奥から粘土のようなものが入った乳器を持って歩いてきた。


「やめるんじゃああ!! やめろおおおお!!」


 チチカリ族たちは、王子とビフィの乳衣を脱がせ、その粘土を乳房の上に乗せて塗りたくっていった。

 そしてついに、ビフィの崩れやすい軟乳が、王子の崩れにくい微乳が、粘土によって完全に覆われた。

 チチカリ族の振り回す乳明かりが、二谷の上を撫でるように行き来し、粘土質のものは徐々に固まっていった。

 踊りや歌が最高潮にまで盛り上がると、フェリンが王子の胸元に手を当てた。


「一気に参りますよ。息をお止めください」

「やめろ、フェリン……こんなに小さかろうと、わちの立派な――にゅにゅにゅにゅにゅ!!」


 バリバリッ、バリバリッと、王子の胸から粘土が剥がされた。


「綺麗に取れましたね、王子」


 王子は、乳首をつままれたような気持ちになった。乳房を根こそぎ持ってかれたかのように思ったが、不思議と痛みは無かった。

 恐る恐る視線を胸の上に送ってみると、まだ微乳は胸元に付いており、乳首一つ取れていなかった。


「ん? フェリン?」

「お二谷がお暴れになるので、押さえていただけでございまする」

「にゅっ……にゅぅぅぅぅにゅっん!!」


 隣で寝かされていたビフィも粘土を剥がされていたが、そこにはちゃんと乳房が残っていた。

 すると、何谷ものチチカリ族の者が群がってきて、先ほど胸元から剥がした粘土質のものをありがたそうに高く掲げ、お祭り騒ぎのように喜び合った。


「なんじゃ、なんじゃ?」

「あれは《チチマスク》と呼ばれるものでございまする。チチカリ族とは、旅人たちから乳を借りることで、多くのチチマスクを作ってきた珍しい乳族にゅぞくだったのです」

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