コラム3 授乳制社会と乳渡り文化

 〈授乳制社会〉とは、乳王が乳の力――つまり乳房と乳汁の総合力――で乳民たちを治める社会システムである。


 ハーレムの中で最も大きい乳房を持つ乳族の中から乳王ちちおうが一谷選出され、乳房の大きさや乳汁の分泌量の多さ順に、下位の乳臣にゅうしん乳官にゅうかんなどが決められる。


 この授乳時代では、巨大な乳房こそが質の高い乳汁を出すのだと信じられていた(もちろん最乳頭さいにゅうとう乳学にゅうがくでは、この飲果関係は否定されている)。


 授乳時代は、大規模乳業が発達した産乳革命以降と比べると乳飲料供給が安定しておらず、全ての乳源が巨乳になることはなかった。発掘された乳石から推定した平均バストサイズは現代の尺度で言うところのBカップ~Dカップで、上位一割の有乳者でもGカップ前後だったと判明している。


 乳史上、最も古いQカップとして記録されているのは、〈巨乳王きょにゅうおうバスティ・プロティーン八十盛〉だ(これには古代式乳パッドを使用したという《偽乳説》があり、当物語の主人公である〈真乳王しんにゅうおうバスティ・プロティーン八十一盛〉こそが初のQカップだと主張する研乳者もいる)。


 乳王は、授乳ピラミッドの頂点に立っている。約千谷ほどの乳民が、百谷程度の乳官たちに搾乳物を納め、それを飲んだ乳官たちの乳を八谷前後の乳臣が呑む。そして最後にそれらの乳を、たった一谷の乳王が味わうことになる。


 とはいえ、乳王は一方的に乳汁を呑むだけではない。赤ん坊が生まれる度に祝乳いわいちちを振る舞い、病人が出る度に治乳なおしちちを与え、儀式の際には、乳神たちへの迎乳むかえちちを捧げるという重要な役割を担っていた。


 乳王の乳房から分泌される〈王乳おうにゅう(ローヤルミルク)〉には、数十種類の希少栄養素や、様々な病に作用する免疫物質が含まれており、それは現代の乳薬品をも上回る完全乳飲料であったとする研乳論文も出ている。


 王乳がそれほどまでの効能を有する理由は乳臣からの授乳だけでは説明がつかず、最大の理由は、この時代に行われていた乳渡り文化にあると見てよいだろう。


 乳渡りとはこの物語でも描かれているように、乳王の子である乳王子が、東西南北に位置する四π王国の王乳を呑み歩く乳化儀礼のことだ。このように書くと気楽そうに思われるが、実際には過酷極まりない意の乳懸けの旅であった。


 各国の乳王子は成乳の日に生まれ育った国を出発し、将来の乳君ともなる乳守と、お供の四天乳(有乳乳臣の子から選ばれた四谷の精乳)を従え、約一年をかけて巨乳π陸を歩いて回ることを義務付けられている。


 各地それぞれの環境に適応した乳源の乳汁である〈の乳〉には、その乳独特の免疫機能や栄養、風味があり、乳王子はそれらを口にして周ることで、次の乳王となるための育乳に励むのだ。


 また、〈乳の道(ミルクロード)〉が開通する以前には、この乳渡りの旅が唯一の異乳化交乳となっていた。各国で発乳された搾乳技術や乳産物は、この乳渡りの旅によって伝播し、また新たな乳術革新にゅじゅつかくしん(チチベーション)を促していくことになる。


【参考文献】

『乳は力なり――授乳制社会とは何か』(乳谷乳漏、乳栄社)

『王乳の成分分析』(ブーブス・ロケットティッツ、訳:乳谷乳漏、乳川出版)

『世π最大おっぱいランキング――3000年のベストパイ』(宝乳ムック)

『偽乳説』(デカメロン・ω・バズームズ、訳:乳山呑子、乳波文庫)

『プシャーマニズムの世π』(乳谷乳漏、谷間社)

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