乳賊〈前編〉

 バスティ王子の乳房は、己の乳房と引き換えにしてでも守らなければならぬ。

 乳守ラクト・フェリンは乳袋を捲り上げ、突如地中から現れた乳賊に向けて、怒りに震える美巨乳を突き上げた。π陽と乳月が並んだように大いなる乳房は、その身を爆ぜんとプルルンと弾んだ。


 これは〈乳神の怒り〉と呼ばれる、最上級の威嚇の構えだった。

 対峙した乳賊は、フェリンの乳房のあまりの大きさに驚くとともに、その美しさに見惚れ、己の乳房を萎ませた。


 四天乳も乳守の後に続き、その豊満なる双子山を乳賊の目の前に曝け出した。

 プロティーン王国の誇る五つの巨乳が横一列に並び、壁面に揺らめく乳灯の明かりに照らされる。

 乳守と四天乳は、プロティーン王国内π強の乳士にゅしたちだ。

 彼乳らは、途轍もない吸いっぷりの乳飲動物や、旅人の乳を狙う乳賊たちなどから乳王子を守る術を、幼乳期から刷り込まれていたのだ。


『ニュゥゥッ! ニュッ!! ニュゥゥッ! ニュッ――』


 乳拍子ちびょうしを刻みながら、π地をも揺さぶらんと猛烈に跳ねる乳房たち。


『ニュゥゥッ! ニュッ!! ニュッ!! ニュッ!! ニュッ――』


 訓練された乳捌きにより、乳房が縦横無尽に乱舞する。

 乳房と乳房がバチンバチンと衝突し、その音が洞窟内に響き渡る。

 乳首が、乳輪が、乳汁が乳賊の顔前へと迫り、その瞳に、鼓膜に、鼻腔に襲いかかった。


 彼乳らのあまりの美巨乳っぷりに、乳賊は思わず目を回した。彼乳の脚はすくみ、彼乳の胸は抉れんばかりに縮みあがった。

 巨乳の真の恐ろしさは、静止している時にはわからない。それは飛び跳ね、揺れ動くことにより、本乳ほんにゅうを発揮する。


 古来より乳舞には、その身に乳神を宿す力があると語り継がれてきた。巨大なる乳房による乳舞には、乳源はおろか、二回りも大きな乳獣を撃退するほどの力があったのだ。

 その盛大な胸宴は半夜ほど続き、乳賊の胸が地面に乳付けするとともに終わりを迎えた。



  ω ω ω



 バスティ王子は、乳房が裂けんばかりの胸痛により、目を覚ました。

 見知らぬような見知ったような乳壁の洞窟と、搾り果てた四天乳の姿を重ね合わせ、この場所で凄まじい乳闘にゅうとうがあったことを思い出した。


 それは幼き王子にとって、乳首が陥没せんばかりの経験だった。

 普段は誰にでも乳を分け与えるような優しい乳守や四天乳たちが、一斉に荒々しい乳房を剥き出しにしたのだ。


 それらは、自分が普段見ていた乳房とは大きくかけ離れたものだった。その乳輪は、分厚く盛り上がって真っ赤に染まり、その乳首は、脈を打って漲り、その乳首からは、怒れる乳汁が迸っていた。

 彼乳らを敵に回すと恐ろしいことになる。あらためて、それを思い知ったのだ。


「お目覚めになられたご様子」

「……あやちは?」

「あちらに……」


 ゼインに乳差された先、洞窟の隅の方を見やると、例の乳賊が萎みきった胸元を丸出しにしながら、乳縄で縛り付けられていた。


「すまんことをした。襲うつもりはなかったんじゃ……」


 先ほどは鋭く尖っていた乳房も、今では丸みを帯びた軟乳に変わっていた。その膨らみ、そして垂れ具合から考えるに、歳はフェリンらよりも一回りほど上のようである。


「あんたらが乳渡りの行者じゃったとは……チチカリ族の乳先ちさきとばかり……」


「『乳房隠して、乳首隠さず』じゃったな」


 ゼインは乳賊の元に歩み寄り、金色に光る輪を取り出した。


「この乳首輪には『わちこそは、オリゴ王子の胸元を護る者なり』と書かれている。おぬち、もしやカルボ王国の乳守か?」


 そう問いかけられた乳賊の目から、上の乳がポロリポロリと零れていき、彼乳の両の乳房が震えだした。


 しばらくして彼乳の口から、乳生最後の乳汁を絞り出すかのような、貧しい声が漏れ出てきた。


「すっ、すまねぇ……許してくんろぉぉ……お許しくだしぇぇぇ……」


 王子たちは乳賊の胸中を察した。そして、誰かが言い出したわけでもなく、彼乳に背を向けて眠ることにした。


 おそらく彼乳は、乳渡りの旅を完吸かんすいすることが出来なかったのであろう。それゆえに、国に帰ることすら出来なくなったのかもしれぬ。

 その夜、王子はフェリンの柔らかい胸に抱かれながら、一睡もすることなく、朝まで起きていた。

 このまま明けることがないのではないかと思うほど、長い長い夜になった。



  ω ω ω



 洞窟を出ると、乳木の葉の隙間から光の線が差しこみ、乳鳥たちは宙を舞いながら乳繰り合っていた。


 乳同は乳縄で縛ったままの乳賊を外まで連れ出した。朝の乳を飲んだあとに話し合い、乳賊を開放してやることにしたのだ。


「やはり、縛ったまま放っておいても良いのでは?」

「そうでございます。また襲ってくるやもしれませぬゆえ」

「ならぬ。こやちが乾き死にしてみろ。祟りとなってわたちらが毒乳を催すかもしれぬぞ」


 天乳たちが乳賊の処遇を話し合う中、フェリンは乳賊から取り上げた乳刃で、その胸や腕を縛り付けていた乳縄を断ち切った。


「次に乳無き働きをしてみよ。その胸を平らにしてくれよう」


 ゼインの詰め寄りに、乳賊は乳房を垂らしていた。もはや抵抗する乳力すら失せていたようだった。


「有り難き乳合わせ」

「おっと! 忘れておった!」


 王子は乳賊の乳衣を上に捲り、その左乳首に、彼乳から取ってしまった乳首輪を嵌め直した。


「おぬしにとって、これは大乳たいちちなものだったのじゃろう?」


 乳賊は、胸元に視線を落とした。

「これはもう……わっちには付けるべくもございませぬ」


「そう言わずにとっておけ。長生きしろよ」

「片乳無きお言葉」

「それでは参りましょう」


 王子の慰めにお乳儀して答えた乳賊を置いて、乳同は歩きだした。

 しばらく乳森に生い茂る乳木、乳草をかき分けながら進んでいくと、あとから追いかけてくる何者かの喚き声が聞こえてくるではないか。


「待ってくんろ!!」


 乳同が声のした方に振り返ると、やはりその声の主は先ほどの乳賊だった。彼乳は乳首をビンビンに勃たせ、乳衣に二つの突起を浮き立たせていた。


「わっちはカルボ王国の乳守、ビフィ・ズスにございまする! この度、バスティ王子に我が乳を捧げ、カルボ王国への道案内をさせていただきたい!!」


「なんと!」

 王子の視線が、その乳衣の横からチラリと見える、張りに張った軟乳へと注がれた。


 実のところ、王子はその乳房を揉みしだいてみたいと思っていた。その乳汁を、舐めて吸って味わってみたくて堪らなかったのだ。


 王子は旅の中でフェリンから、東の国の乳は甘いと聞いていた。

 先ほどは余裕のある乳振りをしてみたものの、その胸中ではその乳汁を呑まずい立ち去ってしまったことを、両乳をもがれるような想いで悔やんでいたのだ。

 あろうことか、ビフィの乳首周辺の衣が、じんわりと滲んでいるようにも見えた。

 もしかするとその乳は、胸貴なる王子である自分の口に吸われたがっているのかもしれない。きっと、そうに違いない。


「してビフィよ。その乳は、わちが吸っても良いものか?」

 王子が前に歩み出て言った。


「わっちの乳はバスティ王子様のものでございます。もしわっちを連れていってくださるのであれば、この乳をお好きな時に、お好きなだけ、呑んで頂いてかまいませぬ」


 ビフィは中腰になって谷間を作ると、王子に向かって柔らかそうな乳房を見せた。

 王子の喉元が、ゴクリと鳴った。


 だがもう片方で、乳守は溜め乳を漏らしていた。

 名乗ったからといってそれが真乳とは限らない。素性の知れない者を、安易に旅の仲間に加えることは憚られる。


「王子……?」


 しかし、またしてもゴクリと波打った喉元と、そのワクワクしながら揺れる胸元を見れば、あえて王子の答えを聞くまでもなかった。


「よぉし、吸ったぁ!!」

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