全裸

 沈みゆく西日に照らされて目が覚める。もう放課後の時間になっているようで、教室には誰も居ない。


 僕の最後の記憶は、三限目の英語の授業なので、そこから寝ているとなると、相当な時間居眠りを続けていたことになる。通りで妙にお腹が空いているわけだ。さっさと帰宅すべく席から立とうとすると、自分が全裸であることに気がついた。このままでは家に帰れない。かといってこのままここに留まっていれば、教師が見回りに来るだろう。もしかしたら部活帰りの生徒が戻ってくる可能性すらある。


 マズい。非常にマズい状況だ。どうしようかとモジモジしていると、不意に教室のドアが開かれる。モウダメダと観念して、教室のドアへ顔を向けると、そこにはクラスメイトのシマムラが全裸で教室に入ってきた。


「なに、まだ居たの?」


 シマムラは事も無げにそう言うと、僕の横を通りすぎて自分の鞄を手に取ると、そのまま教室を出て行く。女子バレー部の副部長であるシマムラの身体は、胸こそないものの、筋肉質過ぎず、適度に引き締まっており、抑揚のある見事な曲線美を描いていた。高校生らしからぬ確かな女性的魅力がそこにはあった。そこで僕は、服を着るということが間違っていることなのだと悟った。もはやこの場において、服を着るという行為が間違っていることなのだ。気づいてしまえば先ほどまでの羞恥心はウソのように無くなっていた。


 空腹感がそろそろ限界に近づいているので、早いところ家に帰ろう。鞄をもって教室を出ると、廊下にはポツポツ帰宅しようとする生徒がいた。とうぜん服は着ていない。下駄箱では体育教師が全裸で帰宅を促している。他の生徒同様、上履きから革靴に履き替えると、僕は学校を後にした。


 しばらく歩き、商店街に差し掛かった頃、周りからの視線に気がついた。みんな僕を見ている。僕を見ている人たちは、服を着ている。そりゃそうだ。裸の男が歩いていれば、不審がるのは当たり前だ。そう気がついた瞬間、猛烈に恥ずかしくなり、僕は電柱の影に隠れた。僕の家まで続く、この等間隔の電信柱に隠れていけば、なんとかバレずに帰宅することは可能だろう。


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