異界雷霆サンダルフォン ~或いは、異世界転生したらヒャッハーな南国だった~

あけちともあき

第一幕一章 とりあえず始まり

第1話 午前様っていうかもうすぐ朝

 十月七日、二十七時三十分……。

 つまり、深夜の三時半。

 俺は今日も仕事を終わらせ、自宅へと車を走らせる。

 愛車ファミリオンがくたびれたエンジン音を立てて、対向車すらほとんどない深夜の道路を疾走する。


 あと四時間半ほどすると出社の時間だ。

 家に帰ってシャワーを浴びて、ちょっと睡眠をとると新たな一日が始まる。

 いつもは多少マシで日付が変わる頃には帰れるのだが、今月はずっとこんなペース。

 キーボードを打ちながら寝落ちしかけたことも何度もある。

 繁忙期という奴は全く忙しい。

 土日返上で仕事をしていても、全く仕事が減った気がしない。

 営業は安い単価で仕事を取ってくるから、どれだけ片付けても俺の給料は大して上がらない。

 残業代なんて出るはずも無い。

 午後五時にタイムカードを押したら、そこから本番開始だ。

 全く、何のために生きているのか分からなくなる。


 上司は真っ青な顔をしてディスプレイにかじりついている。

 時々会議に呼ばれて出て行くが、帰ってくる彼の顔は土気色になっている。

 そのうち辞めるんじゃないだろうか。

 そうでなければ死ぬんじゃないだろうか。

 全く、社会と言うのは厳しいぜ。


 俺はそんな事を思いながら、車内でガンガンにかけているお気に入りのアニソンに合わせて肩を揺すった。

 学生時代にはまっていた作品だから、もう十年前になるか。

 ここ数年、アニメなんてチェックする暇すらない。

 アップテンポの歌が終わる。

 バラード調の曲が流れ、俺の脳内を十年前に見た、ゆったりとしたエンディングの画面がよぎる。

 すっと、体が弛緩して意識が遠ざかり始めた。

 あ、やばい、寝る……。


 そこで、急に凄まじいクラクションが鳴った。

 俺がハンドルに突っ伏して音を立てたんじゃない。

 対向車線。

 二つのライトが迫ってくる。

 やばい、いつの間にか車線をはみ出していたのだ。

 そいつは嘘みたいにでかいトラックで、俺のファミリオンなんてすり潰してしまいそうなサイズで、いつの間にか道は崖の斜面を走るようなルートになっていて……あれ、おかしいな、こんな道、帰り道にあったっけ。


 衝撃。

 エアバッグが膨らんで、ついで何やらハンドルに内蔵されていた部品みたいなものが飛び散った。

 俺は激痛と同時に浮遊感を覚える。

 車が宙を舞っていた。

 トラックに吹き飛ばされただけじゃない。着地の衝撃がなかなか来ない。

 横目に見えた窓の外、風景が下から上に向かって物凄い速度でスライドしていく。

 あれっ、これって落ちてないか?


 俺の視界で、変わらない高さを保っているのはトラックだけ。

 俺と愛車ファミリオンを吹き飛ばしたトラックだ。

 なんだ、お前も落ちてるのか!

 俺たちはガードレールを突き破り、どこまでもどこまでも落ちる……!

 まるで、地の底が抜けたみたいに、永遠にも思える落下が続き、そして唐突にその時はやってきた。

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