第36話 出戻り新人

白馬へ帰ると連絡していた日、春さんが松本まで迎えに来てくれていた。

そして、私がいない間に借りていた春さんの家に住むことになった。

春さんは、まるで娘が帰省した母親の様に

至れり尽くせりで迎えてくれた。


ちょうど、まだシーズンバイトの子がいる間に戻れたので

なんとかシーズンが明けて客層が変わる時に間に合ったようだった。


マスターは、借金取りからの任され仕事に終われ、

全く帰って来ることはなく、実質的には春さんが全ての切り盛りをしていた。

前にも言ったが、店はペンション内にあり、ペンションには今は

マスターの母、つまりオバァが1人いるだけだった。

オバァは、ペンションの営業はほとんどせず、

実質、スナックの厨房担当のようになっていた。

ペンションの維持費、オバァの買い出し、店の買い出し、

女の子への給料の支払い、マスターの借金返済などなど

全て春さんが任されている状態になっていた。


だが、幸いな事に、店は繁盛していたので、

何とか、その全ての支払いは売上から賄う事が出来ていた。

閑散期シーズンのバイトの求人で、数人女の子も確保でき、

店にはなんの問題もなく日々が過ぎていった。


山梨に残してきたアキラ君とは、なんだかんだ続いていた。

私が白馬に帰った途端、嫉妬病も再発し、

自分も白馬に帰って来ると言い出した。

『俺は不倫相手なのか』と煩わしいことまで言い出したので

放置しっぱなしだった離婚届を東京まで出しにいったりと

なんだか、バタバタとした春だった。


新人さんも馴染み始めた初夏、バタバタとした春が過ぎた。

バタバタした春は過ぎたハズなのに、

『春さん、ズタボロ事件』が起きるのだ。




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