第23話 なんやかや

黒服が1人居なくなり、新しい黒服が補充された。

全く使えない上に、妙に頑なな人だった。

黒服向き、水商売向きではない人だった。


仕事がスムーズに回っていないと居心地は悪くなる一方で

前にも増して遊び歩くことが増えた。

この頃は、週5・6ペースで来店していたお客様と良く遊んだ。

週5・6ペース・・・日曜定休なので、ほぼ毎日来店していたことになる。

この人は『沢田さん』といい、営業の仕事をしている人だった。

身だしなみがいつでもキチンとしていて、会話も楽しかった。

仕事の話は、ほとんど聞いたことはなかったが、

たぶん、優秀な人だったのだと思う。


私は抜弁天、沢田さんは富久町と思いがけずご近所さんだった。

そんな事もあり、日曜日にも食事や飲みに連れて行ってもらったりしていた。

とても気遣いのある人で、2人きりになる事は

家に送ってもらう以外は、ほとんどなかった。

食事や飲みに行くときは、いつも店にも連れて来る後輩を一緒に呼んでいた。

車で遠出する時は、他にも数人の飲み仲間や

その方々が贔屓にしている女の子も誘って出掛けた。

そんな生活は、疲れていた私を余計に疲れさせるのだが

家で大人しくしているのも居心地が悪く、また私は家に居る時間が減った。

限界だと感じていた。


そんな時、タイミング良く高橋君から

『たまには食事にでも行きませんか?』と誘われた。

忍ちゃんの時と同様に、あまり家で顔を合わせる事はなかったので

食事に行くぐらいしか話をする機会はなかった。

私は『もう出て行って欲しい』と言うつもりだった。

今から考えれば、高橋君にはお見通しだったのかと思う。

食事の席で、高橋君は、

『きちんとお付き合いしませんか?』と言ってきたのだ。

予想外過ぎてビックリした。

同業者なので、仕事を理解してる事。

だからこそ、仕事について一切の干渉はしない事。

自分の経験が私の役に立つだろう・・・等々。

私は、彼氏が欲しいとは思っていない事、

1人になる時間が欲しいから出て行って欲しい事を告げたが

高橋君は、『ゆっくり考えてください』と

『たまには一緒に食事をしましょう』と繰り返すばかりで埒があかなかった。

私は『お付き合い』を断って、『出て行って欲しい』と言っているはずなのに

全く意に介さない高橋君は、忍ちゃん以上に厄介だった。

結局、私の申し出は一切取り合ってはもらえず

『ゆっくり考えてください』で押し切られてしまった。


正直な所、私は高橋君を尊敬していたのだ。

顔も体形も好みのタイプだったのもマズイ。

6歳年上で水商売の経験も長く、仕事もできて、物知りだった。

私は『なんでなんで嬢ちゃん』と渾名されるほど

色んな事を知りたい願望が強くて『物知りな年上』が好みだった。

基本、私は黒服を『男』として一切見ていないので

高橋君が、まだ自分の店の黒服だったらナイ話だった。

そこまで計算しての高橋君の作戦だったのかは

結局、最後まで怖くて聞けなかった。

ただ、高橋君は口癖のように

『雨月を利用しようと思った事は1度もない』と言っていた。


2度目の食事の時、私たちは『お付き合い』することになり

同居ではなく、同棲生活が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る