第2章 放浪記

第11話 扉を開ける

4度目の家出をした時、私は19になっていた。


家出前の生活は、荒みきっていた。

毎日のように門限を破る私を、毎晩、母は襖の敷居の上に正座させ説教をした。


母の手近にあるリモコンやら果物やら、ありとあらゆる物が飛んで来た。

反射で避けてしまいそうになるのを我慢する。

避けると説教が長くなるからだ。

一度、終電を逃してしまい帰りそびれた友だちを連れて帰り、泊めた事があった。その日は説教が短いだけ私に取っては楽な日だったが、その友だちは翌朝我が家を出るとすぐ『オマエ、ホントに、ここの家族なの?実は拾われたんじゃないの?』と言われ苦笑した覚えがある。


荒みきっていた私は、夜な夜な記憶を飛ばして家に帰るようになった。

説教も聞かなくて済む。

完全に、家から親から現実から逃げていた。

何もかも考えるのがイヤになり、逃げるように家出した。

毎度のように、友だちの家を転々とし、たまに小遣い稼ぎのバイトをしていた。


母は、私を探すふりをしたが、とうとう捕まえには来なくなった。


友だちの家を転々するのにも限界を感じ始めた頃、『忍ちゃん』と言う風変わりな少年を紹介された。

彼は、1ヶ月間留守にすると言う先輩のアパートの部屋を借りていた。

そこに転がり込むのに2日とかからなかった。


放浪人生の始まりだった。

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