第27話ようじょ、ワイン会を開催してみる。


「それ、プティ・リオンのことだよね!? 【スーパーセカンド】のセカンドラベルなんてすごい!!」


 閉店したワインバー:テロワールのロッカールームに沙都子の声が響き渡たる。佐藤から貰ったワインがどれぐらい凄いものなのか、沙都子へ聞いて、この反応。やはり佐藤がくれたワインは物凄いものらしい。

 沙都子は着替えのためにブラウスのボタンをはずしているのも忘れて、目を輝かせている。


 正直、幼児体型な寧子よりはるかに出ているところが出ている沙都子が羨ましい。


「その【スーパーセカンド】ってなんですか?」

「”ボルドー2級格付けなのに、1級格付けに匹敵するワインってことだよ! いいな、いいな! しかも佐藤君からだなんて良いな!」


 大人びた雰囲気の沙都子が、まるで子供みたいにはしゃいでいる。

しかも、たぶん佐藤のことが好きなんだろう沙都子だから、ワインも、その出先もどっちも興奮に値するものなのだろう。


 何気なしに【レオヴィル・ラスカーズのセカンドワイン】がどれだけ凄いものなのか沙都子に聞いたらコレである。

 もう一人で飲むことなんて、出来そうもない。


「じゃあ、一緒に飲むですか?」

「ほんと!? やったぁ! じゃあ私の甲州も一緒に開けちゃおうね!」

「そうですねぇ。となると頭数が必要だからクロエと佐藤さんもですかね?」

「うんうん! またクリスマスの時みたいにみんなで飲もうね!」


(ついでにクロエの貴腐ワインも開けますか。きっと沙都子ちゃん喜ぶのです)


 しかしここに来てふと思う。

 ワインは全て上質なモノばかり――だったらさかなはどうするか、である。


 前回にスパークリングワインの時はクリスマスっぽいイメージと言うことでケーキやチキンレッグなどを用意して、なんとなくそれっぽい品ぞろえにできた。


 しかし今回は何のイベントでもなく、ワインを飲むだけで、何を食べながらが良いか。しかもいずれのワインも大事な友達が寧子のためにと買って来てくれた珠玉の品である。相応の肴を用意しなければ大変申し訳ない。


「むぅ~……」

「寧子ちゃん難しい顔してどうしたの?」

「いえ、せっかく良いワインを開けますですから、食べ物はどうしようかと……」

「だったら【ワイン会】にしてみれば?」

「「きゃっ!」」


 突然更衣室の扉が開き、寧子と沙都子は揃って悲鳴を上げる。


「女同士なんだからそんな声あげなくてもいいじゃん」


 扉の向こうでは店主のラフィさんが苦笑いを浮かべていた。


「で、そ、その【ワイン会】ってのはなんですか?」

「んーと、どこかのお店で好きなワインを持ちこんで飲む会だね。いわゆるBYOシステムってやつ! はい、沙都子ちゃん解説!」


 ラフィさんが相変わらずブラウスがはだけたままの沙都子を指差す。

 ピンクの下着に包まれた胸がぽいんと揺れて、かなり羨ましい。


「え、ええっと……Bring Your Ownの略で、意味は”お好きなお酒を持込みしてください”です。主にオーストラリアのレストランで行われています!」

「おっけー合格。つまりレストランへ自分の好きなワインを持ち込んで飲むことで、日本じゃ”ワイン会”なんていうこともあるね」

「へぇ! なるほど!」


 これならばプロの料理と所持している上質なワインを同時に楽しめる。それにここはワインバーで、ラフィさんはお料理上手なのだから――


「じゃあ是非、ワイン会はここ……」

「あー、うちはだめぇー」

「ええ!? な、なんでですか!?」

「うちはOSIRO自慢の直輸入ワインを提供するワインバーだからねぇ。それに、お店はうちだけじゃないし、経験と思って! BYOできる知り合いのお店があるから紹介するからさ?」


 獅子の親は子供も尖刃の谷へ突き落とし、はいあがった子供だけを認める。

にこにこ笑顔だが、やっぱりワインのことになると厳しさを見せるラフィさん。

 でもラフィさんの言う通り、これは良い経験なのかもしれない。


「いえっす まむ! 石黒 寧子、これよりワイン会開催に向けた任務につくのです!」


 背筋をピンと伸ばして、敬礼の真似事。

しかしほぼふくらみのない寧子の胸は、下着の下で微塵も震えない。

 どうやったら沙都子やラフィさんのように成長できるのか、とっても知りたい寧子なのだった。 

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