6話—5 激突!超戦艦 大和 対 超戦艦 武蔵!

「対空砲火来るぞっ!問答無用と言う訳か……!」


 先陣を切ったのはレゾンはん。

 彼女の得意とする突撃の技は、速度を活かした奇襲に特化し……戦場へいち早く駆け付けるには打って付けでもあります。

 ですがすでにこちらを察知した御津迦みつか君と思しき敵対者——その彼が操っているであろう魔導超戦艦 壱番艦、大和の対空砲火がレゾンはんを射程に捉えます。


 そしてその放たれる砲火へ、ウチはささやかな安堵を浮かべます。

 放たれた砲火はこの日本と地球に破壊をもたらす諸刃の剣……ではなかったからです。


「お姉ちゃん!大和の砲火は重力子グラビトンによる単一展開——少なくとも、あちらはこの世界をメチャクチャにしようとは思てへんみたいおす!」


「だね!けれどその砲火が四国へ——そして日本や世界に向けば、何も変わらない!止めるよ……若菜わかなっ!」


「……うん!止めよう、お姉ちゃん!」


 それは初めてウチを呼称したお姉ちゃんの咆哮。

 テセラお姉ちゃんは、ウチを本当の妹として呼称してくれました。

 少し頬が紅潮するも……今は眼前の大和を止めねばならぬと、数字の獣ビーストの力を最大開放します。


「ウチが獣はんの力で大和の砲撃射線余波を予測しますえ!そしてカガワの都……さらには日本本土全域への影響を軽減しますよって!お姉ちゃんとレゾンはんは、武蔵合流までの時間を稼いでくれはりますか!?」


「了解だよ若菜わかな!レゾンちゃん……私もあなたも、まだ魔法力マジェクトロン回復は十分じゃない!相手は世界の誇る超技術の塊、無理は禁物だよ!」


「ふっ……心得ているとも!こちらは武蔵と共に戦場をかけた手前……同型艦の弱点も承知済み——せいぜい時間稼ぎと行こうか!」


 と口にする赤き魔王様は、どこか楽しげな面持ちで〈黒龍の鎧ブラックドラゴン・インフェルノ〉の背部スラスターから気炎を吐き……大和の主砲射線へと飛びます。

 そのまま主砲射線が、大地から上空へと向く様に誘導し……ウチの負担を軽んじてくれ——やっぱり彼女は、お姉ちゃんが頼りにする素敵な魔王様だなと感嘆を覚えてしまいます。


 主砲がレゾンはんを捉えるか否かで、今度はお姉ちゃんが纏う〈天楼の魔導王女マガ・プリンセス〉が対空砲火をばら撒き大和とすれ違うと——その弾幕は大和の空域を覆う強固な防御膜により弾かれます。

 そしてそれは、私達が皆想定していた……大和に与えられた絶対防御障壁に他なりませんでした。


八咫天鏡やたてんきょうっ!やっぱりこの障壁の前では、私達の攻撃も通らないか……レゾンちゃんっ!」


「了解だっ、テセラ!私が大和の進行方向を押さえる……いかな絶対障壁とて、それが物理攻撃をも遮る攻撃である以上——速度も満足には出せまい!」


 滑空する様にカガワの空を舞うレゾンはんが大気を孕む様に静止——静から動へ変換された勢いで大和が目指していると思しき封絶鏡方向へと躍り出て、足止めの突撃を敢行します。


 その間も止まぬ対空砲火と主砲の射線と発射タイミングを精密観測したウチは、少なくとも放たれる砲火に合わせた障壁への穴が……それも一瞬を計算した様な瞬く間の隙間がある事に気が付きます。

 ですが——


「この主砲と対空砲火……放つには障壁を一部開けなならんみたいおす!けど——その隙はほんの僅かな上、そこから侵入しようものなら第二射目をモロに喰らう感じおす!」


「了解だよ若菜わかな!何にせよ現状の私達では足止めが精一杯!武蔵との合流後が勝負の鍵になる——それまで可能な限りのデータ観測をお願いね!」


「ふふっ!お姉ちゃんの頼みなら仕方ありまへんな~~!お任せあれ、おすえ!」


 確かにテセラはんはお姉ちゃんです。

 けれど今までの関係が無くなる訳でもなく、姉妹呼称以外は今まで通り——それがウチらが出会って構築して来た関係なのです。


 ウチは言葉通りに獣はんのシステムを解放。

 同時に大和の砲撃射線軸を観測・演算をこなすと、それをお姉ちゃんとレゾンはんの各戦乙女ヴァルキュリア内システムへと転送——

 それを基軸に二人が足止めに回る形で、大和との最初の接敵とします。


 その後方——天空を駆けた影は……ついにその姿を現します。


 それは決して望まぬ戦い……けれど避けては通れぬ因果の一騎打ち——

 この世界……この日本でかつて生まれ、蘇った新たな姿で雌雄を決っします。


 魔導超戦艦—— と、 の戦いが……始まるのです。



∽∽∽∽∽∽



 それは日本はカガワの都上空。

 約1500mを数える天空の戦い。

 すでに都を覆う八咫やたの秘術である鏡の盾がその地全土を覆い……国家より敷かれた戒厳令の中で、未だ古き良きを残す町並みの民は——

 映像で、目視で……そして口づてでそれを知ったであろう。


 今彼らの頭上……1500に達する距離をして、その巨大さは存在を見せ付けている。


 視界に映るのは二つ。

 一つは端々に雲海の様な純白と大海の如き深い蒼を宿した巨艦。

 もう一つは生命に流れる鮮血に似た深い赤と、漆黒に近い黒銀を纏う巨艦。

 しかし……双方が持つ薄い蒼白の船艇部は、共に大気を孕む様に開かれた翼。

 それらが同じ成り立ちから生まれた物を思わせた。


 だが——

 地上に匂いては視認出来ぬ全容を、何処からかの映像で見定めた者は口にするであろう……それが決して見知らぬ姿では無い事を——

 それを目にした日の本の民皆が、そこから生まれた悲しみを基盤とした平和を享受していたのだから。


「目標を有視界に捉えました!間違う事などありません……魔導超戦艦 壱番艦——強奪された大和ですっ!」


「確かに……この武蔵と同型ですわね。そして何と神々しい姿——壱京殿……あれがこの武蔵と姉妹でもある誇りを背負いし日の本の——」


 現在武蔵総監を担う吸血鬼の妹カミラが、モニター映像へと現れた巨艦の姿へ賛美を贈り——


「ええ、その通りです……カミラ様。あれこそが守護宗家からの依頼に基づき……この日本はおろか、あまねく世界を深淵の脅威より守らんと生み出された壱番艦——」


「なれど今視界で、望まぬ運命を辿らんとする我ら【真鷲組ましゅうぐみ】が手掛けし最高傑作……魔導超戦艦 大和にございます。」


 同じく武蔵にて全体指揮を任されるは、宗家お抱え技術屋集団【真鷲組ましゅうぐみ】の統括部長であり魔界勢の一員となった緋暮 壱京ひぐれ いっきょう

 真鷲が生んだ匠の技と生き様がおとしめられる現状の中で、歯嚙みと共にその、赤き魔王の妹である少女へ献上する。


 心情を察する吸血鬼の妹も、瞳を伏せ……努めて労りを乗せて言葉を紡いだ。


「——守りのために生み出した力。しかし訪れたこの現状はさぞ無念でしょう——ならば、何としてでも奪還せねばなりませんね、壱京いっきょう殿。」


「……魔界勢方はご存知ありませんでしょう——大和と武蔵と言う、本来その名を冠する船達は経緯を持ちます。が——導かれたのは、——」


「我ら真鷲組ましゅうぐみは、せめてその因果を辿らぬ未来のためにとあの艦らの再生を試みた——けれどその根底にあるものまでもは変えられぬのかも知れません。だから……だからこそ、こんな戦いは終わらせねばならないのです!」


 贈られた労りへ切なる願いを解き放つ統括部長——そこへ命を尊ぶ真摯なるたぎりを感じ取る吸血鬼の妹は、これこそかの〈王国〉をシンボルに持つマリクトの使者と改めて賛美を贈る。

 魔界は一世界、マリクトを治めしはかつて日の本の群雄割拠の時代を駆けた戦国武将——かのノブナガ・オダ・ダイロクテン。

 その強烈なカリスマに心酔するは、同戦国時代に生きた大海賊……【村上水軍】の末裔であり——

 今を生きる職人集団の取りまとめ役……それが緋暮 壱京ひぐれ いっきょうであると。


 統括部長のたぎりに合わせ、伏せた双眸を上げた吸血鬼の妹はモニターを睨め付け——今は姿見せぬ凶行に及んだ者へと叩きつける様に、魔王の妹たらしめる膨大な魔霊力の本流を爆発させる。


「悲しき定めに揺れる艦を強奪しての凶行——いかな、お姉さま方の身内であろうと看過できるものではありませんわ……!」


「これより武蔵は、眼前の敵対勢力に奪われし悲しき艦奪還のため戦闘体制へと移行します!機関重力子グラビトン単一展開にて出力最大……壱京いっきょう殿、よしなに!」


「アイ、マム!武蔵機関最大——目標、!主砲副砲一斉射……放てーーっっ!!」


 切なる思いを乗せた一撃が……歴史上世紀の対戦となる戦いの狼煙となり——

 カガワの都遥か上空、竜神封絶鏡を前にしての……超戦艦同士の砲撃戦が開始された。

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