〈ゴースト・セクサロイド〉 - 1P 鷹木彰人の証言


▼鷹木彰人の証言


「ありゃあ一昨日のコトだ。そう。おめーとダナオン(※多々良田渚央のあだ名である)が写真部で話してた、あの日の放課後だ。オレはアイツに呼び出されて、いっしょに部誌の発掘調査をしていたわけ。


 知っての通り、ダナオンの文芸部は今、各部各部室にある活動日誌のバーコード化をやってるだろ。なンでか知らねーけど、その件であの女はオレを呼び出しやがった。オレが文芸部の入部の件でひと悶着あったのは、おめーも知ってるとおりだ。ぶっちゃけ弱みを握られてるから、あいつの誘いは断れねーわけ。それがどンなに忙しいときでも、オレが相当な苦労してほかの女の子と約束をしていてもだ。ンなときに限って『部誌探しを手伝え』と抜かしやがった。マジでどうかしてるぜ。


 あァ。話がズレちまった。なンだっけ……そうだ。部誌探しだ。


 ダナオンはおっかねえけど肌は白くて腕は細いだろ。その辺りはマジで不健康そうな文系ってカンジだしよう。それにやっぱり女の子だから重い段ボールの整理をさせるわけにはいかねえ。だから手伝った。それに対してオレぁ別になんの感慨も抱いてねえわけよ。下心なんてねえよ。性格悪ィ女だろうが、ブスだろうが、重そうなモノを運んでる子を放っておくなんて世知辛いだろうよ。そーゆーのを自然にやれる男だからねオレは。自分がやりたいからやってるだけ。なのにダナオンは『モテるために点数稼ぎかしら』なんて抜かしやがる。だからオレは――どうせなら百点満点にしてやろうじゃねえか。そう思って腰を殺す勢いで積み重なった段ボールを横一列に並べまくってやったのよ。アレはマジで気分がよかったね。自分を過小評価する女の前でなにかを成し遂げたとき、オレは世の中のすべてが光輝いて見えるんだ。夜中にぐっすり安眠できる秘訣さ。


 悪い。また話がひゅいひゅいっとしちまった。とにかくオレはダナオンの前で段ボールを並べまくったんだ。そんでアイツに云われた通り、一つ一つ封を切って中身をチェックしてったわけよ。そしたら何か……アレが出て来たんだよ。アレ。あのー、発砲スチロールの板みたいな。和長がよく使ってるやつ。


 ――そう。それ。スチレンボードだ。


 とにかく、スチレンボード。あれが出て来たわけ。ンで、なンか文字が書いてあんだけどよ。読めねえのよ。オレぁ眼ナノ(※点眼タイプのナノマシン)差してるからよう。解析アプリとかで読み取れるかなーって思ったンだけど、該当なしなんだなーこれが。意味わかんねーと思ってその辺に置いといたら、ほかにもたくさん見つかったわけよ。そしたらダナオンがパズルみたいに並べ始めるから、それも手伝ったわけ。端っこのほうで文字が切れてるから、それが繋ぎ目じゃないかと思ってさ。何回か並べ直して『こンな感じじゃね?』と思って、ちょい遠くから離れて確認しようとしたの。そしたらマムの警告を受けて、わけわかんねーうちに警察が来たわけ。


 焦ったあ。マジで岐阜県警連れてかれると思った。早川県警で良かった。


 取り調べは夜中まで続いたよ。深夜かなあ。留置所に入れられた。お爺ちゃんのヤクザが、麻薬所持で捕まっててよう。看守が「優しい人だけど挨拶はしっかりしなよ」とかってオレに云ってきて、寝てるその人を起こして挨拶させるもんだから怖かった。牢屋のなかにトイレあんだけど、お爺ちゃん下痢とゲロばっか吐いてて、オレもこの先道を踏み外しても、マジで麻薬だけはやめようッて思った。とりあえずその日は寝たよ。


 ンで次の日ね。朝起きて、ほかの人らと一緒に爪切りとかして、ヤクザにお爺ちゃんが選別がわりにコーヒーくれてさ。飯はやわらかかったなあ。貸出用の本は全部黄ばんでた。


 え? 留置所の話はいい? あっそ……。そのあとはずっと警察がマムの通達を待ってた。正午までにマムの判断が下りなかったら刑事訴訟法の適応に切り替わるから、オレはそれまで留置所にいたンだけど。なンか昼過ぎには釈放されたのよ。警察にもマムがどうしてオレを逮捕させたのかはわからなかったらしくて。だから前科もなし。逮捕歴もなし。まぁ捕まった日の夜に指紋とか写真とか取られたから、たぶん犯罪者予備軍にはなってンだろうなあ。進学とか就職に影響するかと思って焦ったぜ。マジで勘弁して。」

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