俺の精神力がエトセトラに消費されている~!?

偽善者!?

異世界でパーティー結成

第1話 メイドさんに押し倒されて精神力を消費する

「なあ、この魔石みたいなのはどのくらいの価値があるんだ?」

『価値も知らずに持ち歩いていたのか?』


 イノセントから「街に行くならこれを持っていけ」と渡されたのだが。


 当の本人も価値が分からないらしい。


 もとい、興味無し。


 彼女の関心事は、世界の安定。バランサー。


 ただの人間だったら、絵空事だと馬鹿にしたと思う。


 しかしである。


 異世界人である自分を。真っ先に探知して目の前に現れた時は、死を覚悟した。


 だって、この異世界に踏み入った瞬間にだぜ? 


 剣を構えて殺意丸出しのヴァルキリーに遭遇するなんて。


 どう考えても、死亡フラグだ。


 最初に出会うモンスターは、スライムだと決めているのに。


「エトセは分かるんですか? 幽霊みたいに俺に憑依してるくせに」

『なんじゃと。誰のお陰で、異世界まで来られたと思っておるのじゃ。ぶっ殺すぞ!』


 ともあれ、世界の守護者みたいな彼女に懇切丁寧こんせつていねい説明した。


 異世界人だったら、問答無用に殺されても文句は言えないだろう。


 が、彼女にとっての判断基準は。


 この世界に悪影響を及ぼす程の力を有しているか。


 自分はただの引きこもりだ。


 ぱっと見、ひ弱な人間。イノセントにもそう判断されたのだった。


 そして、餞別せんべつにこの魔石まで頂いて、今に至る。


「……あの、旦那様。お花はいかがでしょうか?」


 価値の分からない石ころを眺めていると、不意に声をかけられた。


 視線を送ると、メイド服を着て花を差し出すエルフの女性が。


「エルフさんのメイドさん? 花売り? とても美人。……ご丁寧にどうも。買わせて頂きます」


 営業スマイルだろうと勝手に判断したのだが。


 気分は悪くない。


 花を買う事によって、あわよくば親しい関係に。


 そんな下心が、花の購買こうばい行動に表れていると思う。


『ちょ、おまwww、花というのは……』

「わたくしが、美人ですか? ふふふふ。お世辞……ではないようですわね。この方ならば……」




「宿屋の二階に案内されたけど、準備ってなんだろな? 花を包装してくれるのかな?」

『おぬしの頭の中がお花畑じゃ。悪い事は言わぬ。断った方がよいぞ』


 エトセトラによる忠告。警告か。


 花を購入する不純な動機が筒抜けだからな。


 いわゆる、嫉妬で悪態をついているのだと理解した。


 この時は。


「なーに、この魔石の価値を知るにはいい機会じゃないか。花がどのくらいで買えるで大体見当がつくし」

「……お待たせいたしました。では、さっそく」


 しゅるしゅると布がれるるような音がした。


 それから、衣服がバサッと無造作に落ちる音も。


「……初めてなので、上手くできるか分かりませんが。お願いいたします」


 メイド服から下着姿になった彼女を確認する。

 

 今更ながら、異常事態に気づく俺は。


 危機管理能力を疑われかねないだろう。


 ヴァルキリーに襲撃された経験を全く持って、発揮していない。

 

 つまるところ。


 間抜けだ。


「ちょちょ、ちょっと待って」

「何か気に障りましたか?……勝手に服を脱いでしまったからでしょうか? 旦那様自身の手でおやりに?」


 た、確かに、自信の手で脱がせるのも一興。


……そもそも、女性と触れ合う機会はコンビニの店員さんぐらいなもので。


 そんな経験は無いのだが。


「……メイドさん? 植物のお花は!? そっちが買いたいよ!?」


 我ながら稚拙ちせつな返答であり、断り方だと思う。


 花の意味を誤解していた自分に非があるけれども。


『うわー。最低ー。メイドさんに恥をかかせるなんて。マジ引くー。チキンじゃね?』


 エトセトラが女子高生口調であおっているのをしり目に。


 事態は進行して行く。


「抱いてくださった後に差し上げますわ。とにかく、お願いします! 時間が惜しいのです!」


 メイド女性の力だと思えない。


 四の五の言わぬ内に、強引にベッドに押し倒された。


 心臓の鼓動がうるさいぐらいに主張する。


『肉食系メイドじゃな。いいぞ、もっとやれー!!』

「ね、姉さま、む、無理しないで。わ、たし、の為に」


 もはや、観念して成り行きに身を任すのかと諦めかけた時。


 かすれた様な小さな声が。


 声の主を確認すると、またもやメイド姿だ。


「貴女は部屋で安静にしてなさい。申し訳ありません旦那様。さあ、続きを」

「妹メイドちゃん? 体の調子が悪いのかな? お金はいらないから、治療してあげるよ? 無料で」


 ああ、なるほど。


 妹を医者に見せる費用を工面する為の行動だったのか。

 

 行為の続きが出来ない事については……残念だと強がっておこう!


 これでも、健全な男子だから。


 未経験の心境を察して欲しいよ!?


「本当ですか? 旦那様?」

「もちろん。嘘つかないです。その前に着替えてくれるかな。目のやり場に困ります!?」





「ふーむ。左わき腹が腫れているな。それに発熱か。エトセ治せるか?」


 残念ながら医者では無い。


 なぜこの様な症状で妹メイドさんが苦しんでいるのか。 


 さっぱり、ちんぷんかんぷんである。


『ふん、お主の精神力を消費すれば大抵の事は出来ようぞ』

「はあ、はあ、ねえさま。わたし、死んじゃうのかな? まだ、たくさん楽しい事、嬉しい事、経験してないのに」


 息もたえだえ、苦悶の表情で訴える。


 一刻の猶予ゆうよも無さそうだな。


「ば、馬鹿な事、言わないで! 貴女が居なくなったら、わたくしはどう生きていけば」


 泣きながら悲痛な表情をお姉さんが浮かべる。


 不謹慎ふきんしんだが、妹の身を案じる姿に、心が動かされるな。


「では、ちょっと患部を触るね?失礼します」


 表面上、自分は一般人である。


 だが、その自分がなぜ異世界まで来られるのか。


 理由はこれだ。


 【スキル発動 健康体 あらゆる病気、熱、痛みなど完全に治す】


「姉さま? もう大丈夫ですよ? あれ? わたし、実は死んだのかな?」

「そんな!? 本当に異常は無いのですね? ああ、もう、この子はいつも心配ばかりかけて」


 抱き合うメイド姉妹。念入りに妹の体の様子を確認している。


「ひゃん!? そ、その、手が、くすぐったい……です」


 治療行為で夢中になっていた為、妹さんの腹部に手を残したままだ。


 すかさず、手を引っ込めた。


「あ、ああ、ごめん。無事に成功してよかった……ふみゅ~」


 世界が暗転し始める。


 これがスキルを使用した反動。リスク。


「旦那様!? どうなされました!?」


 意識が遠のく。妹メイドちゃんの胸の中で気絶するのか。


 それは、それで……ごほうびかな……なんて愚かな事を思いながら。


 意識が完全に途絶とだえた。




「ふあ? 妹メイドちゃん?……寝顔可愛い。お姉さんもぐっすり。安心したんらね」


 すやすやと寝息を立てて眠っているメイド姉妹。


 頭がぼんやりする。


『やっと、目覚めたか。とは言え、真夜中じゃがの』


 エトセトラの声。夜中? 


 そうだった、スキルを使用してそのまま意識を。


『寝ぼけておるのか? しかし、随分とモテモテじゃのう、お主!』


 またもや、エトセトラの指摘で周囲の状況を確認する羽目に。


 しかも今度は、両メイドさんは両腕に絡みついている。


 無論、女性特有の胸の感触が!?


「……エトセ、なんでこのような有り様に?」

『気を失ったお主を丁重に二人が看護した結果じゃ。そうこうしてるうちに夜になり、睡眠。以上』


 完全に目が覚めてしまった。


 多少強引であるが、振りほどく努力を――


「らあめです。看病するのは、わらしの責任ですからね! えへへへ!」


 寝言を言いながら。左腕に妹メイドさんが、さらにしがみついてきた。


 か、感触がヤバい。……う、うごけない。


「……だん、なさま。もうし、わけ」


 謝罪してる夢でも見ているのか。


 お姉さんも右腕に!?……身動きが完全に出来ないぞ!?


『では、わらわはお主の正面に』

「は!? お前、実体化できんの!?」

『バーチャルリアリティーみたいなものじゃ。ただし、感覚共有しておるからの。この様にして』


 エトセトラが無造作に俺の体に触れる。


 本来ならば幻覚扱いなのだけれど。


「うわ!? 触られる感触がある。……なんで全裸なイメージで、ねっとり見つめてくるの!?」

『精神力を回復するためじゃ。欲望の充足が一番だと以前説明したはずじゃが』


 いや、このままゆっくり寝かせてくれ。


 精神力を消費したのだから。


 睡眠欲の確保が先だろ!


『戯れでたわわな胸の感触をゆっくり味わうがよいぞ。夜はまだまだ、これからじゃ!』

「お、俺は、一刻も早く寝たいの!? エトセトラ!? いやああ!?」

『……この後、めちゃくちゃ戯れあった💗』



 


 

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