第2話 彼女(少し獣臭い)ができました

「とりあえず逃げるか」


 考えることを後回しにし今は逃げることに専念する

 後ろから聞こえてくるのは怒り狂った黒龍の怒号だ

 追いつかれたら最後、俺はもう一度死ぬことになるだろう

 それだけは避けたい

(痛いからなぁ)

 走っているときに気付いたことがある

 この周辺一帯はおそらくあの黒龍が生態系のトップに立っている......と思う

 洞窟付近には生物がまったくいなくなっていた、と言うか逃げるように森の奥に逃げて行った

 それだけあの龍は危険ということがわかる

 まあ龍以上の生き物なんてそれこそあってはいけない存在だと思うが


「はぁはぁはぁ......」


 一旦その場に立ち止まり呼吸を整える

 万年帰宅部の俺には体力の限界値が低すぎる

 このままだったらあの龍に追いつかれどうなるかわからない

 早く何とかしないといけないかと思い周りを見渡すが特にこれと言ったものはない

(確かこうゆう系って何か能力ををもって転移するってあいつが言ってたもんなぁ)

 俺は友達(向こうが勝手に話しかけてくるだけ)に言われたことを思い出す


 友達「転生、転移をしたものは必ずと言っていいほど世界を亡ぼせるほどの能力を持ってくるんだ、ワクワクするよなぁ、俺も転生してぇよ」


 その話を聞いてなんだそれと思っていたが、今は本気で祈る


「神様、どうかお願いします、僕に与えし力を教えたまえ!!」


 天に向かい手を大きく広げ叫ぶ

 だが反応はなくむなしくその場に響くだけだ


「そこかぁぁぁ!!!!!!」


(あ、やべ、ばれたわ)

 叫んだことで黒龍に居場所をばれてしまった

(てかなんでだよ、あいつが言ったとおりにしたのに何も起きないし、これじゃ生き恥さらしただけじゃん)

 クソッもう追いつかれる


「こうなったらやるしかないか」


 俺は覚悟を決め黒龍のほうに歩き始める

 黒龍は立ち止まりこちらを見る


「ほぉ、覚悟を決めたようだな」

「ああ、もう逃げない! みせてやるよ、俺の本気を!!!!」

「かかってこい!! 人間!!!」


 うぉぉぉぉと走り込みジャンプする、

 そのまま俺は空中で2、3回回転した後、地面に足をつき頭を地面につけた


「ごめんなさい! 許してください、まさか本物だなんて思わなかったんです、僕にできることだったら何でもします!!」


 そう俺は本気を出した、前の世界では俺のプライドが許さなかったが今の状況でそんなことは言えない。

 俺は黒龍に対して土下座の上位互換飛び土下座ジャンピングどげざを龍にくらわせてやった

(決まったな)

 そう確信した、証拠に黒龍は何もしかけてこない

 ちらりと上を見て確認すると

 そこには......

 とてもにこやかで、すがすがしい笑顔をした黒龍の姿があった。

(まあ表情なんてわからないけどな)


「で......それはなんだ?」

「え、とわかりません?」

「ああ、ただとてつもなく不快になったとだけは伝えておこう」

「そうなんですか~、じゃあ僕は失礼します、ははは」


(ってなんでだよ! 土下座が通用しないなんて、この世界終わってるな)

 逃げながらそんなことを思った

 

「やばいな、そろそろきつくなってきた」


 小一時間ぐらいずっと走り回っている、帰宅部の俺だ、それに学校まで基本的にバスで言っていた俺にずっと走り続けることなんて無理だ

 疲れ果て体を木に預け少し休む


「ずっと背景変わらないし、今どの辺にいるのかも分からないし、森から出たい......」

 先ほどからずっと走り続けているが一面緑は変わらない

 この先に開けた場所などないと思わせるほどだ


「このまま逃げ続けても無駄かもな」


 もし外に出れたとしても黒龍は地の果てまで追ってきそうだ

 そう思わせるほどあの黒龍のしつこい


「死にたくはないな......こんなところで」


 上を向き空を見上げる


「蒼い、な......当たり前か何言ってるんだろうな、やめだやめだ、こんなところで諦めてたまるか」


 危うく自暴自棄になりかけてた

 思いっきり自分の頬を叩く

 心地よい音がその場になり意識がはっきりする


「とりあえず考えるか、あの龍から逃げる方法」


 ・このまま走り続けて森の外を目指す

「そもそも開けた場所に出れたとしてそこから逃げきれるのか?」

 無理だな、出れたとしてそこから的あてゲームが始まるだけだ、それじゃ意味がない


 ・隠れられる場所を見つけてそこに潜んでおく

「黒龍があきらめたとして仮に安全になったとしても安全ではないな」

 黒龍が洞窟に戻れば黒龍から追われる危険は去るだろうがその先が問題だ

 森の中には黒龍以外にも危険な生き物がいないとは限らない


 考え始めるとどれもこれもパッとしない答えが出てくる

 そもそも俺はなんで鬼ごっこなんてしなきゃいけないんだ

 相手は龍だぞ、逃げ切れるわけがない


「訳がないんだよな......もしかしたら、もしかするか?」


 賭けだが他の案よりその後が楽だ

 もし失敗してもすぐに殺されるだろうから苦痛なく逝けるだろう


「おい! 黒龍、俺は覚悟を決めたぞ!」


 息を吸い込み叫んだ

 その声は森中に響き黒龍の耳に届いた


「そこか、人間」


 黒龍は一歩一歩近づいてくる

 その表情は明らかに怒っているようにに見える(表情なんてわからないけど)

(覚悟を決めろ、ここで言うんだ! ためらうな)


「黒竜! 俺お前の事が好きなんだ!!!」


(言ってしまった......これが最初の告白なんて笑えるよな、まあ断られても殺されて終わりだし、いいか)

 黒龍の反応を見る

 黒龍は顔を真っ赤にし口から火が漏れていた


「な、な、なにをい、言っているんだ、き、きさま、我の事が好きだと? ふざけるのも大概にするんだ!!」


 明らかに動揺しており呂律が回っていなかった

(おっ? これいけんじゃね)


「始めてお前を見た時思ってしまったよ、なんて美しいんだってね、その黒く透き通るような鱗に隠された筋肉のしなやかさ、それにお前のその誰もが振り返るような完璧な顔、俺はお前以上の生き物を見たことがないんだ、もしだめだって言うんならここで殺してくれ! 俺は本気なんだ! 頼む俺と付き合ってくれ!!」


 今思いつく限りの言葉で口説き落とす

(頼む、これで決まってくれ!)

 俺は世界に存在するかわからない神様に本気で祈る

 黒龍の顔は相変わらず赤いままだがそれでも口を開き


「き、貴様がそこまで言うのなら、か、考えてもいい、だ、だが勘違いするなよ! 貴様がどうしても我と付き合いたいというから仕方なく付き合ってやるのだ、いいな」


 黒龍は腕を組み俺から目をそらす

(いや、それ美少女がやらないと意味なくね? どこのツンデレだよ)


「やった~、うれしいな~(棒)」


 俺は全力で喜んだ

 俺は賭けに勝ち、おまけにこの世界初めての彼女(龍)をゲットした






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