魔法人格、制御不能

滝野遊離

1篇

 あの人が死んだ。死因は、魔法人格の暴走だった。あの人は凄かった。魔法に一生を捧げる覚悟をして、魔法人格を埋め込むほどの信念があった。


 魔法人格。魔法演算をさせるためにしか使われない、特殊な人格で、特大の危険が伴う。あの人格が表に出てきてしまったときに彼は沈黙し、人っぽさが一切消えた。無表情で、最低限の声、無機質な動き。ぼんやりとだけれど、いつか狂ってしまうのかと何処かで思っていた。

 まさか、そのまさかだけれど。こんな思考が当たってしまうなんて。彼の最期を私は見届けた。私だけが見ていた。普段使いの便利な小魔法を使おうとして、裏で人格を起動したときに突然「あ、ああ」と声が漏れ出してきて。いきなりへたり込んで。魔法の心得がない私にはなにもできなくって。目の前で、ぐちゃぐちゃと荒れ果て、四角い塊が組み替えられていく彼を見ることしかできなかった。


 あの人が死んだ。僕に人生の楽しさを教えてくれた、あの人が魔法で死んだ。魔法は人を蘇らすこともできる。あの人を蘇らす。僕は、あの人を蘇らしてやるんだ。


 彼は私の目の前で死んだ。私に魔法さえできれば、死ぬことなんてなかった。二度と、大切な人を失くさないために。私は魔法を使えるようになる。

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