白い人形が不幸になれば、世界は救われます

星の狼

プロローグ

第1話【前半】『終焉のsevendays―始まりの時、白き人形は動き出す。』【改訂版:Ⅱ】

 

 ここはsevendays。白い人形の物語の最終章……彼女の再生の旅が終わろうとしている。


 彼女は白い人形、青い瞳のノルン。白い手足、銀色の髪に、透き通る海の様な青い瞳。魂や魔力を運ぶ、白い霧。最近……彼女は誕生日を迎えて、13歳になった。



 今、ノルンは“天国”にいる。あらゆる世界の真上に存在する楽園。


 遥か真下には“地獄”があって、地獄の上に……彼女が生まれた世界、“霧の世界フォール”がある。



 彼女は天国を目指した。天国と地獄の間には、三つの層があって……下から、霧の世界、異界、精霊の世界。


 あらゆる時が交差して、数えきれない程の世界が存在する―“異界”。


 異界の真上には天に浮かぶ海があり……精霊たちが天の海を泳ぐ―“精霊の世界”。



 そして、精霊の世界の真上に天国があった。ノルンは、天国でお母さんと再会した。彼女が天国に辿り着いた時、誰もいなかった。天の神様はいない。天の神様が、人や魔物の魂をどこかに連れていってしまった。



 ノルンが、途方に暮れていると……女神が天国に帰ってきた。女神は正気を失って、“時の魔術”を暴走させている。


 彼女の目の前に、大好きなお母さんがいる。母親は正気を失ってしまって、彼女の夢の中にいた、優しいお母さんはもういない。



 彼女の母親、時の女神ノルフェスティ。


 時の歯車であり、時そのもの。呼吸する様に時を操る。時を止めて、時を加速させて、時を否定する。そして、時を奪うのだ。


 

 でも、女神は、自分の娘を失って壊れてしまった。堕落して名を失って……悪魔の女神になってしまった。


 女神は、白い霧を創って人や魔物の魂を利用した。自分の娘を創ろうとした。でも、女神は魂だけは創れなかった。


 だから、“時の女神の娘、ノルン”を創ることができない。創れたのは……時の女神の娘と同じ名前、同じ姿をした半端者。天使や悪魔にもなれない、“白い人形のノルン”だった。


 中身が違う。魂や魔力が全く違う。ノルンは、時の女神の娘になれなかった。



 女神は、ノルンを自分の娘だと信じた。彼女の為に、天国や地獄、あらゆる世界を壊そうとしている。あらゆる世界が、時の女神の娘の存在を否定したから。娘を否定する、あらゆる世界が許せない。憎かったから……。



 女神は壊れてしまった。ノルンが話しかけても、もう答えてくれない。傍にいても、手を差し伸べてくれない。優しいお母さんはもういない。



 ノルンはただ泣いた。彼女の目の前で……悪魔の女神が、天国を壊そうとしている。悪魔の女神を止めないと、ノルンは全てを失う。


 大切な人や魔物。大切な星。掛け替えのないもう一人の自分。白い人形の“ルーン”も消えてしまう。全て無くなってしまう。



 彼女は悪魔の女神を止めたい。止めないといけないと思った。それが、為すべきこと。例え、女神を殺すことになったとしても……。



 青い瞳のノルンは泣きながら……叫びながら、“時の魔術”を行使した。




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 悪魔の女神も、“時の魔術”を行使する。


 時の魔術がぶつかり合い……時が狂っていく。未来と過去が交差して、ノルンの傍に色んな時が現れた。白い霧は、色んな未来や過去をノルンに見せた。



 過去の時の中に……優しいお母さんがいた。大好きな女神が、白い霧の中に浮かんでいる。ノルンは、触れられないと分かっているのに……女神に向かって手を伸ばした。


 


 ここはsevendays。白い人形の物語の第一章……ここから、ノルンの物語が始まった。



 過去という時の中で……悪魔の女神は、白い霧の中に佇んでいる。白い霧は、神出鬼没。現れたり消えたりと、普通の霧ではない。


 白い霧は白い文字。小さな、小さな文字の集合体。


 小さな文字に魔力が込められていて……霧は意思を持ち生きている。霧は、色んなものを調べて運んでいた。とにかく運ぶのが得意だった。



 悪魔の女神は、霧の世界フォールにいた。緑豊かな星、惑星フィリス。白い霧は知識を欲している様で、興味を持ったものを運ぶ。



 “聖フィリスの聖典”。惑星フィリスに広く布教している、聖フィリス教の知識の書物。霧は聖典の内容を、白い文字に変換して運んだ。全て記憶している。



 聖フィリス教の聖典に、ノルンのお母さん。悪魔の女神のことが書かれていた。


「神生紀に現れた天を支える柱の一つ。かつて異界の女神と呼ばれ、人や魔物を神へと導いた天上の女神である。


 今は正気を失い、白い霧の奥深くで終末を待っている。


 女神は白い霧を創った。白い霧は異界の門を通って、異界の住人を悪魔へと変貌させる。悪魔は白い霧の中を蠢き、自身の魔力が尽きるまで獲物を殺し続ける。


 悪魔の女神に、魂を献上する為に……。」



 霧の世界フォールは、悪魔の女神が創った。女神がいなければ、遥か昔に滅んでいたと思う。白い太陽の周りを回る緑豊かな星、フィリスと名付けた。


 堕落した神が生まれた“神生紀”には、12の惑星があったけど……今は、6つの惑星しかない。惑星の残骸は、宇宙空間を漂っている。白い霧が楔となっている為、星の残骸はフィリスに衝突していない。



 白い霧は、人間や魔物のことも観察している。


 ロンバルト大陸と聖フィリス大陸には百十の国があり、冒険者制度を採用している。「町の中心には、聖フィリス教会と冒険者ギルドがある。」そう言われる程、人の生活に馴染んでいるものだった。



 冒険者ギルドは魔物や悪魔を評価して、冒険者に脅威度という形で示している。


 下からF、E、D、C、B、A、S。魔物は人より強いけど、数は人の方が多い。Eランクでも、数人で対峙しなければいけないけど。Cランクでは驚異的な強さを誇り、統制された集団が必要だった。三大魔王、魔物たちの王でさえBランク。



 では、Aランクは? 


 堕落した神々や、悪魔の女神の娘である霧の人形。それに匹敵する悪魔が該当する。女神の娘は、霧の人形と呼ばれていた。女神が譲渡したスキルで、敵対する者を殲滅する。霧の人形―脅威度Aランク。その強さは魔王さえも凌ぐ。



 白い人形のノルンにも、女神はスキルを譲渡した。だけど……彼女は病弱で、霧の人形ではない。ノルンを脅威度で示せば、ランク外、Fランク以下だ。


 ノルンは弱すぎた。成長に必要な魔力は、何かに奪われている。新たにスキルを得ることもできない。その素質が無くなっているから……。


 ノルンはまだ赤子だった。女神の中での成長を必要としている。なのに……闇の中にとばされた。




 唯一の脅威度Sランク、悪魔の女神。人や魔物がどう足掻いても、何をしても……女神を倒すことはできないだろう。女神は時に呪われているから。霧の世界フォールで、最強最悪の存在。



 女神の白い霧は、自分自身で考えて自分の意思で動いている。女神には霧の声が聞こえる。女神を呪う声が……女神が皆を堕落させた。


 女神自身も正気を失いかけている。次に、深い眠り落ちた時……女神は壊れてしまう。だから、これは最後の悪あがき。



 白い霧が晴れてきた。霧に覆われたお城が見える。女神は、霧の城の中庭で待っていた。女神の娘が来るのを……病弱な娘ノルン。



 女神は祈った。『どうか、苦しみを乗り越えて幸せを掴んで欲しい。深い眠りに落ちる時まで……貴方を見守っているから。』



 女神は愛しい娘を転移させた。


 ノルンが気がついた時、そこは闇の中だった。


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