18話 脅迫

アイドルという職業柄、私は、何度も修羅場というものを味わったことがあったけれど、今回の修羅場は、アイドルhiyoriとしてではなく、月夜野日和と、私、本人が当事者の修羅場は、初めてで、沼田先輩とのことが私一人だと、思考の渦に囚われてしまうので、こうやって、内密に全部の部員である先輩方を呼んで沼田先輩との経緯を私は相談していた。

もちろんこの場に、沼田先輩も伊勢崎先輩もいないし、アイドルのことは、もちろん隠しての相談ではあるが……

「ふむ……そんなことが。しかし、のびちゃんは、少年とやけに仲がいいとは、思っていたがそこまでとはな……これが、三角関係修羅場か」

「いや、別に……私は、沼田先輩は、先輩としては、敬愛していますが、異性として意識は、していませんからね?」

私の話を聞いて、なぜ渋川井先輩は、こんな考えに至るかは、分からないが、とにかく、変な誤解だけは、解いておかないと……しかし、誤解は、広がり、ソフィア先輩や、部長までニヤニヤし始める。

「ねえ、糞部長?これ、どう見ても三角関係よね……恋愛ゲームでも観たもの……」

「ふむ、僕も話を聞く限り何作か、そう言ったエロゲーやったねぇ……例えば白濁の思い出帳に出てくるヒロインにも……」

「いや、先輩達、ここは、三次元です。二次元じゃないので、ちゃんと相談に乗ってくださいよ……あと、部長に関しては、なに後輩にエッチな話をしようとしているのですか?セクハラですよ。訴えますよ」

うん、思った。この部活、前から知っていたけれど変です。話しが、変な方向に行きそうで困り果ててしまう。

「まあ、のびちゃん、この程度の脱線は、我が部の伝統芸だよ。まあ、慣れるだろうが、今は、現状の確認だ。つまり、のびちゃんの行動で、少年とみどみどが喧嘩してしまったということだな……」

渋川井先輩は、ちゃらんぽらんで、飽き性なくせして、真面目な話の時は、まとめてくれるので助かる。態度は、相変わらずちゃらんぽらんだけど。

「そうです……私は、そのくせ、何もできなくて……」

先輩達に頼っていながら、私は、言いたいことがまとまっていなかった。情けなかった。しかし、そんな私を見て、ソフィア先輩は、冷たくあしらう。

「そう、で?私は、のび太ちゃんの懺悔を聞くために呼ばれたのかしら?違うわよね?アナタの言いたいことは、やりたいことは、そこじゃない。バイトの相談で感極まって、抱き着いてみどりとエイジ喧嘩をさせた原因は、のび太ちゃんでしょう?そのうえで、私達を呼び出した時点で、やりたいことは決まっているのでしょう?けど、そのやりたいことは、高慢で独善的で、勇気が出ないから、こうやって、私達に助けを求めたんでしょ?はっきりしなさい。じゃないとどんなに可愛い後輩の相談にだって、私は、乗ってあげられないわよ」

「うぅ、そうなのですが……言って良いのですか?ひきませんか?怒りませんか?呆れませんか?私の醜い願望を聞いて……」

「思わないわ、可愛い後輩の頼みだもの。死に物狂いで協力するに決まっている」

ソフィア先輩は、いつも、現実を見て、躊躇もなく厳しい。怖い所もあるが、誰よりも優しく、強く生きている。憧れの先輩だ。だから私は、安心してソフィア先輩の言う事なら、信用できるのだ。勇気を出せ、私。

「私は、沼田先輩と伊勢崎先輩を仲直りさせたいです!」

高慢だ。私が居なければ起きなかったことなのにこんなことを言ってしまうなんて本当はいけないことなのに、先輩達は、笑顔で答えてくれる。

「うむ、月夜野君!そう言うと思って、僕は、もう、二人の仲直りシナリオを書いてみたよ見てくれた前。ちゃんと全年齢版だからな!」

そして、部長は、相変わらずセクハラであるが、一番の天才。この人とは、あった時から、貞操の危機以外にも、底知れない才能に恐怖してしまったが、味方となると心強い。

「ありがとうございます!これを見て私は、目標を達成して……って先輩方、ものすごく距離が近くないですか?しかもニヤニヤして……」

私が覚悟を決めた瞬間、先輩方がニヤニヤして、私に近づいてくる。本能的に恐怖を感じてしまった私は、ものすごく失礼と知りながら後ずさりをしようとしたが……

「よ!逃がさないよ……のびちゃん」

渋川井先輩は、部室の中だというのに大ジャンプをし出入り口の前に飛び、退路を塞ぐ。

「ふふ、私達がタダで相談に乗ると思った?」

「そうだよ。二次創作だって、盗作はいけないんだ」

近づくオタクコンビは、謎の手つきで私と距離を詰めるのであった。

「せ……先輩方……一体なにを企んで……」

「そんなのは、決まっているよ、のびちゃん」

後ろで私を羽交い絞めにする渋川井先輩……うん、抜け出せないのですが……

「私達にも手伝わせなさい!のび太ちゃんだけに面白い思いはさせないわよ!」

「そして、次の同人のネタになるがいい!」

「そう言う事だ、のびちゃん。ちなみにこれは、交渉じゃない。強制だ」

「拒否権は……」

「「「無い!」」」

「あはは……ですよねー。うん、おねがいしまーす……うぅ」

知っていましたよ!この人たちは、各分野の天才ですが同時に異才で変態。私は、一切面白そうに見えないのに……物凄く今後が不安になってきました。


 あれから、三日、考えに考え、自分がなんで怒っていたかは、結局分からなかった。けれど頭は、冷え、ようやく、考えは、まとまった……気がする。

しかし、そんな俺を呼び出したのはみどりではなく、ソフィアであった。何かしたのかと言われれば、せいぜい、最近二人でゲームをしてやれなかったことだろう。ソフィアとしてもいい状況でもないのかもしれないが、それ以上に俺が一緒にゲームができる気分ではなかった。

だからか、俺は、誰もいない部室に一人呼ばれたのであった。

「来たわね、エイジ……ここであったが、二年目!今日こそ決着をつけるわよ!」

机には、チェス盤が置かれており、ソフィアは、いつもと変わらないカマセ……もとい、強敵な感じを醸し出し俺に指をさした。

「意外とそこまで大きな因縁じゃない気がするな……二年目だと」

「そこ!あんたが気にするのは、そこなの!?」

「うるさいな……今日は、気分が乗らん。勝負はしないからな」

「その割には、しっかり呼び出しに応じるなんて、ツンデレ?」

「デレとらんわ!それに金髪ツインテールに貧乳とか、何年前のテンプレアニメのツンデレキャラには、絶対に言われたくない」

「いや、この髪型にする勇気とあざとさに関しては、むしろ評価してくれないかしら?テンプレも王道も人気だから、王道でテンプレなのよ!それを作った日本のオタク文化も評価していいと思うのだけれど」

……まあ、そこは、認めるが、しかし珍しい。ソフィアがゲーム以外でこんなに話題を振って来るなんて。どうしたんだ?このゲームジャンキーは……俺は、少し怪しいと感じ癖なのか、ソフィアを睨んでいたのであった。

「たく……そんな険しい表情ゲームしてる時には、見せない癖に、どうしてこういう私との個別イベントでしますのかね……これだから非リア男子は」

呆れた様に、俺を見るソフィア。何が狙いなのか、今回に関しては、完全に読めないので、俺は、少しの恐怖を感じる。

「それは、置いておいてくれ。それより、どうしたんだよ?いきなり呼び出して、なにを企んでいるんだ?悪いが、お前の企みなんかに乗るほど、今の俺には、余裕なんて……」

「そりゃあ、そうよね。今まで大切にしていたはずのみどりと喧嘩しちゃったもんね。しかも、言いたいはずのない言葉まで言って傷つけたというおまけ付きで」

「お前に関係があるのか?」

今、分かった。こいつは、探り余計なお世話でもするつもりだ。多分話自体は、月夜野辺りから相談を受けて、喧嘩した原因でも探るつもりなのだろう。

「おう……怖い、怖い。図星かしら?で、まだわからないんでしょう?なんで、そんなことを言ってしまったのか……ううん、実は、もう知っているはずでしょう?あんたは、馬鹿じゃない。私は、アンタのこと意外と評価してあげてるのよ?」

「余計なお世話だ……。いいだろう、これは、俺とみどりの問題だ」

「あら?否定しないということは、分かっているんじゃない?自分がなんで怒ったのか」

分かる訳がない。俺は、答えが出ていない。分かるのは、俺の不徳がもたらしたことという事。それなのに逆切れして、怒って、意味が分からなくなって……

俺は、今どんな表情をしているのだろうか?気になったが、鏡の無い部屋で、表情を見ることは、できなかったが、ソフィアの表情は、分かった。

とてもつまらなそうで、退屈な表情をしていた。

「そ、まあ、予想はしていたけれど……女々しくて、悲劇のヒロイン気取りの男に、事実なんて聞いても無駄なんて知っていたわ。だから、調べてみたの、英二とみどりの過去を」

ガタンと、掃除用具入れが揺れた気がした。俺が机を思いっきり叩いたからなのだろう。

「おい!どういうことだ!なにが良くてそこまで……」

「するわよ。アンタに勝てるのならなんだって。それに怒ったってしょうがないじゃない。そもそも、私とエイジは、仲が悪いから、どんな嫌がらせにも気後れなんてしないでしょう?」

勝ち誇った表情でソフィアは、紙束……俺とみどりの過去について書かれたレポートでひらひらと自分を仰いだ。まるで、弱みを握ったヤクザの様であった。

「どうするつもりだよ……要求はなんだ?また、チェスでもしろってか?」

「んー、それも魅力的だけれど。私の要求は、アンタの口から、話を聞くこと……かしら?実はね、お願いされたのよ、ある人から、アンタらの過去を調べてって言われたの。これを渡すのもいいけど、やっぱり本人から言質を取ることで、この資料は、信頼性を増す。だから、話しなさい。……さもなければ、これは、全校放送で流すわよ」

「損得で考えての行動か……何を持ち出されたか、誰に頼まれたかは知らないが、なんでそんなに俺達を掻きまわしたがるお前は?」

分からなかった。コイツにも、ソフィアに俺達を探らせた依頼人にも関係がないことだし、別に世界の秘密を握るみたいな過去でもないのにどうしてみんなで引っ掻き回す。分からない。

分かるのは、ソフィアは、本気で楽しそうな表情をしている。

「で……話すの?話さないの?はっきりしなよ。別に急かしてはないけど、はっきりしないのは、私、嫌いなの。どうなのよ、エイジ?」

別に話してもいいことなのかもしれない。しかし、この分からないという感情が、それを拒否する。どうすればいい、どうすれば一番自分にとってことが良く運ぶのか、今の俺には、分からない。どうすればよかったのだろうか。

再び、俺は、思考の渦に取り込まれていきそうな、感覚に陥りそうになった瞬間、ガシャンという大きな音と共に掃除用具入れの中から慌てた表情の月夜野が飛び出してきた。驚きのあまり、俺は、思考の渦から、現実に引き戻されたのであった。

「ソフィア先輩!それはだめです!私は、そう言う誰かが傷つくことを望んでいるわけでもなければ、頼んだわけでもないです!それに調べていたなんて私、聞いていないです!」

「ちょ!のび太ちゃん!今出てくる!?馬鹿!馬鹿!計画が丸つぶれよ!」

「ん……おい、なんだよ、このレポート?白紙じゃないか」

「「あ……」」

……月夜野に捕まれ、ソフィアは、持っていたレポートが勢いよく地面に落ち、紙束がバラバラになった。中身は、書かれていないため真っ白であり、近くにいた俺にも目に入った。そしてその光景を見たソフィアは、あっせった表情をし、月夜野も申し訳なさそうな顔をしていた。

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