6話 ロリ

入部が決まった日の夜、沼田家は、両親が仕事で帰れないらしいため、みどりが一人暮らしをしているアパートでご飯をごちそうになることになっていた。

社畜はつらいね。俺は、不労所得を目指します!

「おにいちゃん!もっかい勝負だー!」

「こら!紫!あんまり騒ぐとご近所さんに迷惑だろう!」

「はーい!わかった!と言うわけで勝負だ!」

「そうだよー紫ちゃん、ご飯もうできるから、テーブル片づけておいて~」

「はーい!」

俺の妹、紫は小学一年特有の大きな声で返事をする。このツインテール妹は、本当に分かっているのだろうか……

「はいさー、今日は、少し手抜きなっちゃったけれど、カレーライス。紫ちゃん好きだから、お姉ちゃん、頑張ったよ!」

そして、小学生と並ぶと身長の低いみどりもお姉さんに見える……どう頑張っても小学生姉妹にしか見えないが……

「わーい、カレーライス!紫好きー!」

「はいはい……騒がないーの」

「あーい!」

うん、うちの妹さいかわ。超かわいい。まあ、しかし、壁の薄いアパートで小学生が騒ぐのもいささか気が引けてしまう。

「すまんな、みどり。騒がしくて」

「ううんいいよ、別に、一人で食べるよりご飯はみんなで食べるほうがおいしいし……いや、私の作ったご飯が不味かったらおいしい訳無いかな……」

「そんな訳無い。みどりが作った飯なら何でも食える」

「くえる!」

「あはは……微妙に褒められた気がしないのは、気のせいではないかな?」

「そんなことはない。本当にいつもうまいのだが」

普段から、社畜オブ社畜の両親が、よく家を空けることが多く、近くのアパートで、訳あって一人暮らしをしているみどりの家で、ご飯を食べているが、まずかったことなど一度もない。

本人は、認めていないのだが。まあ、こういったみどりのネガティブもいつもの生活の一環となっていた。

「そっか……じゃあ、食べちゃおうか!いただきます!」

「いただきます」

「いただきーまーす!」

カレーを俺たちは、食べ始めた。元気いっぱいの紫は、バクバクとカレーを食べるのだが……勢いが良すぎて口の周りにお米が付いていた。

「おおい……紫、口にご飯ついているぞー、みどりー」

「はいティッシュ」

「サンキュ」

「んく!もう!紫ももうしょうがくせいだよ!おねえちゃんは、自分で口ふけるもん!」

この小学生、いつも同じことを言うが、学習していないぞ。そんなんじゃお兄ちゃん心配です。

「ねぇちゃんとおにいちゃんって、パパとママみたいだね」

「ぶっ!」

こうして、紫達とご飯を食べていると紫は、思ったことをそのまま口に出す。小学生になったばかりの紫は、脈絡もなく変なことをいう。

俺はもう慣れたのだが、みどりは、性格からか、微妙にこのノリになれていないらしく、いちいち反応してくる。

「えっと、紫ちゃん?その心は?」

「こころ?わかんない!」

「つまり、あれだろう。紫が言いたいのは、夫婦みたいに以心伝心しているところから何となく出た言葉なんじゃないか?」

「でんしーん!」

言った本人は、意味は分かっていないのだが、感覚で、ここまで、みどりを戸惑わせるとは、将来が恐ろしい。

「うん、それは、分かったけれど、それで冷静な英二……なんか悔しい」

「なぜ俺を睨む!?」

「しーらない!」

なぜか拗ねてしまったみどりだが、紫と遊んでいるうちに機嫌も直ったので安心した。しかし、ここ三日間、俺は、もしかして女心が分からんと言う疑いが出てしまった。まあ、俺には、一切関係ないのだが……

こうして時間は立ち、時間は、過ぎて行った。


「……くぅ……おにいちゃん……ねえちゃん……」

それから、少しして、騒ぎ疲れ、お腹いっぱいになった紫は、みどりのベッドで横になり熟睡してしまっていた。

起こして、家に帰るのも悪いので、ギリギリまで紫は、寝かせることになり、それまでの間、俺は、みどりの家に厄介になることになったので俺と、みどりは、居間で向かい合って座る。

「本当に紫が迷惑かけたな。ゴメンなみどり」

「大丈夫だよ。さっきも言ったけれど一人よりはマシだもん。私も楽しいし!」

笑顔で、俺を逆に安心させるみどり。本当に変わった。昔は、俺に引っ付いてばっかりだったのに……うれしくもあったが、やっぱり寂しさもあった。

「そういえばさ、英二は、全部で何をしたいか見つかりそう?」

みどりは、不安そうに俺に聞いてきた。まあ、今までずっといた俺が、意味の分からない部活に入るのだから当たり前だろう。……自習部は、帰宅は、ノーカン。

「さあな?」

正直分からなかった。興味がある。それだけで入ったのだから、別に大きな目標があるわけでもない。けどいまは、それでいいと今は、良い気がした。

「えぇ……分からないの?心配だよ、お姉さん」

「お姉さんって、一日しか変わらないだろう生まれた日は」

「一日だろうが、私の方が早く生まれたもん。お姉さんで間違えてないよーだ」

俺のあやふやな答えに頬を膨らませるみどり。ことあるごとに一日早く同じ病院で生まれたことを引き出してくるみどり。こういう時は、大抵腑に落ちていないときか、拗ねている時に使うのでわかりやすい。

「身長が、小学校から変わっていない姉なんて俺は嫌だ」

「そうやって、からかう!私も本気で心配しているんだから。英二は、昔から考える前に動くから、痛い目見るのに学習しないお馬鹿さんだから」

「何を言う、学校の成績だけで言うなら、平均以上は、絶対にキープしているぞ」

「そうじゃないんだけれどな」

お互いに気が知れた仲なのか、生まれてから今まで、唯一ずっと一緒にいた存在だからだと思う。だから、お互いの悪い所もいい所も知りつくしているからこそ出せるのだと思う。だから俺もついつい本音で話してしまう。

「まあ冗談だ。最近は、みどりも委員会やら引継ぎやらで大忙しだったし、久しぶりにこうやって二人でゆっくり話しているからさ……」

「そうだけどね……だったら、話題!」

みどりは、ビシッと俺に指をさしてきた。冗談半分のオーバーリアクションは、みどりらしいが……

「ん?なんだ?俺のスリーサイズについてか?それとも最近、紫が描いてくれた俺の似顔絵の話か?」

「紫ちゃんの描いた絵は、気になるから後で見せて、どうせ、英二のことだから携帯電話の待ち受けにしているでしょう……いいな、私も描いてほしい」

羨ましそうに俺を見つめるみどり。俺は、紫の為ならシスコンを自称してもいいと思っているが、みどりは、俺以上に紫をかわいがっているから当たり前か。

「まあ、それは、後でな。それより話題とは?紫の可愛さについては、語りつくしていると思うがお互い」

「そうじゃなくて!高校生らしい話題!」

「話題に高校生らしいもなにもあるか?」

「あるよ!正直に聞くけど、英二って、日和ちゃんのことが好きなの?」

「ぶっ!なにを突然!そんな訳無いだろう!」

突然出てきたポンコツアイドル後輩の話題に俺は、思わず吹き出してしまった。不意打ちだからしょうがないが……

しかし、そんなことを知らない、みどりは、ジトっと俺を睨む。

「む、紫ちゃんが、私と英二が夫婦みたいって言った時は、冷静だったのに、日和ちゃんのことになると英二は、そういう反応するんだ」

「あれは、小学生が出した話題だろう?真に受ける訳無いだろう?」

「えー、話題に高校生らしいも何もないって言っていなかったけ、英二?」

「揚げ足取るなよ……みどりぃ……」

みどりは、揚げ足を取ってくるが、その小悪魔的表情から、からかわれていることは、なんとなく分かったが、珍しく俺は、抵抗できなかった。

「揚げ足っていうけれど、大事だよ。英二が日和ちゃんのことが好きなら、全部に入った理由だって、私納得できるんだよ?

「月夜野は、月夜野だ……特別な感情なってないぞ。俺は、軽い男じゃないからな、一目ぼれなんてない」

「へー、でも、日和ちゃんってメガネ外すとかわいいよね。どことなくhiyoriに似ているし」

ニヤニヤと俺をからかうみどりなのだが、俺は、みどりの勘の良さに少し驚いた。

確かに、メガネを外せば、テレビでもよく見る顔だが、カツラはつけていないし、メガネを外しただけで月夜野がhiyoriだなんて普通は気が付けない。

「えー、でも、日和ちゃん可愛いよ?英二的には、どう思う?」

「どうなのって……後輩で、うーん騒がしい妹だな」

「そっか。そか……」

「どうした?」

安心したようにつぶやくみどりだが、不思議な感じだった。なぜ、安心するのだろうか、俺には、分からなかったから。

「じゃあさ……英二……聞くけれど」

「どうした、改めて?」

その表情は、少し恥ずかしそうで顔を赤くするみどり……なんで顔をあかくする?

「……私は?」

「ん?みどりがどうした?」

「だから……私は英二的にどうなの?どう思っているの?」

「……あーそう言う事か。うん、一番親しい幼馴染。あと、俺は、みどりのファンだ」

「へぇ……ふうん……」

あれ、また間違えた?なんで、みどりは機嫌が悪いんだ?

「お姉ちゃんとは、呼べないぞ。一日早く生まれていても」

「そうじゃないんだけれどな」

しょうがない……だって、完全に見た目は、妹だぞ。

結局この日は、夜が遅くなり、紫を背負って、帰路を歩く間の五分間ほど、どう答えれば、みどりの機嫌を損ねなかったのかと考えた。

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