「土踏まず(合格ver.)なのだ~。」「誰だよ、お前! クリスマス(正月ver.)ね。」

「さぁ、ついにこの日がやってまいりました!」


 智絵が5人に囲まれて、言った。


「え? また、現実とやらの話ですか?」


 香枝が気だるげに聞いた。


「そのとおり! ということで、今日は正月とクリスマスが同時に来る予定です!」


「せめて、別々にやろうよ……。」


「てことは、現実は12月28日とか?」


 夏海はそう言った後、紙パックのレモンティーを一気に飲み干した。


「いや、29日じゃない?」


「さ、この中に正解はいたんでしょうか! では、ⅤTRどうぞ!」


 智絵は、ペットボトルをマイク代わりにした。


「「「「「「……。」」」」」」


「「VTRは?!」」


 香枝と苺愛が声を揃えてツッコんだ。


「いや、ないに決まってんじゃん。」


「「冷静?!」」


「パスタ。」


「あれ、おいしいよねぇ……。」


「おい、野郎ども!


「少なくとも私は女だ! 野郎ではない!」


 癒怡が智絵の言葉を遮った。


「癒怡さん、私も女です!」


「おい冬華! 自分だけ安全地帯行くな!“たち”をつけろ!」


「癒怡さたちん、わたたちしもおたちんなです!」


「暗号か?! てか、“ちん”が多いんな! あ。」


「“ちん”が多い、ねぇ……。香枝かえまるも大人になったのねぇ……。」


 夏海はそう言い、遠い目になった。


「しみじみするな! そういう意味じゃないですから。」


「大丈夫、大丈夫。“ちん”は何回繰り返して言っても放送禁止用語にはならないから。」


「もう、いいですから!」


「癒怡さんたち、私も女たちです!」

 

「あ~ぁ。癒怡さんとお前が大量発生しちゃったよ……。」


「おい、女郎ども!


「なんか、嫌。」


「おい、ジョロウグモ!」


「……。」


「よし、反論なしっと。」


「いいのかよ!」


「時間もないしとりあえず、クリスマス会(正月ver.)開始!」


「ひっでぇ、ネーミングセンスだなぁ。」


「あ、セミ!」


 冬華は部室に入ってきたセミを指さした。


「「「「「「……。」」」」」」


 部室には全員が俯き沈黙が流れる中、セミが窓に当たる音と鳴き声だけが聞こえた。


 ……ジジジ、バン、ジジジジ……




「さ、気を取り直して、正月会(クリスマスver.)を始めます!」


「会、変わっちゃったね。」


 苺愛は苦笑いして言った。


「まだ、準備中ですよー。てか、智絵さんもなんかやってくださいよ。」


「石油ストーブ、ゲットです!」


 冬華がストーブを引きずって持ってきた。


「ナイスだ、冬華ぷりん!」


「智絵、石油はどうするの?」


 香枝と一緒に飾りを作っていた苺愛が、手を止めて言った。


「……冬華ぷりんは、疲れてるし……鬼2人はなんか、けったいなもの作ってるし。」


 智絵が考えながら呟いた。


「「誰が鬼だ!」」


「これツリーの飾りだから!」


「てか、あんたに命令されてやってんだよ!」


「お~怖っ。で、誰が行く?」


「「「……。」」」


 3人の視線が一気に智絵に集まった。


「え? ……あっ!」


「なにか、名案でも?」


 香枝は作業し、智絵に背を向けたまま言った。


「夏休みでも、校長はいるよね?」


「あんた、マジか。」


 香枝も苺愛も一瞬手を止めた


「行ってきます。」


 智絵はそう言い残し、3人に背を向けた。そして、ゆっくり、堂々として部室を出た。

 その姿はまるで、まるで……。


「「「……。」」」


冬華ぷりんちゃんも、やる?」


「はい、今は何作ってるんですか?」


「「……。」」


「あのぉ、二人とも?」


「え、香枝かえまるは何作ってる?」


「逆に聞きますけど、苺愛さんは何作ってます?」


「いや、逆に聞かないで先に答えてよ。」


「いやいや、ここは苺愛さんから。」


「お二人とも、何か作ってます?」


「「……。」」


「もう、買いに行きません?」


「「賛成。」」




 


 一方その頃、よーわからんけどなんか自然の多い某所では……。


夏海なっちゃん、ツリーの木って落ちてるものなの?」


 癒怡は靴で背の低い草をかき分けながら言った。


「その辺に、飛んでるのがツリーの木なんじゃないですか。」


 夏海はそう言い、癒怡の足元を指さした。


「これ、バッタじゃない?」


 癒怡はしゃがみ込んで、飛んでるものを見た。


「まぁ、見様によってはそうですね。」


「これは飾りつけするには、小さくない? なんか、あのプラスチック製のキラキラしたボール付けられなくない?」


「あ、かき氷。」


 夏海がかき氷の横幕がかかった老舗っぽい店を見つけた。


夏海なっちゃん、寄ってかない?!」


「いいっすねぇ。8月に外歩くのは堪えますよね。」


「よし、行こう!」






 一方その頃、いや知らんけど、外見の割に品揃えめっちゃええらしいで、この店では……。


「よし、これで買うものは全部だね。」


 苺愛が買い物かごを見て言った。


「クリスマスツリーセットと鏡餅がこの季節に売ってるなんてねぇ。」


「てか、私こんな店知らなかった。え、店名なんでしたっけ?」


 冬華はそう言い、きょろきょろ周りを見渡した。


「いや知らんけど、外見の割に品揃えめっちゃええらしいで、このてんだよ。」


「それ、“てん”って読むんだ!」


「てか、店名だったのかよ!」







 一方その頃、え、ここめっちゃ綺麗やし広いやん。偉い人の部屋みたい……。何言ってんねん、校長室やで? あ、ここって校長室なん? そやで、校長室では……。


「コンコン。」


 智絵が校長室の扉の前に立ち、扉をノックした……ときに出る音を口で言った。


「入りなさい。」


 校長室の中から声が聞こえた。それを聞き、智絵は校長室の扉を開けた。


「失礼いたします。わたくし2年1組三嶋智絵と申します。よろしくお願いします。」


「はっはっは。堅いなぁ。もっと肩の力を抜いて。」


 校長は微笑んで言った。


「良いのですか?」


「はい。」


「では、お言葉に甘えて。なぁ、爺さん、ちょ、頼みがあるんだけどさぁ、まぁ単刀直入に言うとガソスタ行って灯油買ってきてほしいんだよ。」


「……私は、貴方に2つ教えたいことがあります。まず1つ目、あなたの力加減に50という数値を加えてください。今、0か100しかありませんから。そして2つ目、コンコンっていうのは、ドアをノックすれば鳴りますよ。」


「そ、そうだったんですか! ありがとうございました。」


 智絵はそう言い、校長室を出た。








「あ、おかえり~。」


 3人は某店から部室に帰ると、既に帰っていた癒怡と夏海が迎えた


「「「でかっ!!!」」」


 3人は部室に入った瞬間、異様にも大きいツリーが目に入り思わず声を上げた。


「こんなの、どこにあったんですか?!」


 冬華は真っ先にツリーに駆け寄り、見上げた。


「なんか、散歩してたら落ちてた。」


「落ちてた?! どこに?」


 苺愛が癒怡に詰め寄った。


「東名高速の東京インターをちょっと入ったとこ。」


「インター入ったの?!」


「うん。」


「散歩で?!」


「うん。」


「へー……ただいま。」


 苺愛はそう言って、ソファーに座った。


「おかえり。」


「もういいや。」


 2人の会話を聞いていた香枝は諦めるように、椅子に座った。冬華はツリーの幹のある一点を見つめながら、話していた。セミはそれに対してたまに“ジーッジーッ”と答えるだけだ。


「んで、智絵さんは……石油ですか?」


「そうそう。」


「じゃ、校長室行かなかったんですね。」


「いや、行ったらドアをノックすればノック音が出るということを知れたらしい。」


「へ~。じゃあ、今はガソスタですか?」


「いや、空港じゃない?」


「どこまで行く気なんですか?」


「サウジアラビアとかそこらへんじゃない?」


「…………あ、本場まで取りに行ってくれるんですね。」


「さ、飾りつけするか。」


 癒怡と香枝の会話のキリが良いところで立ち上がった。


「なぁ、ヤマトタケルノセミジロウミコト、お前って何食べて生きてるんだ?」


「……ジジッ、ジーッ。」


「そうか、そうか。もう6日目なのか。ところで、お前って何食べて生きてるんだ?」


「…………ジージジッ。」


「へ~! 弟が2人もいるんだ! 素朴な疑問なんだけど、お前って何食べて生きてるんだ?」


「……ジジジジージージージジジ。」


「え、そろそろ飾りつけ始めた方が文字数的に2話に分けなきゃいけなくなるって? 大丈夫だよ。次シーン変わるときに、会の終わりまで時間進むから!」


「話できてるのにできてないな! てか、セミの3つ目のセリフ、モールス信号で“S・O・S”って言ってたぞ!」


 黙って聞いていた、香枝が我慢できず立ち上がった。


「ジジジジジジッ。」


「えー、嫌だよ。今の温度で充分だよ。」


「セミは何て?」


「“ちょ、冷房下げてくれへん? めっちゃ暑いねん!”やって。」


「「「関西弁?!」」」


「そやで。あれ? 知らんかった? てか自分ら、こないデカい声で話してるんやから聞こえるやろ?」


「「「影響されてる?!」」」


「てか、セミ語なんかわかるか!」


「大丈夫、大丈夫! 1行語にはセミ話してるから!」


「あ、ども、セミです。」


「これは、私らがセミ語わかるようになったのか、セミが人間語話してるのかどっち?!」


「どう思います、近松虫門左衛門さん?」


「チンチロチンチロチンチロリン。」


「いつからいたんだ、マツムシ?!」


「ほら、香枝、あれ言わなきゃ。」


 夏海が少しにやけながら言った。


「あれって?」


「“ちんが多いな!”って言わなきゃ。」


「言いませんから! てか、マツムシはただ鳴いてるだけで、ボケてませんから!」


「でも、これ逃せばもう言うときないぞ?」


「いや、言うべきセリフではないですから!」


「はい、時間がないからシーン変えんで。」


 セミが喋った。


「チンチロチンチロチンチロリン。」





「いやぁ、楽しかったね~。もう8時過ぎてるし帰ろっか?」


 智絵が頬杖をつき、窓の外を見た。


「そうだね。」


「♪チャン、チャン♪」


「終われるかっ! 時間、飛ばしすぎだろ! 準備段階のシーンしかなかったじゃん!」


「ま、別に、こんな会なんか見たところで4人の天才的なボケとポンコツなツッコミ、そして急遽ゲスト出演した虫類が2匹いるだけだしいいじゃん。」


「誰がポンコツだ! てか、苺愛さん消えちゃったよ!」


「今、香枝かっちゃんが消したんだよ! 私、癒怡のセリフの時点では存在の可能性あったからね!」


「「「「「「「……。」」」」」」」


「せめて、セミくんは鳴きやまないでよ~! 私がしけたみたいじゃん!」


「「「「「「……。」」」」」」


「チンチロチンチロチンチロリン。」


「今、マツムシが鳴くタイミングじゃないの!」


「せーのっ!」


「「「「「「楽しそうだね。」」」」」」


「声合わせないで! 別に楽しくないから!」


「あ、ども、セミです。」


「知ってるよ!」


「「「「「じゃ、また、明日~。」」」」」


「ちょ、待ってよ! 置いてかないでよ~!」


「チンチロチンチロチンチロリン。」


「鳴くな!」


「ジージジジージジジージジジ。」


「マツムシのリズムで鳴くな!」


「苺愛~、早くしないと先帰って明日朝迎えにいくよ~!」


「私、朝までここ?!」


「先帰っとくね~。」


「ま、待ってよ! もう夜だよ! 暗いし強盗とか痴漢とかいるから危ないんだよ!」


「え、でも、苺愛さんいたところでこっちには戦力アップにならないっていうか……。」


「まぁ、端的にいうと、いてもいなくても一緒。」


「ひどっ! 私もう泣くよ!」


「こっちには散々“なくな”って言ってた癖に自分だけなくんずるいやん!」


「うるさい!」


「ま、冗談ですよ。私、苺愛さんいなくなったら悲しいですもの。」


「本当に思ってる?」


「はい。」


「じゃ、もうちょい感情込めてほしいなぁ。棒読みじゃん?」


「私、苺愛さんいなくなったら……ん~、私、苺愛さんいな……ん~……無理っすね!」


「何明るく言ってんの!」


「てへぺろっ!」


「ぶりっ子しない!」


「ほんっと、苺愛さんって可愛いですよね? 年下の私から見ても可愛いんですよ。」


「あぁ、苺愛はちっちゃい頃からもてるからね。顔はもちろん性格もほぼ完璧だからね。」


「別角度からいじらない!」


「この人を人通りの少ない道で一人にさせて、何分で連れ去られるか検証してみたくないですか?」


「分もいらないんじゃない?」


「もう、いいから!」



「なんか、飽きたし終わりが見えへんからこれで、終わるわ。ありがとうございました。」


「チンチロチンチロチンチロリン。」




「ふぅ。長かったなぁ?」


「チンチロチンチロチンチロリン。」


「もう、ええて。終わったんやから、喋れや。」


「なんやねん、うるさいなぁ。」


「大体、こんな長い話、ここまで見れた人ってすごない?」


「まぁ、そやけど。んで、グダグダやし。」


「セリフばっかで状況説明全然ないもんな。」


「次、出る?」


「出たい……。」


「俺も……。」










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