10章 海賊艦からきた少年

第50話 侵入者

「じゃあ海賊の仲間なのかな」

 未冬の鋭い推理、という程でもない。揚陸艦に乗っていたというのなら、他に考えられないだろう。だけど。

「だったら、どうしてこんな所に」

 これは通報した方がいいのだろうか。ちらっ、と二階通路入口を見る。そこには内線電話がある。


 その少年、ウェルス・グリフォンもそれを察したのだろう。

「ああ、心配ないよ。僕は…」

 言いかけたその時。

「おい、そいつを確保しろっ!」

 揚陸艦の開けっ放しのハッチから飛び出してきた男が、大声で未冬に叫んだ。

 未冬は少年の顔を見る。彼はにこっと笑った。


「ちぇっ、見つかったか。じゃあね未冬」

 手を上げて浮かび上がろうとする少年。未冬は慌てて、彼の身体に抱きついた。

「で、ええっ」

 少年は悲鳴をあげた。

 バランスを崩し、キャットウオークの床に、二人とも倒れ込む。

 すぐにタラップの手すりを飛び越え、白衣の男と、もう一人女性がやって来た。

「あれ。教授とレオナさん」


「なんだ、未冬ではないか。何をこんな所で乳くりあっているのだ。まったく、近頃の若いやつは場所をわきまえんで困る」

 確かに、抱き合って床に倒れてはいるように見えるだろうけれども。


 腕組みをして頭を振っている教授をレオナが張り倒す。

「彼を止めてくれたんですよっ。…ご協力感謝します、未冬さん」

 いえいえ、と未冬は制服を手で払って立ち上がり、少年を指さす。

「ところで、この人は誰なんですか?」


「未冬さんの言うとおり、彼は元海賊よ」

 レオナは少し困惑した表情になった。

「でも、今朝から技術開発部の所属になったの」


 あの、まったく状況が理解できないんですが。


「この男の、パワードスーツや重装歩兵を復元した能力を買ったのだ」

 特に、あのパワードスーツは軍事博物館にあったもので、もちろん動きはしなかった筈だ。それを実戦投入可能なまでに修復し、さらに電子偽装まで施している。

 確かに並大抵の技術でないのは未冬にも分かった。

 まあ、それも結局、未冬がぶっ壊したのだが。


「これは相手が悪かった、というか、もう運が悪かったと言うしかないですね」

 レオナが肩を小刻みに震わせている。

「こいつがランチャーを構えている正面に、のこのことパワードスーツで出てくるなど、なあ」

 どわははは、と二人で爆笑している。


「まさか自動照準なしで撃ってくるとは思わないだろ。しかも、こんな艦内で」

 彼はあの海賊集団では、技術担当兼作戦参謀的な立場だったらしい。

 技術開発部に協力する見返りに、自由行動を許されたのだ。


「そういえば、逃げようとしたのは何で?」

 未冬は、座り込んだままのウェルスの顔をのぞき込む。

「ああ。修復方法とか、細かい説明するのに飽きたからな」

 自由だねー、未冬は感心した。

「だったら、わたしも付き合ってあげるよ。わたしも将来の技術開発部員らしいから。ね、いいでしょ教授」


「よし。それではもう少し説明をして貰うとするか。戻るぞ、グリフォン」

「はー」

「じゃあ、未冬さんを揚陸艦まで運んであげて」

 ウェルスが、はあっ? という顔になった。

「飛べないから。未冬さん」

 しぶしぶ、未冬の後ろから手を回す。

「きゃっ」

 未冬が小さく悲鳴をあげた。手が胸に当っていた。

「わ、わざとじゃないぞ」

 ウェルスは赤くなって否定する。


「おおっ、どさくさに紛れて何をやっておるのかのぉ」

「仕方ないですよ、男の子なんですもの」

「そんな。本当に違うんだからなっ!」

「だから揉まないでっ」

「揉んでねえよっ。お前まで何を言う」


「そうか、わしが連れて行けば良かったのだな」

 あー、しまった、と呟いた教授が、またレオナの鉄拳を浴びていた。


「しかし、これで完成型が見えてきたではないか。『零号試験戦闘姫』という難題を描いた、このジグソーパズルのな」

 嬉しそうに教授が言った。

 レオナも頷いて、後方を飛ぶ二人に目をやった。


 ウェルス・グリフォン。彼がその最後のピースだった。

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