第7話 お父さんってなに?~都市空母の結婚事情

「未冬って、お父さんがいるの?」

 フューちゃんことフュアリ・ホーカーが信じられない、といった声をあげた。

「うん、まあ、この前離婚しちゃったけど」

「その、りこん、って何だ」

 変なとこにエマ・スピットファイアが食いついてきた。未冬はしばらく考え込んだ。どこから説明したものか。

「じゃあ、エマ。結婚って知ってる?」

 彼女の顔が突然赤くなった。

「ば、ばか。ここは学校だぞ。何言ってるんだよ、そんな卑猥なこと」

 きゃっ、と顔を押さえる。彼女、口が悪い割に可愛いとこがある。

 でも。

「あの。恥ずかしがる理由が、よくわからないんだけど」


 男性の数が極端に少ないこの空母、というか地球では人工授精による出産がほとんどなのだ。だから、未冬のように父親がいると聞くと大抵の人は驚くことになる。

 さらに、結婚と言うことについても、すでに本来の意味は忘れ去られていた。

 人それぞれ結婚観が違う、といえば今も昔もなのだろうが、その言葉の意味すら変わってしまった。

 エマがどんな結婚観を持っているのか分からないが、結婚という言葉自体、ほぼ死語になっているのだ。


「じゃあ、エマが思う結婚ってのを、今晩試してみようかね」

 やめてよ、えっち。と身悶えするエマ。本当にどんな事を考えているのだろう。


「わたし知ってるよ。男の人とね、女の人が裸で、こんな事や、あんな……」

 エマも未冬も呆然とその話を聞いている。

 そ、そうなの、そんな事してたの?

「すげぇ。……そんな世界があったんだ」

「い、いや。それだけが結婚、じゃない、と思うよ。うん、きっと違うよ」

 両親の名誉のために否定したい未冬だった。


「お嬢さん達、エロいお話が好きなんですね」

 見上げると、ユミ・ドルニエが隣に立っていた。

 噂のハーレムの主。優しい、悪魔のような笑みを浮かべている。

 いや。これは未冬の偏見かもしれないが。

 もしかしてハーレムへのご招待、なのだろうか。


 そんな訳がなかった。

「地上科の人たち、次はシミュレータ訓練でしょ。行かなくていいんですか」

 はっ、と三人は立ち上がる。

「やばい、時間ないよ。怒られる。行くよ、未冬。あんた、とろいんだから」

 エマは未冬の手をとると駆けだした。

 未冬は彼女が掴んだ手首を見て、にへっと笑った。

 こういうの、やってみたかったんだ。




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